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ゴメンナサイスト 綾重十一  作者: エザキ カズヒト
1. 愚人は語り、賢人は歌い、凡人は笑う
4/16

オクターブの魔女

 舞台中央に矢本が呆然と立つ。

 客席の後方から女子生徒の一群が歩いてくる。髪を後ろで強くたばね、顔の皮膚がやや張っている。


「歌は人類最初の芸術です」


 オクターブの魔女の異名を持つ合唱部部長・郷田薫(ごうだ かおる)を中心に左右に5名ずつの生徒たちが客席の中央に至る。

「人生が歌ならば、すべての街は劇場」

 学内非公式ランキング「どうかしてる美人部門」2位・郷田薫が優雅に手を広げると、そこにいた生徒たちがはじかれたように立ち、テーブルを持ち上げて左右に退避する。

 その空間に合唱部一同が整列する。

「返田さん、わたくしたちは地図歌唱クラブとは音楽性の違いを感じておりました。しかしながら、歌を愛し、人を愛し、志を同じくする方々でいらした。なんと喜ばしいことでありましょう」

 舞台上の返田が照れたように否定する。

「ぼくらは下手な集団です。みなさんのように美しく歌えません」

「歌は心をうつす鏡。愛ある者の歌は月までもとどくでしょう」

 郷田が右手を挙げると、合唱部員たちが体の前で手を組む。


「ご静聴ください。返田さんをたたえる歌」

 郷田のリードで歌唱がはじまる。


 ♪返田さん あなたはいい人

 ♪返田さん 歌を愛する人

 ♪歌いましょう 地図を片手に

 ♪(片手にー)


 豊かな声量に透きとおった声質、全員が左右に規則正しく揺れながらコーラスする。

 姿勢よく、口を縦に開き、はっきりとした発音で歌い上げる。

 生徒たちは突然の歌のシャワーに動揺することも忘れ、ただ彼女たちを注視し、圧倒的な歌声を聞く。


「どう理解すればいいの?」

「芸術家同士は魂がひかれあうんだね」

 綾重がモニターを見ると、コメントは停止している。

 ただ困惑の狭山がメトロノームのように首をふり、収拾の糸口を探している。


 ♪争いは 雲の向こう

 ♪真実は 色あせず

 ♪歌いましょう 虹の橋

 ♪野球部は くさいからイヤ

 ♪(イヤー)


 高い天井の頂点まで空気をふるわせ、場内を声で満たす。

 郷田が伸びあがりながら最高潮に達して、右手をさっと結ぶ。

 やがて音響が消えて、かわりに場内から割れんばかりの拍手がわきおこる。


「歌とともにあらんことを! (あらんことを!)」

 郷田一行は挨拶をして、足早に去る。


 生徒たちは笑って顔を見あわせながら、歌声を賞賛する。


[最高] [最高] [声きれい] [感動] [歌はいいよね] [最高] [楽しかった] [ガラス割れた]


 綾重一派は想定外の美しき妨害を受け、苦笑する。

「ねえ、会場が奇妙な満足感に包まれてるんだけど」

「返田さんに投票して気持ちよく帰りたいよね。流れ的に」

「野球マン、メイクが必要ないくらい負けた顔してるし、負けてほしいし」

 丸谷が勝負を投げたところで、綾重が不敵に笑う。


「じゃあ、ここからはゴメンナサイストの時間だ」


「出るの? 出るの?」

 マコトが目を輝かせる。

 綾重が秘密通信のスイッチを入れる。

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