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とりあえず家…、っていうか王子に自分の家だって嘘ついたマンションに行かねば!と、思い駆けだした途端、手の中のケータイが震えた。差出人を見ると、案の定朝霧飛鳥。ほんと返信速いな。ケータイ依存症か?最近多いよね。
『何もなかったようで安心した。バイトお疲れさま。今から夕食行こう。今どこ?迎えに行くよ』
おお!迎えに来てくれるのか。楽ちん。
『ありがとうございます!今○×公園の前にいます』
『了解。10分くらいでつくと思うから、ベンチかどこかに座って待っていて。』
『分かりました』
10分か。ここからマンションまでは歩きで結構かかる。朝霧飛鳥は車で迎えに来るということ?タクシーかな。ベンツとかで来られたらどうしよう…。汚したら怖い。
っていうか今日は運よく朝霧飛鳥が誘ってくれたけれど、いつもこんなラッキーが続くとは思えないし次の約束は頑張って私が取り付けなければ。いつがいいだろう…。ご飯中?それとも家に帰ったあと?はたまた明日?明後日?だめだ…恋愛経験なさすぎてもう何もかもが分からない。
「みゆちゃん」
突然耳元で自分の名前を呼ばれ、驚きで肩がはね上がった。色々なことをボーっと考えているうちに、いつの間にか10分経っていたようだ。
「お待たせ。行こう。公園の入り口に車を止めてきたから」
「は、はい!」
スマートに手を取られ、指と指とが絡み合う。いわゆる恋人つなぎ…、という奴だ。
ちょ、ちょっと待って!な、なんかすごい恥ずかしい!なんだこれ!?なんだこれ!??わわ!手汗が!!照れやら驚きやら焦りやらでもうわけわかめ。脳内ショート寸前。
「みゆちゃん?どうしたの?具合悪い?」
挙動不審な私を不思議に思ったのか、朝霧飛鳥が心配そうに顔を覗き込んでくる。
う、うわ!それ逆効果だから!
「だ、だいじょぶです!…あ、あの、手…」
「ん?…あぁ、ごめんね。嫌だった、かな…?」
私の挙動不審の原因が恋人繋ぎのせいだと気づいたのか、ちょっと悲し気に眉を下げた朝霧飛鳥がそう聞いてきた。でも手は離れない。
「い、いえ…。嫌じゃない、デス…」
「そう?ふふ、うれしいな」
そう言いながら本当に嬉しそうに笑う王子。う、ちょっと王子のことがかわいく見えてしまった。不覚。
気まずく思いながら前を見ると、公園の入り口付近に立派な黒い車が見えた。おおー、さすが金持ち。立派な車だ。ちなみに車種は分からない。さっき『ベンツだったらどうしよう><』とか考えていたけれど、これがベンツなのかどうかが分からない。ベンツっていう名前しか知らない。
「はい、どうぞ」
朝霧飛鳥はすぐに運転席には乗り込まず、助手席の方へ回ってわざわざ扉を開けてくれた。これが俗に言うれでぃふぁーすとってやつか!うわぁ、なんか感動。
感謝を述べながら助手席へ乗り込むと、シートがふっかふか!なんか良い匂いするし!すごい!金持ち凄い!
「ふふ、気に入った?」
「へ?」
「いや、なんかとっても目がキラキラしていたから。可愛いね」
な、な、な。
だめだ、私今絶対顔赤い…。しっかりしろ!田辺未友!これはただのお世辞!この人にとっては挨拶のような物なんだ!赤くなるな!動揺するな!私は清楚でおしとやかな女にならなくてはいけないんだから。子供っぽいと思われないようにしなくちゃ。
「とても素敵な車だったので、少しはしゃいでしまいました…。ごめんなさい」
「謝らないでよ。楽しそうなみゆちゃんが見れて僕もうれしい」
「…」
甘い。会話が甘い。砂糖より甘い。
私たち昨日知り合ったばかりですよね。なんでこんな付き合い始めのカップルみたいな会話してんだろ。
彼金に感想がきていたことを初めて知りました。すべて読みました!すっごい嬉しかったです。とっても嬉しかったです。