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彼女の瞳の奥の景色  作者: 倉根 敬
18/20

瞳の奥に呼び掛ける

『ねぇパパ、はやくはやく!僕に妹ができたんだよ、急いでいかなきゃ。』


『一一キノウ、危ない!』


俺がまだ小さかった頃の記憶……。


今でも鮮明に覚えてる……忘れようにも忘れられないずっと脳みそにこびりつく最悪の思い出、俺が……、俺が……パパを……父さんを殺してしまった一一一一。


嬉しさのあまり、当時、赤信号だったのに……トラックが来ていることにも気づかず横断歩道を走っていってしまった。


それを庇おうと身を呈してくれた父さん一一一一。


あの時、ちゃんと信号見ていれば……父さんの忠告にも耳を傾けていれば……。



母さんにも、カナハにも大変な思いさせなくて済んだのに……。



『幸せを……新しい生命を授かったのに……どうして……。』



父さんが死んだと知った時、赤ん坊だったカナハを抱いたまま泣き崩れた母さん一一一一。




全部……全部、俺が悪い……。


ごめんなさい……本当にごめんなさい……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



夢に対しての恐怖と汗だくで息苦しかったことで深夜に目が覚めてしまった。


『今頃、こんな夢見て……最悪だな。』






額の汗を拭い、薄ら笑うキノウ一一。


最近に見た、夢の中での自由な世界一一一一

もしかすると、自分自身がこの現実から解放されたいという願いから見ていたのかもしれない。





過去は変えられないが、過去から逃げることはできる、ひたすらに後悔のあったいつかの日を忘れてしまうには、思い出せなくしてしまうには、やり方は簡単……何かで頭を一杯にしてしまえば良い。



その後悔の入る隙がないくらいに何かに没頭し続ければその過去はまるでなかったかのように、実はただの悪夢であるかのようになっていく一一一一



(もしそれが目的だったら俺は最低のクズだ。

カノンをダシにして、自分がさも人のために人事を尽くして頑張ってるんだとでも思って良い人気取りかよ……。)



その自分への怒りは時が経つほどに増していき気が付けば手を握りしめ爪が肉に食い込み、血が微量に腕へと垂れていた。




『チッ、絆創膏貼らないと……。』




ちょうど、喉も乾いていた頃合いだった。布団から起きあがり、襖を開けて隣のカノンが寝ている筈の部屋へと移動する。




するとどうだろうか、襖を開けたとたんキノウの眼に映ったものは月明かりに照らされ、ベランダで月夜の空を眺めるカノンの姿はがあった。



『カノン、まだ起きてたのか?』


『キノウ君、その……眠れなくて。えヘヘヘ。』



頬を人差し指で掻きながら照れくさそうに笑うカノン一一。

僅かの時間ではあったが間があり少々違和感キノウは感じた。

カノンはキノウから何か赤いものが流れ出ていることに気がつくと、急に表情が変わった。



『キノウ君! 血が一一。』


『ん?……ああ、大丈夫、ちょっと畳で怪我ししただけだから。』



『そう……ですか。』


キノウはカノンに心配をさせまいと急いで救急箱を取り出して包帯などで応急措置を施す。


やることを済ますと、コップを二つに水を注ぎカノンの隣に座ってから片方のコップを差し出すがロボットは喉乾かないと断られてしまった。



『お前……ずっと月見てたのか?』



『はい、月好きなんですよ。』



『ふ一ん、そっか。』



『そういえば、どうしてキノウ君、今朝あんなに黙り混んでいたんですか?』



『どうしてって……お、お前に……怒られたから……。』



『私、怒ってなんかいませんよ。』



『嘘つけ、あれはかなり怒ってた。』



『それはきっと気のせいですよぉ。』



『一一一一。』




やはり、辺りが静まりっているからか、真夜中だからだろうか、少し緊迫感を感じてならない。何故か、カノンが束ねた髪も降ろさずにいることに疑問も晴れぬまま何か話題作りの為に必死に頭を捻る。


