その毒をください。
”9時にいつもの場所で。”
相変わらず質素なメール。
この関係も、もう何年たっただろう。
小・中・高と友達という友達はおらず、
ひたすらに勉強をする毎日だった。
そのおかげか、学年トップを譲ったことはない。
恋人だってできたこともない。
周囲の人間は私を、氷のような女だといってたけれど
私にだって理想のデートのシチュエーションだとか
理想の夫婦像とか、普通にあったのだ。
それが、どこで踏み間違えてしまったのだろう。
「お待たせ。」
「大丈夫、待ってないよ。」
ふわっと笑う優しい瞳。
誰にでも親しまれやすい彼はきっと、
色んな人から慕われ、人気者だったはずだ。
私とは真逆に。
「今日は、どうしたの。」
「ひどいな、わかってるくせに。」
「明日からまた、海外出張なんでしょ?」
エリート街道まっしぐらの彼は、誰もが憧れる男だ。
頼りになる後輩であり、尊敬する上司であり、
家庭思いの優しい旦那様。
「3週間も帰ってこないんでしょ?」
「なに、寂しいの?」
「馬鹿言わないで。家族と過ごさなくて良いのか聞いてるだけよ。」
「ふぅん。」
納得いかないような口ぶりのくせして、
その表情には余裕が感じられる。
悔しい。
こっちの心内なんて、彼には透けて見えていて。
こっちの意地なんて、彼にはないようなもので。
私が結局負けて、彼にすがってしまうのだから。
「今日は、なんて言ってきたの。」
「会社の後輩の恋愛相談。」
「ふっ。それ、本当に信じるなんて。さすがあなたの奥さんね。」
一度だけ、見たことのある。
ふわふわ、おっとりしていて。
優しそうで。
明るい日だまりだけを受けて育ったような人。
私とは、まるで正反対。
「さて、今日は君の願い事を何でも叶えるよ。
3週間、会えないお詫び。」
「じゃあ・・・今日だけは、私のモノになってくれる?」
「お安いご用。」
・・・嘘つき。
一度だって、私に心を向けた事なんてない。
彼の1番はいつだって奥さん。
愛して愛してやまないくせに、なぜ私のところへくるの?
そんな疑問を何年も持ち続けているのに、
彼に聞く勇気は、私には持ち合わせていなくて。
彼に別れを切り出されそうで。
この、ぬるま湯のように居心地の良い関係を
いつまでも続けていきたいと思う私は、世界で1番哀れな女だと思う。
たとえ、この関係が浅く脆いものだとしても
私には辞める勇気はないのだ。
それが毒だと知っていても、辞められない麻薬中毒者のように。
私はこれからも、毒を求めて
彼と逢う。
思いつきで書きました。
5分クオリティなので、大目に見てください(笑)