アンドロイドとの出会い
ネット小説大賞六
談笑が飛び交う教室の中、キノウは一番後ろの窓席で本を読んでいた。
(この本も違うか…。)
夢の中に出てきた茶髪の少女をより詳細に表現したいと思っていたがどうやらこの本はその手助けをしてくれなさそうだ。
諦めて窓の方を眺めて空を見上げる。
光は波長によって色が変わってくる。
地球の大気が太陽光を散乱いわば様々な方向に反射することによって色が決まってくる。
赤色よりも青色の方が波長は短いため空は青く見える。
『…夢の空はこれよりも良かった。』
ふと空に物足りなさを感じ声を漏らすキノウ。
この騒がしい教室の中、心なんてこれっぽっちも休まらず辺りとの温度差を覚え、騒音を掻き消すかのごとくキノウは鼻唄を歌った。
『ホラー!皆席について一』
担任の先生が教室に入ってきた、それと同時に教室の生徒達は一斉に自分の席に戻っていく。
ここまでだったらいつもとなんら変わらない日常風景だったが今日はいつもと違う…担任の先生の背後から何やら人影が見えた。
そのイレギュラーな出来事にキノウは違和感を感じた……。
(一体誰だ⁉)
キノウは疑問を抱くと共にこれまでにない事に不安を拭えない。
教室の外で立っているその人は普通の人とは違うひと際目立つ雰囲気を漂わせる。
(まさか!?あれが今朝言ってたAI搭載のアンド…。)
『それじゃあ、入ってきてくれる一一?』
キノウが言い終わる前にその人は担任の呼びかけに
『は一い!』
と入ってきた…茶色の束ね髪に薄いピンク色のたれ目で満面の笑みを浮かべた女子生徒が大きな返事をしながら教室の中へ入ってきた。
ほんの少ししか動いてないはずなのに一歩一歩進んでいく度に揺れ動く胸部…。
(…目のやり場に困る。)
教室内の男子だけじゃなく女子までも際どい空気になる。
そんなこととは露知らず明るく活発な少女は元気良く自己紹介を行った。
『初めまして、本日ここ立山高校に通うことになりました、大崎 華音【オオサキ カノン】で~す。あれれ~?皆元気ないぞ~張り切っていこ~!』
一人だけ場の雰囲気をわきまえずハキハキと喋る少女一一オオサキ カノンは肝心な説明をすっ飛ばしたデビューを飾る。
『ちょっとちょっとオオサキさん!大切なことを言ってないわよ。』
慌てて担任がフォロ一に入った。
『皆も知ってると思うけど我が立山高校は政府のAIを搭載したアンドロイドの指定校に任命されました。このクラス以外にもオオサキさん合わせて五体のアンドロイドが生徒という形で編入してきました。この子達は人工知能で皆さんの会話や行動を覚え学んでいきます。くれぐれも変な言動を教えないように。』
と担任の説明があったがキノウにはそんな事耳にも入っていなかった。
とにかく夢で見た女の子と照らし合わせるのに必死だったのだ。
(髪の色は似ている…目もともどことなく似てる…だけどそれ以外は全くもって類似したところがない。それに俺はアンドロイドに知り合いなんていないぞ!)
普通の人間ならまだしもアンドロイドとなると最近生み出されたはずそれならばもっとキノウとは縁がない。
少しの期待を抱いたがはかなく散り愕然とするキノウ一一思わずため息をつき前屈みになっていた上体をイスに近づける。
そもそも何故最近見るようになった夢にどうしてここまで執着してしまうのか…
あの夢で見た世界は一体…
あの女の子は誰なのか…
そして自分とはどういう接点があったのか今だ謎だらけだ。
以前見たような見なかったような…そんなはっきりしない疑問にキノウは平静を保てない、貧乏ゆすりをし、腕を組み合わせ悩み続ける…。
『それじゃあ、ヤバンガ君の隣の席空いてるからそこに座ってくれる?』
担任がカノンにキノウの隣を指差して言った。
(な…⁉と、となり…。)
『オッケーです。』
カノンは担任に向かって敬礼をし、こちらの一番後ろで窓側の方にスキップをして近づいてきた。
(まぁアンドロイドとはいえどうせ見た目通りの奴だろう…適当に話合わせとけば良いさ。)
キノウはカノンには目もくれず頬杖をついて正面を見る。
机のホックに荷物を掛けイスに座るカノンは始めての教室の空気にそわそわしていた。
『キャ一一!?これが夢にまで見た机、そしてイスなのね!』
あまりの気持ちの高ぶりに一同驚きの目を向ける。
(うるせぇ‼落ち着きやがれ!)
キノウは関わらないように正面を向いたままだ。
満足のいくまではしゃいだカノンは突然キノウの方を見た。
『本日をもってお隣の席になりました。オオサキ カノンです。以後よろしくお願いします。ヤバンガ キノウ君』
今度はキノウに敬礼をした。
『宜しく~』
不機嫌なのかかなり雑な返事をキノウは返した。
そもそも誰かと言葉を交わすこと事態久しぶりだ。
だが、そんな返事の事よりもキノウはカノンが言った言葉に疑問を感じた。
『ちょっと待て…お前なんで俺の名前知ってんだ?』
上の名前ならともかく下の名前なんて担任でもましてや他の生徒も言っていない。
『へへっ』
とカノンはキノウに満面の笑顔を披露した。