これまでと違って何とも言えない雰囲気に流され洒落た言葉でも言えないかと余計な考えに及ぶ。






『何でしょうか、こんなにも静かだと自分が生きてるのか死んでるのか分かんなくなっちゃいますね。』



突然の事だった、カノンから口を開いた。その場の空気をそのまま言ったような感じではあったが、その言葉はキノウには返事をすることではなく、カノンの今の心情が何となくだが分かる気がした。






『お前さ、死ぬの……怖くねぇの?』






いきなりではあったが、この疑問はこれまでのカノンの振舞いを見ていて毎度のように思っていた事だった。

その問いかけに驚きを隠せない表情をするカノンは平静を装おうと懸命になるが出た言葉は意表を突いた、理解しがたいものだった。





『どうしてですか? 私、アンドロイドですよ? 機械が死ぬ筈ないじゃないですか。』





『お前……なにいってんだ。』





あまりに支離滅裂な返答に戸惑っているキノウ一一一一。




それと同時にカノンの方を見ると僅かだが手が震えているように見えた。





そして、まるで手を握りしめ震えを抑えようとしているようにも見えた。



『そうじゃないんだ……そういうことを言っている訳じゃないんだ。 お前は……お前自身は。』





キノウは目の前のロボットの片方の目に顔を近づけて話を続ける。



『瞳の奥でこっちを見てるカノン自身はどうなんだ? これ、言っちゃったら悪いと思うけど、 お前はもうすぐ死ぬんだぞ。 そんな自分にまで嘘をついてて良いのか?』



(一一一一やっと言えた。


いつもなら陽気なこいつにこんなこと言える機会ないから。

もっと面と向かって言ってやれば良かった。)



キノウが声を張って言ってしまったせいか、

それともこの言葉が心に響いてくれたのか、

全くわからないが確かにカノンの瞳からは頬を伝って流れる涙が一一一一。





『一一一一死に……たくない、

一一一一死にたく……ありません。

どうして、死なないといけないんでしょうか?…………どうして、私だけ……私、なにもしてないのに……何でこんな目に…………。』




それはずっと一緒にいたキノウですら初めて見るカノンだった一一。






どれ程までこの思いを圧し殺してきたのだろうかと思わせられる泣き方だった。




辺りに気を使ってか、今まで溜めてきた思い、感情がたったこれだけの時間で吐き出された為、その声は尋常じゃないほど震え、怯えていた。



『一一一一カノン。』





『私、やっと会えたんです。 転入してキノウ君の事好きだってやっと言えるときが来たのに……、怖くて、死ぬのが怖くて、たったこれっぽっちしか生きられないことに何度も何度も悔やみました。 だから、せめて最後まで明るくいようって思ってた……はずだったんですけど、やっぱり怖くて夜も眠れなくて…………。』



