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彼女の瞳の奥の景色  作者: 倉根 敬
11/20

二人の彼女


驚いた一一




このような事態、一体誰が予想出来ただろうか。

今までアンドロイドだと思っていたクラスメイトに病院へ連れてこられ、夜の病院内を歩き着いたところは自身の病室だと言い現れたのはアンドロイドである筈のカノンではなく、キノウと同じ生身の人間だった。


キノウはただ立ち尽くしていた。

未だ状況が理解できないでいる。


(なっ…そんな…えっ?…どういうことだ⁉)


ベッドで寝ていた本物のカノンは照れ隠しのように耳にピンク色の髪を掛ける。


『……突然、言われても分からないよね。』


『いえいえ、こちらこそいきなり病室に入ってしまって申し訳ありませんでした。すぐに勝手に寝だした馬鹿連れて出ていくので。』


『えっ?…』


カノンはキノウが理解できていないという前に自分自身がその勝手に寝だした馬鹿であることに全く気づいていないことに仰天した。



『違う、違う、私がオオサキ カ…』


『ほら、なに寝てんだよ、患者さん困ってんだろ』



キノウはしっきりなしにイスを蹴ってカノンを起こそうと試みる。

動かないアンドロイドはイスを蹴られて少しずつずれ落ちていく。

何度も蹴っているのに起きる気配のないカノンに苛立ちを覚え、彼女の肩をつかんで前後に降り始めた。



『オ~キ~レ~』


『だから、私がオオサキだって~、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ』



大きな声を出してしまったために体に負荷がかかってしまったようだ、手で口元を覆い咳を抑えようとする。

オシハラは咳をするカノンに不安の表情を隠せない。



『あまり大きな声を出さない方が良い、体に負荷が掛かると君の状態がもっと悪化してしまう。』


『…わかりました。』



カノンは漸く落ち着きを取り戻し、キノウの方を向いて改めて説明を始める。



『キノウ君、信じれないと思うけど、私、オオサキ カノンはアンドロイドではなくれっきとした人間なの。』


『マジ…お前が…じゃあコイツ誰?』



キノウはアンドロイドのカノンの体を指差す。



『それは昼間私が活動するために使用しているアンドロイドです。アンドロイドとは言っても動かしているのは私で、この、さっきまで寝ていた枕にアンドロイドと私との意識を繋げるが装置が搭載されています。実際に私がこの枕に頭を乗せて暫く待つとアンドロイドの方に私の意識がいき、動くことができます。』

と言うと再びカノンは枕に頭を乗せて目を閉じた。



『先生…』


『分かった、いくよ。』



オシハラは目の前の大きな機械を使用する。

キノウのすぐ近くにいる寝ていた筈のアンドロイドは下を向いていた顔を上げ目を開けた。



『ん~、ふっか~つ。』


伸びをするとキノウに話し出す。


『ということでこれな私の秘密の全てです。なにか質問はありますか?』


『…質問はないけど、おまえ…アンドロイドに戻ると性格明るくなるんだな』


『ふ、ふ、普段動けないんだから、良いじゃないですか、別に、嬉しいんですよ、仕様がないです。』



自分でも思っていたことを見透かされたかのように言われ、顔が赤らめ口は大きく開ききっていた。



『それで、お前がアンドロイドではなく本当は人間なんだということは分かった、だけどそんなことのためにわざわざ入院し、さらに個室までする理由にはなってない。何か重い病にでもかかってるんじゃないのか?』



キノウは先程のオシハラとカノンとの会話を思い出した、咳をするくらいなら少々具合が悪いくらいでも起きることだ。

しかし、オシハラは異様にカノンの体の具合を心配しているようだった。

きっと何か患っているに違いない。



『よく気づきましたね。確かに私は生まれたときから重い病気にかかっています。』



『おい、オオサキさんそんなこと話したら…』


『良いんです。キノウ君は、私の唯一のお友だちですから、知っててほしいんです。』


友達……キノウはそんなこと微塵も思っていなかったことに少しばかり罪悪感を感じる。

カノンの友達という枠組みのなかに自分は入っていんだと気付き、違和感は感じるがこれまでに誰一人からも言われてこなかった、その言葉はキノウの胸を無意識に高鳴らせた。



『私は生まれたときからずっと体が弱く、様々な病気にかかってきました。そして幼いとき、かかったのが、小児がん……しかもレベル5、もう治る余地はありません。他の病気に集中しすぎて医師が気づく頃にはもう遅かったんです。そのため、抗がん剤治療を諦め、私が生まれたこの地に都会の病院から移って来たんです。このロボット医療で残りの余生を楽しむために。』



『そう、だったのか。』



キノウはどうしてあんなにも学校でカノンが騒がしく、そして明るいのか漸く事の状況を把握できた。

しかし、一つだけ疑問があった。



『なるほどね、お前はだから学校であんなにも明るく、鬱陶しい程に活発にしてるわけだ。だが、それと授業の居眠りは結び付かないだろ。』


『ぐっ…、そ、それは…、!、そうですよ、きっと稼働できる時間が短いんですよ、だから授業では寝ているのではなく停止しているが正しいのです。』


見苦しい言い訳に対してキノウはなんと返せば良いのか困ってしまった。

【きっと】と言ってしまった時点でこの話は嘘だとわかるし、同じ病室内にいる担当医のオシハラに聞けばすぐに分かることだ。



『ロボットが稼働できる時間はおおよそ半日…つまり十二時間は動ける、その頃には学校は終わっているはずだが…』


オシハラが薄ら笑いをしながらカノンをみる。

カノンはというと、オシハラの言葉で顔から冷や汗が滴り落ちてくる。

正確には汗ではなく、水である、本当は機器の温度を調節するためだ。


因みにアロマの香りである。



『と貴女の担当医様が仰っておりますが、……』


『あ、あ、あれ~不具合かな~、不具合だといいな~、きっと不具合だろうな~。』


もはや誤魔化しきれていない。


『まぁいいや、そんなことよりそれでお前の友達はこの事実を知ってどうすれば良いんだ?いつも朝からオオサキと喋ってるうるさいグル一プにでも伝えた方が良いのか?』


『それはだめ…出来ればキノウ君だけが知っててほしいの、皆には私はこれまで通り編入してきたアンドロイドとして接してほしいから。』


カノンはキノウの提案に必死なって拒否した。

よっぽど教えたくないということがひしひしと伝わってくる。


『なら、俺はお前をどうすれば良いんだ。』


キノウは少しながら憤りを感じていた。

自身はカノンが唯一の友達だと言っていたのに朝からはうるさいグル一プと接したいと、この矛盾にキノウは少々納得行かなかった。





それは些か独占欲のようなものも混じっているようだった。


















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