パーティを二度追放になったSSSランク魔法使いはもう後が無い
「あのですね」
「あぁ」
「……今回は。どうしてクビになっちゃったんですか?」
王都中心、王城の城下町。
ギルドの受付でまだ若い受付嬢がため息を吐く。なんなら娘と言っても良いだろう。
私もそこまで老けてはいないが、設定的にはギリギリ不可能じゃない。
「いつも通り、だな」
「B級までならそんな言い訳でも良いでしょう。でも、あなたは王都本部でも登録者が三人しかいない、魔道士のSSSなんですよ!?」
「そう言われても、だな」
あまり街中は来たくないのではあるが、義務は義務だ。
登録者である私が、パーティを追放処分になってしまった以上。
ギルドに報告をしに来た、と言う次第なのだが。
「普通は、ですよ?」
「うん?」
「あなたほどの腕があれば。お城付きの魔法使いとして、研究とお弟子さんの育成に全力を傾ける。そう言う生き方っだってあると思うんです、なのに現場に拘って……」
そんな生き方はとことんあわなかった。
但し、私は生まれながらに生粋の魔道師だった。
だから。若いときから身体を鍛え、技を磨いた。
もちろん。魔法以外の、だ。
「これだけ拘ってるのに、どうして行く先行く先のパーティからクビになっちゃうんですかっ! どれだけギルドの企画部が、パーティ編成に頭を痛めているか。わかりますぅ!?」
「それは俺の仕事じゃ無い」
「それも私の仕事だと言ってるんです! なんで仕事を増やすんですか!!」
剣士がAランクになった頃、ランク外だった魔道士は何故かDにあがった。
格闘士がAランクになった頃には、なんの修行もしていないのに既にBランクだった。
槍術士がAランクになったとき、既に魔道士はAを超え、Sになっていた。
「キミに迷惑をかけるつもりは無い。……まぁ、相性だってあるのだろうし」
「だいたい、一般的な勇者のパーティなら。強かったらそれで良い、って言うのが大半ですよ? あなたの人格にそこまで問題があるとは思えない!」
「……あってたまるか、失敬な」
通常は、スキルのどれかがCランクの時点でギルドへの登録が、“事実上”義務付けられる。
断っても良いのだがその場合。宮殿から暗殺者を派遣され、スキルのあることが大々的に喧伝され、普通の仕事で働くことはほぼできなくなる。
スキルがバレた時点でもう、モンスターや魔族と戦う意外。無いのだ。
「お城でも主席魔道師のポストを用意するって言ってるんですよ? 今でも」
「私にはそう言う仕事は向かんよ」
「これだけクビになる以上、集団行動の方が向かないのでは?」
彼女がクビの回数を気にするには理由がある。三回、追放処分になったらギルド登録は解除され、王国の市民登録さえ抹消されるのだ。
いくら強力な力を持っていても、モンスターなみに討伐対象になる。
王都に足を踏み入れれば王城の親衛軍三、〇〇〇が敵に回り、フリーの冒険者達もそれに加わる。個人では勝ち目が無い。
「先ずは、クビの原因を探らないといけません」
「まぁ、ここ暫くくらいはのんびりしても……」
「良いわけないですよね? SSSを三ヶ月以上遊ばせていたら、所長以下私まで。全員減給処分です!」
剣士としてはレイピアを使うのが私の戦法であるのだが、これはパーティの女騎士などには非常に受けが悪い。
ミノタウロスぐらいなら掌底一発でケリがつくのだけれど、これもパーティの前衛には受けが悪い。
――魔法使えよ! というわけだ。使ったことが無いというのに。
「いずれ、今日はこれで」
「明日は10時に来て下さい。所長も同席します」
「あぁ、……手間をかけさせて申し訳無い」
Sを超えるようなスキルホルダーは、通常。異世界から来た勇者と組んで、魔族の討伐やモンスターの全面駆除など。軍隊であたるにも問題があるような困難な仕事に当たる。
問題は、今のところ魔王討伐以外の仕事が無いこと。そしてそのための勇者が異世界から召喚されていないこと。
もっとも召喚の時期や人数は、女神様と女神教の枢機卿。その気まぐれの結果なので、この辺はどうしようも無いのだが。
「明日あの山を越えると言っていたな、そう言えば」
ギルドの事務所を出た私は、街の外れで。王都の東にそびえる山々を見やる。
今時分は、山の麓で通過する場所に巣くうモンスターを討伐している頃か。
あのパーティが通った後なら、だいぶ安全になるだろう。
「魔法を、ね」
とにかくどう使って良いのか良くわからないのだけれど。右手の人差し指を伸ばすと一番高い山の、ど真ん中を指さしてみる。
アレが無くなれば彼らの依頼も楽になるだろうな、などと。
……? 一度も使ったことが無いのに、呪文が頭の中に湧いてくる。なんなんだこれは!
「闇よりも暗き黒を纏い、血潮より朱き赤をまき散らすものよ」
「古の人の子との盟約に従い、今ここに、我が力として顕現せよ」
「業火と狂乱、破滅と恐怖。世界の全てを紅蓮の炎へと飲み込め!」
何かしら、いけそうな気がしてくる。
なにがいける、と思うのかは良くわからない。まぁ、最弱の魔法であるので使ってもさしたる問題にはなるまい。
人差し指の前、真っ赤に輝く魔方陣がくるくる回る。
「火炎、法の一、赤熱爆砕!」
真っ赤に輝く光の線が、真っ直ぐ山の中腹と私の人差し指を繋ぎ。そして。
山の中腹に巨大な閃光が膨らむと、大爆発。
光の奔流と爆炎が晴れると、そこにあった山は“無かった”。
「貴様! 何をした!!」
「詠唱はできんぞ! 既に呪縛魔法が貴様を捕まえている!」
「魔法は無力化した! 騎士団、前へ! 捕縛しろ!!」
王宮魔道士と近衛騎士に囲まれた。
私も、まさか最弱の魔法でここまでの威力だとは思いもしなかった。
我がことながら、さすがはSSSと言った具合だ。
「私は、討伐対象になった、……と言うことか」
「魔法の呪縛を受けて、何故喋れる!」
「王国に仇成す逆賊が寝言を!」
そしてSSSならば、並みの魔道士如きの魔法は痛くも痒くも無い。
但しこうなれば、私は討伐される側の人間。
もう、普通の暮らしをすることは敵わず。魔族やモンスターと変わらない。
――ならば、その後はともかく、この場は魔法を撃って逃げ果せるか。
何故か、なんてことは考えなくても良い。
ただ、今ならすごいのがいけそうだ!
「暗黒の中、炎は黒く煌めき、そに佇む誰も顧みることの無い暗闇の王よ」
「汝の力を惜しみなく注げ、我と我が肱がその憎しみの灯火を抱かん」
「我こそが今、その願いを受け、破滅と絶望でこの大地を叩き割らんものなり!」
漆黒の魔方陣が足元に現れると、いきなり際限なく広がっていく。
どうやらこれは使っていけない、いわゆる神殺しの外法の類か。
気まぐれな女神を消し去るのは構わないが、その他は……。
「暗黒の法が最終段、破滅の地平っ!」
俺を中心に世界が分解していく。
受付のあの子を思い出す。
……済まない。私が自身をきちんと把握していないばかりに、巻き込んでしまった。
影響が王国だけで住めば良いのだが、多分無理だな。
どうせ荒廃した世界には新たな女神が降臨し、異世界の勇者に世界を平定させることになるだろう。
こんな魔法のある理由を唐突に理解した。
この世界の人間は端から不要なのだ……。