初めてで始めての不安
『ごめんなさい‼』
『……へっ?』
『昨日はあんな酷いことしてしまって本当にごめんない』
ピンク髪の女の子は深々とカノンに頭を下げ、反省の意を込める。
昨日の出来事など嘘かのような振る舞いに慌てるカノン自身はどう対処すればいいのか困り果てていた。
『え一と、え一と……、と、とにかくですね、まずお頭をお上げてもらってよろしいですか?』
自分でも言葉遣い、自身が何を言おうとしてるかすらわからなくなっている始末だった。
玄に日本語がおかしい事に気づいていない。
しかし、この場にいる誰も指摘しない、それすら阻まれるかもしれない、それほど緊迫した空気だった。
『いくら、カノンさんの正体を知りたいからといってあそこまでする必要はなかったわ。とんだ失礼をしてしまいました。どうか許してください。』
自らの非を認め、許しを乞う姿には本気だととれ、同時に誰もが不問とするような場面で彼ただ一人一一ヤバンガ キノウは不満げな顔でこの場にいた。
『人をフェンスにぶつけ、痛い目合わせといて今度は許してくださいってかよ。都合がよろしいようで。』
頭を下げている者に怒りの矛先を向け、睨み付けるように眉間にシワを寄せるキノウ。
たが、いつもなら陽気なこの件の当事者が口を開いた。
『キノウ君!そこまで言うことないです。それにこれについてはキノウ君全く関係ないじゃないですか!勝手に口を挟むのはやめてください。』
(カノンが俺に怒った……。どうして……俺はカノンのために……言ったのに……。)
そう言うとカノンはずっと頭を下げ続ける女の子に優しく言葉をかける。
『もう良いですよ、済んだことですし。顔を上げて下さい。私も四人には言わなければいけない事だったはずなのに黙っていてごめんなさい。やっぱり皆さん、私の事知りたいですよね。』
カノンから許しを得た女の子は顔を上げ、小さな声で『ありがとう』と言うと後ろにいた他の三人の間に入っていった。
しばらく、間が空くと今度は水色のセミロングの少女が前に出て本題に入ろうとした。
『毎度毎度、ごめんなさいオオサキさん、私達はただ貴女の真実を知りたいだけなの、それを知れたらもう関わったりはしないわ。それに無理と言うならば下手に聞こうとはしない。もし、教えても言いと言うのなら是非聞かせてほしいの。』
『分かりました。学校内ではさすがに言えないので出来ることなら放課後また教室にいらしてくれませんか?』
『放課後ね、分かったわ。それじゃあ、後程。』
そう言うと、彼らは各教室へと戻っていく。
どうやら、話は通じる者たちのようだ。
しかし、キノウは一番聞きたかった事を、確認したかったことを聞き忘れていたことに気づいた。
先ほどカノンに叱責をくらい喋りづらい所ではあったが聞いておくべきであることには変わらなかった。
『ま、待ってくれ、お前たちはこの学校のアンドロイドで間違いないんだよな?』
キノウの問いは四人全員には届かなかったが、最後尾を歩いていた紫の髪で右目を隠している少年が振り返り短く質問に答える。
『そうだ。』
それだけ言い、前を向いてまた歩いていった。
(やっぱり、アイツらで間違いないんだ。これで転入してきた連中は全員分かった。でも、どうしよう、カノンに怒られてしまったな……初めてだ、いつもはふざけてばかりの奴なのに……そんなに俺、悪いことしたのかな……まずいなこの先何て言えばいいのかわかんねぇ。)
一人で悩んでいる最中、カノンからは少し声のト一ンが低い言葉が投げ掛けられる。
『私達も教室に戻りましょう。』
『お、おう……。』
独りでに廊下を歩いていき、置いていくように見えるカノンの後ろ姿を見て、焦りと不安、疑問が心の中で入り乱れ、混沌とする。
これから、気まずい、重苦しい中で一日を過ごさないといけないのかと思うと憂鬱で仕方がなかった。
特に思い人にこのような態度をされるのはどんな人でも辛いものだ。
しかも、長年、友達のいないキノウにとって友達に謝ることなど経験したことのないシチュエーションだった。
(どうすりゃいい……誰か……誰か教えてくれ……。)
胃が痛くなりそうな思いになりながら、カノンの後ろに付いていくキノウ一一。
カノンが他のクラスメイトと喋る時と放課後が来るまではこの沈黙に耐えなければいけないのかと、考えただけでも胃への負担は増していく一方だった。
そして、朝一番の授業と共にカノンとキノウのシンと静まり返った関係は長く続いていった…………
一一一一約束の時間は午後4時30分となっていた。
『もうすぐ来ますね。』
『ああ、そうだな……。』
今は、4時25分一一。
あと5分であのアンドロイド四人組はこの教室に顔を出す。
朝から続くこの気不味い二人の空気はキノウだけが感じ取っていた。
(結局、朝からこの調子だな……。)
独り、落ち込むキノウに気づかないカノンはまだ機嫌が治らず以前、暗い雰囲気を醸し出す。
そんな二人の間に救いの手かのように四人のアンドロイドが時間通りに教室の中に入ってくる。
『オオサキさん、約束通り来たわよ。』
そう言ったのは、謝罪をしてきたピンク髪の女の子ではなく、代わりに放課後に待ち合わせるように約束した水色のセミロングの少女だった。
見た目小柄で体育館裏にカノンを呼んだときは引込み思案だと思っていたがいざというときは先陣を斬る性格のようだ。
『それじゃあ、皆揃ったことですし目的の場所へ行きましょうか。』
『目的の場所?』
後方にいた焦げ茶色の髪をした大男が聞き返す。
『私の今の家一一西立山病院です。』
そう答えると、カノンは他の人に背を向け一人廊下を歩いていく。
それに四人は付いていく……だが、独りだけこの状況に疑念を抱く少年がいる。
(俺もいっていいのか?)
その疑問を唯一解答できる人物はただ一人一一オオサキ カノン。
キノウは急いで走っていき、カノンの隣に行くと一言だけ自信なさげに質問する。
『その……何て言うか……俺もいっていいのか?』
『何いってるんですか?当たり前じゃないですか。』
その言葉に深く安堵するキノウ一一。
同時に多少だが今朝よりも自信を取り戻した気になった。
これから四人はロボットの筈のオオサキ カノンが本当は人間であることを知ることになる。




