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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編「再会」

作者: 城井久麻

✳夏のホラー2019 参加作品✳

 実体験が混ざってます。いつか書こうと思っていた短編ホラー(救い無し)です。

✳あらすじ、キーワードをチェックの上、ご覧下さい✳

「この子を連れて行かないで、こんなのいやよ!」サキが看護師になって初めての夏。小児病棟には、泣き叫ぶ母親の声が響き渡った。

 子供を失う親の慟哭はこんなに激しいのか。自身の母親の思い出が甦り、サキは廊下の隅で蹲った。



 二歳のミオと四歳の自分と両親、四人の家族はその夜、団地の子供会が主催する夏祭りに参加した。父親は焼きそばの屋台を手伝っていた。


 町内の母親達の出し物は『スーパーボールすくい』。金魚すくいで持ち帰る金魚を飼えないという家が多く、生き物を大切にすることを教えたい母親達にも不評で、その年からスーパーボールに変更したのだ。


 ミオは目をきらきらさせて、オレンジ色のボールをすくった。ポイはそれで破れてしまったが、ミオには一つで十分だった。大好きなオレンジの飴と同じ色で、飴より大きい。近所の友達のお母さんがタオルでボールを拭いて、ミオに渡してくれた。ミオはすぐにそれを口に入れ、その仕草を見咎める人はいなかった。


 ミオは振り返って自分の母親を探した。姉が引いたくじを開けてやっているのを見つけて、ミオは駆け出した。ミオと母親の間には沢山の子供がいて、内の一人の子の足に引っかかって、ミオは転んだ。赤いスカートが翻るのを、数人の親と子が見ていた。


 周囲の子供達は驚いて、少し待った。でもミオは起きず、下敷きになった足を引き抜いた子供は離れて行った。通りかかった大人がミオを抱き起こし、泣いているなら慰めようと顔を見て、慌てて叫んだ。

「救急車を呼んでくれ!」ミオの顔は真っ青で、白目をむいていた。


 ミオは癲癇があったのか、痙攣発作ではないか、と複数の親達がミオの母親に声をかけた。薬を取りに帰るよう、促す声もあった。ミオの母親はそんな病気はない、と叫んだ。誰も何が起こったのか、どうしたら良いのか分からなかった。


 救急車の中でミオの心臓は止まった。死亡診断をするには解剖が必要だと警察官と医師に説明されたミオの両親は、泣きながら頷くしかなかった。


 ミオの細い気道には、オレンジ色のスーパーボールがぴったりと嵌まっていた。ミオの死因は気道閉塞による窒息死だった。


 警察官は解剖の間に、両親から夏祭りでミオがスーパーボールすくいをしていたこと、時々食べられない物も口に入れる癖があること等を聞き出した。ミオの死は事故死だと断定された。


 スーパーボールをミオに手渡した、友達のお母さんは事情聴取を受けた。彼女はボールを口に入れたのは見なかった、知らなかったと泣いた。


 スーパーボールすくいの後、ミオが転んだ事は何人もが見ていたが、ミオの下敷きになっていた子供は名乗り出ず、薄暗い中では誰だったか分かる人もなかった。彼に聞かなければ、ミオが転倒した理由は分からなかった。


 葬儀後もミオの母親はその子供の事を毎日聞いて回り、最初は丁寧に答えたり同情していた人々も、ミオの母親を避けるようになった。


 ミオの母親は精神科の病院に入院して、退院前の外出中に団地の屋上から飛び降り自殺をした。ミオの父親は姉のサキを田舎の両親に預けると決めて、団地を引き払った。


 翌年の夏祭りは開催されなかったが、翌々年には再開された。広場には子供会の寄付で小さな社が建てられ、祭り前にはお坊様が呼ばれた。お地蔵様に子供達の健やかな成長を祈ってから、祭りを行うようになったのだ。


 二十年近く経って、その祭りを主催する子供会には、お地蔵様の由来を知る人はいなくなっていた。長年祈祷を頼んでいたお坊様は引退し、今年からお参りは無くなった。

 そして、悲劇が繰り返された。



 サキが勤める市民病院に夏祭りの会場から子供が搬送されたが、救急車内で死亡した。

 サキは田舎で祖父母に育てられたが、幼少期に家族で過ごしたこの街に愛着を持っていた。看護学校を受験する時にこの市民病院の付属校を選んだのは、その為かもしれない。


 看護学校を卒業する時に他の病院に就職することもできたが、サキはこの病院に決めた。いずれ祖父母の介護が必要になれば田舎へ戻るつもりだったから、それまでに幅広い知識と経験を積みたかった。救急車を受ける総合病院でのキャリアは役立つと判断したのだ。



 サキは翌日の解剖を待たずに、その子供の死因が『スーパーボールが気道を閉塞したことによる窒息』だと分かった。余りに妹ミオを失った時の状況と重なることが多すぎたから。

 ふと子供の住所を見たサキは固まった。その団地こそ、サキが住みミオと母が死んだ場所だった。二人の笑い声が脳裏に響いた。



 夜勤が終わり、日勤者に引き継いだ途端、師長がサキを呼んだ。

「大丈夫……じゃないわね。そのまま看護師寮には帰せないわ。空きベッドがあるから、観察入院していきなさい」師長の言葉に、サキは首を振りたかった。帰って休みたい、病院に居るのは嫌だ。でも、そうなった。


 サキは小児病院と渡り廊下で繋がる、隣の病棟に入院した。検査結果は大きな異常なし、軽度の疲労と貧血で、点滴を受けて寝ていろと言われた。夜勤明けで半日受診した後だ、サキは食事時間の他はずっと眠っていた。


「そりゃ、眠れないわよね」完全な昼夜逆転だ。サキは寝返りとため息を繰り返していた。真夜中にできることはない。スマホを弄りながら、眠けが訪れるよう祈るだけ。あとは時々トイレに行って、自動販売機のジュースを飲むくらいだった。


「……はぁ」この階で買えるジュースは飲み飽きた。散歩がてら地下まで行こう。サキは上着を羽織り、スマホと財布を手に立ち上がった。

 エレベーターは小児病棟側にある。渡り廊下の向こうで、赤いスカートが翻った。女の子がエレベーターに乗り込んだようだ。

「こんなに遅くに、小さい女の子を一人で放っておいたらダメじゃない」面会か、付き添いの子供かしら。サキは足を速めた。


 エレベーター前に着いたサキは首を傾げた。エレベーターはこの階に止まったままで、動いた様子はない。サキは下向きのボタンを押した。





 いつもの雰囲気(エロ&ハッピー)とは全く違いますが…… 間違えた、と怒っている人がいたらどうしよう、すみません。


ユーザー名 城井久麻 連載作品あり ✳現在完結設定で推敲中です✳


✳R18をご覧いただける方 shirokuma で女性向けの連載あり 興味をお持ち下されば、検索にてお越し下さいませ✳

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― 新着の感想 ―
[良い点]  文章の書き方と実話を元にした点が怖いと思いました。 [気になる点]  続きがあるように感じました。 [一言]  私も夏なのでホラーを書こうと思って書いたら、同じようにホラーを書かれる方…
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