新たなる決心
キノウが目を覚ました時辺りは朝になっていた。
普段なら妹が起こしに来てくれるのにどうしてだろうか?
と違和感を感じて逆に起きてしまった。
すると何やら誰かに頭を撫でられている感じがした。
ほのかにアロマの香りがして、顔を上げると細く小さな手でキノウの頭を撫でるカノンの微笑んだ笑顔が目に映った。
『おはようございます。』
『許可もなく、人の頭を撫でるとか失礼極まりないぞ。』
『そこに頭があったので、つい』
『名言みたいだな』
朝日に照らされ、髪を耳にかける少女はこれまでとは違う新鮮でもあり、同時に寂しさも感じさせる。
どうやら、いつのまにかカノンの病室で寝ていたようだった。
床に座り、頭をベッドにのせて寝ていた。
現在時刻は午前6時ちょうど。
昨晩のカノンがアンドロイドではなく、人間だと知ってから色々と頭の中がごちゃごちゃしてしまい異例の6時起きを成し遂げた。
カノンはいつもと昨晩の事があったにも関わらず以前明るく振る舞った。
見た目明るくしてるけど、もうこいつは余命が長くないんだよな……。
本当は泣きたいはず、まだ若いのに…これからやりたいことたくさんあるはずなのに…
『あまりに可哀想過ぎるだろ。』
生身の体でいろいろしたいはずなのにこんな狭い病室に閉じ籠ることしかできないだなんて…。
『…お前さ』
『、…そんなロボットの体でじゃなく、そこに寝てる体では外に出たりできないのか?』
『フフフ、してみようと頑張ったことはありますが長く続きませんでした。
何分、長い間外なんて出てませんから陽射しがあると立ち眩みをしてしまいます。それに癌が転移してるのでは体の至るところで支障をきたしてます。』
『無理ってことか…。』
何か…、何かコイツにしてやれることはないのか。
生い先長くない、生まれてから外になんてろくに行ったことない、学校生活なんてまともにしたことのない、普通の学校生活を送ることさえしたことのないオオサキに俺は何ができる。
『キノウ君…そこまで気を張つめないでください。私は今のままで十分幸せですから。』
そんなわけないだろ…
無理してることがすぐに分かる。
何か…何か…してあげたい。
すでにそこには、今までの世界に敵対心を向け、滅ぶことすら願うキノウの姿はなかった。
そこにはただ一人の余命僅かな少女のために尽力しようとする少年一一ヤバンガ キノウの姿があった。
ああくそ、何も思い付かねぇ、大体俺自身も大して友達と何かした覚えないってのに。
振り返ってみると、どんなときでも友達と呼べる相手なんていなかった、別に要らないなんて考えてきたけど正直そんなの嘘だ。
自分に言い聞かせて、俺は一匹狼だの孤独が良いだの言って誤魔化してきただけだ。
友達って相手から言われたの…生まれて始めてだ。
正直嬉しかった。
心のそこから喜びを表現したかった……コイツの前ではしないけど。
とにかく、せめてオオサキに一矢報いるべきだ。
今の俺にできること…それは
『オオサキのそばにいてやることくらいか。』
『どうしたんですか?突然。』
『いや、何でもない、さっさと学校行くぞ。限りある時間は大切にするべきだぜ。』
『キノウ君、格好良いこと言いますね。』
『うるさい…』
少し照れ隠しに床に視線を下げる。
不意打ちのように言った何気ない一言はキノウであれ、思春期の少年には効果抜群だ。
それと同時にキノウの中に一つの決心した思いが芽生える。
オオサキに期待はずれな思いはさせない。
勝手な思い上がりだと言われてもいい。
オオサキにとってこれから起きること全てが学生時代の思い出であり、人生最後の思い出になるんだ。
悲しい思いで死なせるわけにはいかない誰だって笑って死にたいさ。
人生笑えるほど悔いがなく、楽しかったって思ってもらいたい。
後悔する人生なんて送りたくないだろ、例えそれが死ぬ寸前であろうとも。
笑われたって良い、元々世の中の風潮は気に食わなかったんだ。
どう思われようが知ったことか。
オオサキ、俺が必ず最高の学校生活にしてやる。
その時、世界が確かに違って見えた。
目的を持って生きている人はこんな感覚になるのか。
今日が俺の生まれ変わった最初の日だ。