涙の止まらないカノンの泣き顔はキノウの脳裏に深く、奥深く焼き付く。

この世界に期待していなかったキノウ死など恐れていないなどと考えていたこともあった。




でも、こんなにも命を…………

短命を悔やむにも悔やみきれず泣きじゃくり、どうしようもない自然の摂理にただ受け入れられない少女をキノウは目の当たりにしていた。





『昨晩お前、俺の家族について聞いてきたよな?……』





カノンが泣いているにも関わらず話始めたキノウ一一一一。


そこには一体何の思いがあっての事なのか、それは本人しか知り得ない。



『俺の父さん、事故で亡くなったんだよ……。

俺が赤信号に気が付かない俺を庇って、トラックにひかれちまった。 母さんもあとを追うように俺とカナハ置いて死んじまった。

その日から俺、自分を責めるようになって……、自分が死ねば良かったのに……って何度も思ったよ。



どうして俺を…………。

いくら自分の子供だからって、代わりに死ぬくらいの価値、俺にはないだろって考えてた。

そして、毎日のように願ったよ……全責任を放棄できるのならこんな命、くれてやるってさ。』




キノウも父や母を亡くしたあの日からの思いの丈を全て吐き出した。


思わず、キノウの頬からも何やら水っぽいモノが瞳から流れてきた。



『でも、悔しくても心の時間は止まったままなだけで、なにも進まない、なにも生まれないんだ。

死ぬのが怖いって?…………それは皆そうだ。


俺だって、俺だって一緒だよ……。誰だっていつまで生きれられるか、わからないんだ。


もしかすると、明日死ぬかも知らない。

いや、今日という日すら終えることができない場合だってある。 誰一人として先の未来が分かる奴はいないんだ。 だって、保障されているわけじゃないから。


だから、今日という日を、今という今を、無事に過ごせたことは実は凄い事なんだ。それに人は後悔しないように生きることが一番大切だと思う。』




キノウは一呼吸置いてから再び口を開く。




『これ、カノンに言うのは失礼になるかもしれないけど、人生は長さじゃなく、本当そんなんじゃなく、その人が死ぬまでにしてきたこと一一一一つまり生き様だ。 死んだあと、天国でどれだけ胸はって自らの生き様の良さを語れるかだと……思う。 ごめん、一人で熱くなって。』





『いいえ、全然。』






『以外』……。


カノンには今の光景はそう捉えられた。

なんせ元々、物静かで根暗だったはずの ヤバンガ キノウがここまで真剣に人の為に励まそうと必死になっていたからだ。





この姿は決して滑稽なことでも、ましては情けないことに当てはまらない彼自身の良さの1つだろう。






『キノウ君、変わりましたね。短い間に、その……良い意味で。』




『ちょっとお喋りになっただけだろ。』





キノウはカノンからの誉め言葉に素直になれず、照れ隠しの為に謙遜する。





『でも、人に勇気を与えてくれるお喋りに感じました。』





『……勇気を与えてくれる?』







『確実に私はキノウ君に勇気を貰いました。』




『俺がお前に一一一一。』





どうやら、キノウも以外だと感じたらしい、自分が他人に力を与えたとは夢にも思わなかったようだ。







『キノウ…………君。』


カノンがキノウを改めて呼んだ。





『どうした一一。』







視線を下にそらし、モジモジするカノン一一一一


『その…………好き。』





それだけ言うと、カノンはキノウの胸に自分の顔をうずめて、床に倒すようにもたれこんだ。

結果、キノウはカノンをうまく支えきれず、自分の背中を床につけることになった。






『一一一一!?』



その不意打ちに心臓が早まり、激しく鼓動が鳴り続ける。

今、一回一回の脈打ちが自分の血液を循環させているのが分かる。







(今までにこんなカノン見たことない。

これまでで一番可愛い一一一一

っていうかどうしよう、心臓がバクバクだ。

これたぶん気づかれてるよな……。)






まだまだ、突然の緊張感が抜けないままカノンはキノウの耳元で囁くように呟いた。





『キノウ君は……その……もう寿命も短く、すぐにこの世からいなくなる私でも……すきになってくれますか?』






一生懸命、勇気を振り絞って言えたのだろう、声も震え、不安と戦いながら言った告白にキノウの答えは一一一一。



正直、キノウの心の中では自分の想いは隠し通そうと考えていた。

残りわずかしかない命なのにここで思いを伝えたら、彼女が亡くなったときに自分は一人一一一一





後悔の念に襲われながら生きていかなければならなくなると一一一一そう考えていた。






けど、これは……この告白はカノンが今まで思ってきた思いの一つであることは間違いなかった。






『良いのか?……俺で……。』





『キノウ君の他に誰がいるっていうんですか?

あなた以外私を幸せにしてくれる人、探してもいませんよ。 それに、傍に一番いたいのはキノウ君一一一一ただ一人ですから。』







『そこまで、俺の事一一一一。』






自分自身にここまでの思いを募ってくれたのは人生でも右に出るものはない。

決してこれはそこらの誉め言葉とは比べ物にならないくらい価値がある高価なもの一一一一。

お互いを思い合えるなら……答えは迷うまでもない。






『カノン、ふつつか者でどうしようもなく馬鹿だけどよろしく頼む。』






キノウが精一杯の返事をカノンへ伝えた。

カノンは優しく微笑んで一一一一





『一一一一はいっ。』






背後の朝の日の出と共ににこやかに笑うアンドロイド一一一一。





ここまで幸せな顔をしたロボットは世界中どこにもいるはずがない。






一一一一こうして、俺は大事な、笑顔を守るべき人ができた。










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