いざ!決戦!
化け物への距離がどんどん縮まっていくにつれて、その迫力はとても大きく感じられた。
化け物まで、残り数百メートルまでといったところで、「立入禁止」のテープが僕達の行く手を阻んだ。周りには見張りの警察官や自衛隊員もいる。
「どこから近づこうとしてもこんな感じだろ。流石にこれ以上は進めないよ。」
これで彼女がやめてくれることを祈る。
しかし、彼女はそんなことで化け物退治を諦めるようなやつではなかった。
「絶対、突破してやるんだから!」
「待て待て、こっちは2人、あっちは数十人、今のままバッーと飛び出して行っても、捕まって終わりだろ。な!今のうち撤収しよう。」
すると、彼女はムッとした顔を向けて言うのだった。
「私は神様です!数十人程度、すぐ倒す!」
「でも、さっき人間の姿だから、力使えないって・・・」
「・・・」
「凛君、その剣で、倒してきなさい。」
「そんな事したらホントに俺の人生終わるだろうが!」
どうしても化け物退治を諦めない彼女は力を使えなければ別の方法を考えると言い、僕にこんな提案をしてきたのだった。
「見張りの交代をする瞬間にあの休憩小屋に忍び込んで、とりあえず関係者の制服盗んで堂々と行くってのはどう?」
そんなのが、そう簡単に上手くいくわけがないだろうというのが、僕の率直な意見である。
「無理がありすぎないか、しかも誰がやるんだよ。」
「凛君」
即答である。
「いやいや、無理だって。」
「あーあ。なんで、僕達自衛隊員の制服着てんの?」
「そりゃー。凛君がビクビクしながらも私の言う通りにうまーく、盗みだせたからじゃない。」
「簡単に言うけど、ホントに大変だったんだぞ!」
彼女に行け!っと押し出され、その瞬間に見つかりそうになり、人生最大の猛ダッシュをしたら、奇跡的に小屋にバレずにたどり着き、なんと、奇跡的に小屋に誰も居らず、今に至るのである。
「よし!じゃー行こうか!」
「待て待て待て!ホントにこれやるのか?」
「もう、引き返せない事してるの凛君わかってるよね?」
若干目が怖いです。
「わかったよ。」
今回も交代のタイミングを狙って、平然と道を進む。途中、隊員とすれ違ったが、意外にも本当に気づかれなかった。
見張りの位置につく。偶然、今なら誰もみてない。
しれっーと、ロープを潜り、再び全力ダッシュ。
「はぁはぁ・・・ね、上手く行ったでしょ。」
「今日は人生で1番ストレスの溜まる日だ。」
走り過ぎて疲れている。息も上がって、これから化け物退治する体力なんて、もうあるだろうか。
「今日はもうさ、休んで明日にしない?」
「夜のうちにやらないと目立つでしょ!さぁ立て勇者よ。」
何を見てそんなセリフを覚えたんだろう。
僕達の目の前には、微動だにせず、固まった大きな化け物がいる。これは足みたいな役割なのだろうか?触手的なブヨブヨ感をした下部である。
そして、上を見上げる。
「デカイな。これ、ホントに倒せるのか?」
「うん、多分。凛君、剣を出して。」
荷物のふりをして、抱えていた袋から、光り輝く剣を出す。
「よし、じゃあ、その剣、その触手みたいなやつに刺してみて。」
「えぇ〜。そんな事して目覚めたりでもしたらどうするんだよ。」
不安しかないのである。
「でも、誰かがその剣使わないと私の力だせないんですけど!」
怒られた。
「わかったよ、あぁー最悪だ。」
この一撃で死ぬとか奇跡的な事ないかなー。なんて、無駄な祈りをし、僕は剣を化け物に力いっぱい突き刺した。」
ぐちゃり。
「いや、やっぱ音汚ねぇ。」
その瞬間、別の変な触手らしきものが急にこちら側にものすごいスピードで迫ってきた。
あぁ、俺、これくらって、死ぬんだ。やっぱ無理やん。化け物退治。と思い、反射的に目をつぶった。
しかし、いつまで経ってもなにも来ない。恐る恐る目を開けるとそこにいたのは、僕が化け物に刺した剣より、もっと強いであろうピカピカの剣を片手に、僕に向かい笑みを浮かべる女神だった。
「ビビりすぎ。あの程度の攻撃、神モードの私が防いじゃうから。」
「の、のぞみ?・・・」
「どーよ。やっと、信じてくれた?だから言ったでしょ、わたしは・・・」
「のぞみ後ろ!」
シャキーンと何かを切った気がした。
「だから、この程度は防げるって。凛君、真上見てごらん。」
言われるまま頭上を見ると、化け物の大きな目が僕達2人をじっーと、見つめている。
「う、うわぁー!」
「逃げんなって。大丈夫、私がいるから。」
そう言うと彼女は、バッと、空を飛び、化け物の目線と平行な位置まで、上昇した。
そして、化け物のデカイ眼球に大きな剣を突き刺した。
「あああああああああああああああああああ!」
ドス黒い大きな化け物の喚き声が鳴り響く。
そして、化け物の体がみるみる消えていき、その姿が完全になくなった。
彼女がスッーと降りてきた。
「ね!行けたでしょ!」
パッと彼女は自衛隊員の制服姿に戻った。
突然の出来事過ぎて、腰を抜かした僕は全然返答が出来ない。
「大丈夫?凛君。ビックリし過ぎた?」
「あ・・・あぁ。」
「とりあえずずっとこっちいたらまずいよね。早く逃げよっか。」
そう言うと彼女は僕の手を握り、走り出した。待って、腰が、なんて聞いてくれないだろう。
こうやって、化け物退治はあっさりと幕を閉じた。
はずだったのに・・・どうして3日後僕はまた、剣を握ってるのかな?