彼女の秘密
その日の放課後、キノウは担任から頼まれた雑用仕事をこなしていた。
授業も終わり帰ろうとしていたところを
『野蛮賀君、どうせ暇でしょ?』
と声をかけられてしまった。
…なんて失礼な言い方なんだ!
と怒鳴ってやりたいくらいだが、キノウは図書部、やることといったら昼休みの本の貸し出しくらいだ…ダメだ言い訳が思い付かない。
上手く切り抜けたかったがもう遅い、先生はキノウに年季がはいりホコリの被った山積みのファイルを教卓において
『よいしょっと、これよろしくね、校舎裏のごみ捨て場まで。』
と言って教室を去っていった。
『えっ?マジで?』
細身のキノウにとってその量はキツく腕など血が上手く通ってないのか、血管が浮き出て赤くなっていた。
『うわっ、いって~こんな重いの久しぶり持ったよ。』
どうにか校舎裏までは行けそうな距離まで差し迫ったキノウは少しずつ達成感を覚えつつあった。
負担がきてガクガクしている足を一生懸命動かしているキノウ、校舎裏はめったに人が通らない所だから良いが、そんな姿他人に見られたら恥ずかしくて仕方がない。
(早く終わらせよう。)
山積みになりすぎて前も見えないまま歩き続けるキノウはふと辺りを見て驚いた、五人ほど体育館裏で戯れていたのだ、人気の少ないこの場所でわざわざここまで来るなんてよっぽどのことがないかぎり来ないはずだ。
目を細めて見るとそこにはカノンの姿があった
しかも他四人はカノンをフェンスを背にさせ、囲むように立っていた。
(あの馬鹿アンドロイド何したんだ?)
体育館裏、人気のない所、一対四…これだけ揃えば大体想像がつく、キノウは重いファイルを抱えて心がざわめいた。
予想は的中した、四人のうちの一人のピンク色のポニーテール女子がカノンの肩を掴んでフェンスに押し付けた、勢いがありすぎたためフェンスが大きく揺れる。
『ちょっとカノンさんいい加減教えてよ。』
体育館裏で大声が響く。
『おいおい春ちゃん、それはやりすぎだよ』
大柄な焦げ茶色髪の男子が注意する。
『仕方がないじゃないでしょ!これぐらいしなきゃ答えなさそうだもん。』
春ちゃんと呼ばれているポニーテールの女子はカノンの肩を掴んで離さない。
力が強いあまり、カノンの顔が険しくなってくる。
『いっ、いたい。』
『じゃあ早く教えてよ。』
何度もフェンスにカノンの肩がぶつかる音がする。
キノウは抱えていたフェンスを放り投げ、五人の方へと駆け出した。
(不味い…止めないと!)
彼ら四人の背後から近づいて行き怒鳴り付けようとしたが、キノウは耳を疑うような事を聞いてしまった。
『ねぇ、あんたほんとはアンドロイドじゃないでしょ!』
一瞬キノウの回りの時が止まった。
『何を…言ってるんだ…』
状況が上手く理解できていないキノウはその場で立ち尽くしていた、そもそもカノンがアンドロイドじゃないってことは薄々自分でもなんとなく気づいていたことではあるが実際に事実となると受け入れがたいものがある。
『そ、それは…』
口ごもる下を向いていた顔を上げた時カノンはキノウと目があった。
驚いた顔をしたがすぐにまた下を向いてしまった。
だが耐えきれなくなったのか突然ポニーテール女子の手を払いのけて走り出した。
『あっ、ちょっと待ちなさいよ。』
ポニーテール女子が追いかけようとしたところを水色のボブヘア一の小柄な女子が止めた。
『春ちゃん、そのくらいにしよう。』
行く手を阻まれた、ポニーテール女子はやっとカノンに対する執着心をやめた。
『また今度聞こう、俺たちも研究施設に帰るぞ。』
ずっと無口だった紫色の髪の男子が三人に呼掛け、去っていった。
『私たちも行こう、春ちゃん、寒ちゃん。』
水色のセミロング女子と他二人も紫髪の男子に付いていった。
『ど、どういう事だよ…あいつら何者なんだよ、さっき研究施設に行くって言ったよなだったらあいつらもアンドロイド…いやいやいやその前に…オオサキがアンドロイドじゃないって…じゃあなにもんなんだ。』
今まで疑いは持っていたがそれはあくまで、アンドロイドなんだと頭のどこかで認識しての上だった。
それが一気になくなり、カノンに対する疑問は増すばかりだ。
校舎裏に微量の寂しい風が吹く。