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翠(スイ)のこと

(スイ)は森で拾われた。


(アイ)のおじいさんが森の見廻りをしてる時に、柊の木の根元でおくるみに包まれてすやすやと眠る赤子を見つけた。

それが(スイ)だった。


(スイ)の父と母が誰なのか、(スイ)はどこから来たのか。

何もわからないまま、(スイ)は森の民の守り人である(アイ)の家で育てることになった。

オサも森に忽然と現れた赤子に得体の知れない不気味さを感じはしたが、そこは森の民の守り人のこと、守り人の家の者は男はもちろん女もみな豪胆で少々のことには動じないだろうという判断があってのことだった。


森はさまざまな不思議をもたらす。

そもそも小さな赤子が、森で獣に食われず無事でいられたことも不思議だった。

けれども(アイ)のおじいさんは、森の落とし子として(スイ)をとても大切にした。

同じように(アイ)(スイ)を大切にした。


村の大人は男も女もみな働く。

子供も年令に応じて仕事を与えられる。

子供の世話は年長の子供の仕事だ。

そのころ(アイ)のお兄さんはもう、守り人の見習いとして働いてたし、(アイ)の妹のモルはまだ生まれてなくて、(スイ)の面倒は5才の(アイ)が見ることになった。


(アイ)はもう体が大きかったし、それに賢い子供だったから、おじいさまの言うことをよくきいて、立派に(スイ)の子守りをつとめた。

(スイ)を上手にあやせば、おじいさまが誉めてくれる。

家長であるおじいさまに誉められることは、幼かった(アイ)にとって、とても名誉なことだったから、誉められれば誉められるほど、栄誉なこととして(アイ)はいっそう甲斐甲斐しく(スイ)のお世話をした。


おじいさんは(スイ)(アイ)と出会った時と同じ年の5つになったある冬の日に、銀の狼と壮絶な戦いをとげて命を落としたが、アイは誰に褒められることがなくても変わらずに(スイ)の面倒をみつづけた。


その後長じてひとり家を出て、村の外れの森の近くの小さな小屋にひっそりと住むようになった(スイ)を、(アイ)は未だに気にかけている。


森の落とし子は森がもたらした不思議な子。

なかにはまるで、(スイ)のことを森の獸を見るかのような目をして近寄らないようにする者もおり、(スイ)にしても、そのように遠巻きにされる心地悪さを感じるよりは、獸しかいない森にいる方がなぜか気が休まった。


この世で(スイ)を大切にしてくれたのは、(アイ)(アイ)のおじいさんの2人だけだったから、おじいさんがいなくなった今、(スイ)と話しをしてくれるのは、今や(アイ)ひとりだけになっていた。

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