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彼女の瞳の奥の景色  作者: 倉根 敬
13/20

気づきと懐かしさ

案の定、昨晩から携帯にはカナハからの着信、通知が頻繁にあった。




『お兄ちゃん、いい加減に出ないと怒るよ!』



SNSには怒ったキャラのスタンプとその言葉があった。

今は病院から出てカノンと一緒に学校へ向かっている。

もちろん、アンドロイドの…である。



『キノウ君は運が良いですねぇ。』



これからどんな生活を送らせてあげようか頭を悩ませている最中

こっちの気配りにはお構いなしのカノンは突然話し出した。



『どうしてだよ。』



『え~、だって現役女子高生と夜を共にしたんですよ、思春期真っ只中の男子にとっては最高だったはずです。』



『そんなわけないだろ、例えそうでもお前は違う。』



今朝とは打って変わって上機嫌、お調子者に戻っているカノンに若干の戸惑いを感じる。

げんに、カノンにどうしてあげたら良いか考えること事態今までにないことなのだから無理もない。



『そ、れ、と、やっぱり私はお互いに下の名前で呼びあった方がいいと思うんですけど。』



『し、したの名前で!?それはいくらなんでも関係が怪しまれるだろ。』



『何の事言ってるんですか?ただ、下の名で言い合いましょうって提案しただけなのに』



クッソ、しまったつい考え事に没頭していたら余計なこと考えてしまった。

学校の青春っていったら、やっぱ恋愛かって連想してしまったらつい意識してしまう。

友達がろくにいなかった事がこうも仇になるのか。


恋愛もしたことなかったからな、いや、正確には成功した恋愛がなかったのか。

小学、中学と恋はしたけど全て片想いだったし、直接告白なんてしたことないしな。



SNSで告白したことしかないし、したあとそれを学年の連中に回されて、晒し者にされたしって本当に大変だった……あっ、俺、恋愛エピソード散々だな。



逆に誰かに助けてもらいたいくらいだ。

くたばれ俺の黒歴史

いたたまれない思いを感じつつ、カノンの方を見る。



顔は…悪くない。



ついこの前までカノンの胸の大きさでいろいろ言ってきたのに、そんなことは二の次になってしまっている。


それよりはカノンの一つ一つの、一分一秒の表情の方が気になる。


にこやかに笑う横顔を俺は最期まで守ってやれるだろうか。

良い人生だったと言わせてあげられるだろうか。

今後に対する不安と疑念が押し越せる。

決して義務でもないのに、放り出しても良いのに、どうしても手放したくない、何かが確かにそこにあった。



『キノウ君?』



『ふぇ?』



うわ、またやってしまった。

思わず咄嗟に出た言葉が突拍子もなくおかしな返事だった。

恥ずかしい。



『何、気の抜けた返事してるんですか、可愛い…。』



キノウの下を向いた顔を覗き混むように腰を屈めて微笑みかける。

一緒にキノウの心の何かが肥大化してる気がした。

それと同時に妙に懐かしさも感じる不思議な感情だ。



何故だろうか…、一体どこでだったか、思い出せない。



どことなく中学時代の友達とかとばったり会った時の感覚に似てる。

そうこうしてるうちに、目の前には、立山高校の正門が待ち構えていた。



『なぁ、カノン……。』



『…?、どうしたんですか、立ち止まって、もう学校は目の前ですよ。』



『…俺とお前、どこかで昔…会わなかったか?…』



五月の涼風が木々を揺らし、茶髪の女の子の髪をなびかせ、

もうすぐ来る六月の始まりを知らせようとしている。



『突然、したの名で呼ぶなんて、まったくキノウ君は大胆ですね。』



もう、お前が言ったんだろなんて言える余裕はない。

『ええ、そうです。キノウ君、私と貴方は小学校が同じだったんです。』



『でも俺、オオサキ カノンなんて覚えてないぞ。』



『私自身、学校に来る事があまり無かったこととキノウ君とは小5の時だけ同じクラスだったんです。当時、眼鏡かけ、車椅子に乗ってたのによくわかりましたね。』



覗き混むように見られたとき、懐かしさを感じたのは車椅子に乗っていたからか…。



『とにかく、昔の事より今が大事です。行きましょう。』



カノンがキノウの右手を掴み強引に引っ張る。



『ちょ、強く引っ張りすぎだ。』


『早く教室に行って話しましょうよ。』



カノンが後ろを振り返り、こちらに笑いかける、これほどまでに笑顔の似合う人がいるだろうか。

少なくとも俺はカノン以上の奴を見たことはないと思う。




死なせたくない、悲しませたくない


折角貰った命をこいつと共に消費していきたい


こいつと共にいたい


カノンと共にいたい


少しずつだが、カノンとのやり取り、一緒にいる毎日が悪くないと感じていた

むしろ、もっといたい


彼女の笑顔を間近でいていたい


ここまで来たら認めるよ


俺は惹かれている


俺は魅了されている




俺は……カノンに恋をしている。







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