方向性の違う全力
ネット小説大賞六
『どうしてか?…ですか?』
カノンは首を傾げパッチリとした目でキノウを見る。
左の頭部から顎の位置まで垂れる前髪がヒラヒラと揺れその可愛らしい笑顔を引き立たせる。
流石の無表情を貫いたキノウもこれは顔を背け赤らめる。
『そうだよ…上の名前ならともかく下の名前なんて言ってなかったろ…。』
まだカノンを直視出来ないキノウは窓側を向きながら聞いた。
『そんなの当たり前じゃないですか~』
カノンは手前で両手を拳にし、横に小刻みに動かす。
『友達の名前なんて覚えるのは当たり前の行為です。ですから私は徹夜して全校生徒の名前全てを覚え、さらには先生方のあれやこれやのゴシップをムフフフ~』
舌なめずりをするようにカノンは手の甲を唇へ当てる。
(なんかこいつ想像を遥かに越えてやばくね…)
キノウはカノンの異常な程の態度、行動に恐怖心を覚えた。
『まだまだ情報が不十分です。今のところ校長先生がヅラというくらいしか…』
『かなりでかいよそのゴシップ!始めて知ったわ。』
所持していた情報のあまりの大きさにキノウは思わず声が出てしまった。
『学校の為にも全力を尽くします。』
カノンは胸の前に拳を引き寄せた。
本人はなんともないだろうがいくらアンドロイドとはいえ実物となんら変わらないその大きな胸は寄せることによりさらに強調されていく。
(くっ…⁉こいつわざとか?…)
キノウはこの行動を正面から見ていたため他の人達よりもその光景をはっきりと見てしまった。
今は先生達が職員室に収集され全クラス自習の時間が与えられた。
カノンによる意識のない攻撃は教室中の空気を一変させる。
『そんなワケわかんないことに全力振り絞らずにさ、ほらお前アンドロイドは俺達学生から色々学ぶために来たんだろ?そっちに力入れろよ。』
脱線しまくりのカノンの全力のベクトルをキノウはどうにかして生徒に向けようと試みる。
『はっ⁉そうでしたそうでした、ついうっかり。』
カノンは自身のこめかみの部分に手をグーにして添え、テヘッとでも言わんばかりに唇から舌をペロッと出す。
他の人ならこれでイチコロだろうがキノウはそんな事にここ揺らがず
『うっかりじゃねぇよ‼』
と突っ込みのようなドなり声のような言葉をカノンに言った。
ここに人間とアンドロイドの漫才コンビが出来かけようとしていた。




