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彼と金と  作者: オト
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7

「…」


「…」


沈黙


王子は相変わらずにこにこしているが、右腕を掴む手は離れない。さっさと帰りたいのに…。




…って、あれ?ちょっと待てよ!?

今って絶好の機会チャンスってやつじゃないの?


今こそこの新バージョン田辺未友ちゃぱつショートで王子をメロメロにするんだ!いけ!わたし!おしとやかでやさしいはかなげな女の子を演じるんだ!


「ぁ、あの…、わたし、」


な、なんて言えばいいんだ!?焦るな私!思い出せ!今日必死でググったネット情報を!!


「さ、さみしい!まだかえりたくない!」



しーん



しまったぁぁぁぁ…!!やっちまった!これは合コン必勝法じゃなくて、『これで彼もイチコロ☆デートの別れ際に効果的な言葉』のやつだ!!選択ミスった!初対面の相手にいきなりこんなこと言われたらドン引きだよ!おしとやかどこいった!?ただのビッチじゃねーか!


だめだ…酒のせいで頭回らない…。さっき酔いがさめたと思ったのは気のせいだった。完全に酔ってる。


「それは誘ってるの?」


「っっっ」


そう言って妖艶に微笑んだ王子は破壊力満点だった。色気満載。むんむん。


あぶない。あやうく鼻血が出るところだった。


「俺の部屋、来る?」


掴まれていた右腕を軽く引っ張られて、ぽすんっと王子の胸にもたれかかるような体勢になる。慌てて体を離そうとしたら、それを阻止するようかのように腰に彼の長い腕が回ってきた。


「ねぇ、どうする?答えないならこのまま攫っちゃうよ?」


鼓膜に直接送り込むように囁かれ、彼の吐息が耳をくすぐる。

彼のことは金づるとしか思えないし恋愛感情もこれっぽっちも持ち合わせていないけれど、そばにいると彼の色香にやられて、恋をしてるような気分になってしまう。


おもわず頷いてしまいそうになる首を、必死で押しとどめる。


ここで頷いてしまったら、確実においしくいただかれてしまう(味は保証しない)。別に処女であることにこだわりはないが、それだとただのワンナイトラブで終わってしまう。


私は彼とヤりたいのではない。彼からてぎれきんを巻き上げたいのだ。目指すは彼の恋人の座!


だから私は彼の好みの女にならなくてはいけない。そのために大枚ごせいえんをはたいたのだ。おしとやかな女に、私はなる!今度こそ失敗はしない。


彼の顔を見上げ、上目遣いで懇願するように見つめる。


「あの…、私、全然そんなつもりじゃなくて…」


どや!私の渾身の純情おしとやかアピール!


「そっか…、残念。ごめんね、早とちりして。じゃあやっぱり家まで送るよ。もう暗いし、それにみゆちゃん結構酔ってるでしょ?」


言うや否や、王子は私の手を引いてさっさと歩き始めた。転ばないように慌てて王子の背中を追う。


って、あれ?


「なんで名前…」


知ってんの?言ったっけ?


「真島に聞いた。あ、真島っていうのはさっきみゆちゃんの前の席に座ってたやつね」


あぁ、あの元気そうな人。


ふんふんと納得していると、彼はスムーズにタクシーを止め、私を押し込んだ。その後に彼も乗り込んでくる。


「お客さん、どちらまで?」


「みゆちゃん家どこ?」


「え、あ、S駅です…」


とっさに最寄りの駅を告げる。

くっ!王子め…。タクシーに乗ってから家の場所を聞いてくるなんてなかなかに策士じゃないか。断る隙も与えないとは。さすがモテ男、手慣れている。


「ねぇ、連絡先教えて?」


またか。

この前公園で会った時も聞かれたけれど、この人は女とみれば誰にでも連絡先を尋ねずにはいられないのかもしれない。


そう思いながらも素直に鞄からケータイを取り出す。この前とは事情が違う。今は一刻も早く彼と親しくならなければ。


今どき珍しくガラケーの私は、彼の最新機種のスマホとは赤外線が出来ず、結局彼にメアドと電話番号をメモした紙を渡した。ケータイ出した意味ない。


「じゃあ連絡するね」


「はい…」


とは言ったものの、本当に連絡をくれるのか半信半疑である。やはり彼のメアドも聞いておくべきかと悶々と悩んでいると、タクシーが止まった。


「お客さん、つきましたよ」


「あ、はい!」


どうせ彼が払ってくれるだろうと思いつつ、財布を取り出すそぶりを見せると、案の定その前に彼が一万円札を運転手さんに渡した。


ですよねー。払ってくれると思ってましたー。さすが王子。


だがここですかさずおしとやかアピール。


「あ、あの、私、払います…」


「いいよ。ほら、おいで」


一足先にタクシーから降りた彼は、そう言って私に片手を差し出した。すごい、マジで王子様みたい。一瞬王子の背後に城が見えたわ。


その手に自分の手を重ね、タクシーから降りる。


そういえば彼はお釣りをもらうそぶりを見せなかった。っていうかもらってないよね?あれですか、釣りはいらねぇってやつですか。さすが金持ちは違いますね。そのお釣り、私が欲しかった。


「あの、ほんとうにありがとうございました。では、」


そう言って歩き出そうとしたものの、彼の手が離れない。


「あの…」


「何言ってるの。家まで送るよ」


「え、」


まじか。

私の家、すなわち築60年のぼろアパートについてくる…と?


いや、それはやばい。あんな家見せたら、今日一日頑張って作り上げたおしとやかなイメージが泡となって消えてしまう。


「そんな…、家までなんて申し訳ないです…。ここから近いですし、一人で大丈夫です」


「だめ。ほら、案内して」


「え、あ、」


ぐい、と手を引かれ、彼が歩き出す。いや!あなた私の家知らんでしょうが!そっちじゃない!


「そ、そっちじゃありません!」


「じゃあどっち?」


「…」


だめだ。引いてくれそうにない。


しょうがない…。アパートの近くの小綺麗なマンションまで送ってもらおう。


「こっちです…」


彼の手は相変わらず離れそうにないので、今度は私が彼の手を引いて歩き始めた。


――…


「ここです。今日は本当にありがとうございました」


「ううん、気にしないで。楽しかった」


どこに楽しい要素があった。


「…」

「…」

「…」


…なぜ帰らない?


「マンションに入るまで見てる。心配だから」


なにが?ここまで来てなにを心配することがある!?あとは部屋に入るだけでしょうが!


と、言ってやりたいが、ここまでで彼が案外頑固な性格であることをいやというほど思い知ったので、おとなしくマンションのエントランスまで入ることにする。


エントランスで隠れて数分後、外の様子を伺うともうすでに彼はいなかったので、さっさと外に出た。なんてったってここ私の家じゃないからね。私の家はここの裏のぼろアパートだから。


少し早足に自分の家へ向かう。


「やっとついたー…」


なんか一日が果てしなく長かった。


手早くシャワーを浴びて、弟の隣の布団に潜り込む。もうすでに深い眠りについている葵を抱き寄せ頭をなでる。


「おやすみ、葵…」



本当に疲れた一日だった。最近こんなの多いな。






なんか主人公のテンションが迷子。酔ってるから…なはず…。

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