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3.後悔先に立たず

 困ったことになった。

 私は今まで困ったことは山ほどあったが、これ程はないというくらい困ったことになった。

 何しろ女物のハンカチを人様の軒先で怪しく鑑賞しているのを見つかってしまったのだ。

 これは変態であろう。

 間違いなく太鼓判を押せるくらいの変態度を誇っている。いや、誇ってはいけない。


 恐らく笑って済ませるような状態ではなかったのだろう、悲しいかな私は何かとんでもない事件の容疑者として村中の注目を得るに至った。


 村々の皆様、私のちっぽけな好奇心が貴方達の平穏な日常を崩壊させて本当に済まないと思っています。

 だからどうか、明らかに重犯罪者然とした縛り方は止めてくれないだろうか。

 ギリギリと縄が食い込んで手が後ろに回されて縛られて「あーそこそこ、動かさない方向に腕が曲げられて、きくーぅ」とか日頃のストレッチ不足を呪いながら、今か今かと彼女の登場を待った。

 彼女さえ来てくれれば私は親切にもハンカチを届けに来てくれた優しい森のお兄さんだということが村の皆にも分かって貰えるし、鑑賞してたお茶目もきっと理解してもらえるはずだ。

 私は村の中でも一段大きな家に連れて行かれ、急いで集められたのだろう村の男達に囲まれていた。

 刺すような視線が痛い。


 ところでこの事態を引き起こしたピンク色の悪魔は、やはりというかおおよその予想通り、ハンカチであった。

 悔やむべくはあまりに見事な刺繍であったのでしばらく釘付けになって、周りへの注意がおろそかになってしまった点であろうか。


 周りにいる村の男達は何やらよくわからない言葉を話している。



 うん、日本語ではないようだね。

 私はやはり異世界に来たんだという喜びを感じ、今だけ日本語通じてもいいですよと星に願った。


 しばらくして周りの人の壁が割れるように一人の老人があらわれた。

 ひと目見て只者じゃないと分かる風貌をしている。

 名前をつけるなら「長老」こう呼ぶのが一番しっくり来るが、如何せんパンク趣味があるのか羽や骸骨やら何かの角やら骨を加工したと思われる装飾品をふんだんに身にまとい、手にはヤギだろうかの頭蓋の乗った豪華な杖をついてのご登場である。

 顔や体も赤色や黄色の顔料で綺麗にカラーリングされていて、とても威嚇的な感じがしてよろしいかと。


 いやはっきり言おうこいつは、闇魔術師か何かではないのでしょうか。

 ブードゥー教か?ブードゥーリスペクトか!?

 この世界に魔法があるというのならぜひとも見てみたい。

 ただし対象が私ではないという条件付きで。


 できるなら一生関わりたくないような風貌のそれは一歩一歩確実に私の方へ歩み寄ってくる。

 周りの男達は固唾を呑んでそれを見守っているのを感じた、やっぱりこいつやべーんじゃ。

 それは近づくなり何か煙の立つ香のようなものを振った、あたりに煙が漂う。

 なるべく煙を吸わないように努めるも幾ばくか吸ってしまう。


 …ッ、クサっ!!


 刺すような刺激臭が私を襲う、一体何の恨みがあってこんな臭いものを!

 私は優しい森のお兄さんだと言うのに!…森、…もり、…ん?


 私は急に湧いて出た考えを確かめるためにもう一度少しだけ吸ってみた、…ックサっ!

 私は嗅いだことを後悔したがもう遅い「これ嗅いだことあるぞ」私は思った。

 木を燻したような強烈な匂いこれは、


 …木酢液!!


 花粉症予防や抗菌、消臭効果が期待出来るとかで一時期お世話になったことがある、あの忘れられない匂いじゃないか。

 しかし分かったは良いものの、目がシパシパするわ、息すると酸系の刺激臭がするわで、身動きの取れない私の体力を地味に削りに来ている。


 煙と苦戦していると「長老」の後ろから二人の若者が前に出てきた、手には小枝を束ねたような物を携えている。

 彼らは同時に振りかぶったと思うと、私めがけてその小枝の束を叩きつけてきた。


 いってぇ!

 いきなり不意打ちを食らった私は身を丸くして耐えていた。

 不幸中の幸いか、小枝はしなりの良い竹の枝のようなものでそこまで強烈な痛みではなかった。

 数度私を打ち据えた若者共は、何事もなく去って行った。

 …一体何だったんだ、私は急なことに呆然とする。


 そうこうするうちに謎の呪文を唱え始める「長老」その様子はさながら悪魔を降臨させる召喚者のようであった。

 そしてそれは長い長い熱演の始まりだった。



 パチパチと私の四方を囲むようにして配置してある炉が燃え盛っている。


―人生諦めが肝心だ。

 時間にして何時間だろうか、気の遠くなるほど長い熱演が続き、思考の端で諦めの言葉が出始めていた。

 「長老」は、なおも高低入り混ぜた呪文を狂ったように詠み上げている。


 熱い、汗が流れる。


―まだまてそれはまだ早い、お前は混乱しているだけだ。

 思考のもう片方で崩れそうになる気持ちを支える。


 今日は色々有りすぎた、疲れからか自然とまぶたが落ちるが、そのたびに若者二人が小枝の束で私を打ち据え現実に引き戻す。


 「長老」の動きが呪文の盛り上がりとともに次第に大きくなってきた。

 いつの間にか手には火の付いた棒のようなものを持っている。


 

 私はこの得体の知れない黒魔術師によって生贄として捧げられてしまうのかと、目の前で熱演する「長老」をよそに、冷静に何処か遠いところから眺めるように現状を俯瞰し始めていた。


 結局あの少女は一体何だったのだろう。

 なぜあの場所に最初に出会ったのだろう。

 ハンカチは無事に少女の手に渡ったのだろうか。


 次の瞬間、突然「長老」が手に持った火の付いた棒を、振り絞った怒号とともに突きつけてきた。

 同時に周りの村人たちが思い詰めた表情とともに、一斉に武器らしき刃物や農具を構えたのを意識の端で感じた。

初小説になります、誤字等ありましたらアドバイスいただけると助かります。

ご愛読ありがとうございます。

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