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「かんぱーい!」
広い個室に、グラスのぶつかり合う小気味良い音が響く。
「じゃあ自己紹介からいく?」
「はい!はい!俺は―――」
私の前に座っていた元気そうな男の人から順に、時計回りで自己紹介が始まった。
今の時点で、男子2人女子3人。王子は遅れてくるらしい。
「零条理香、21歳でぇす!どうぞお気軽にりかちゃんって呼んでくださぁい!」
なんと。
もう隣の席の理香ちゃんまで順番が回ってきた。狙いは王子一筋だし、他の人の自己紹介はほぼ聞いていなかった。次は私だ。
「えっと、23歳田辺未友です。よろしくおねがいします」
ささっと早口に言ってすぐに座る。あきらかに一人だけローテンションで浮いているが、狙いの王子もまだいないしテンションあげるのがめんどくさい。わざわざ合コン必勝法調べてきたのに、これじゃ意味ない。早く来い朝霧飛鳥。
「ちょっと先輩!硬いですよぉ!バイトの面接じゃないんですからぁ」
「ご、ごめん。こうゆうの初めてだからなんか緊張しちゃって」
小声で理香ちゃんが注意してきたので、私も小声で返事をする。
「えぇ!?先輩合コン初めてなんですかぁ!?」
おい。
わざわざ周りに聞こえないように小声で返事をしたというのに、理香ちゃんが大げさに驚き声をあげてしまったせいで全員にばれてしまった。
「えー!うっそ!みゆちゃん初めてなの!?」
「おいwその言い方なんかやらしいからやめろw」
「めんごめんごwみゆちゃんもごめんねごめんねー!」
…苦手だ。
元々男子には全く免疫がないうえ、この軽いノリは大いに苦手だ。やばい、王子もまだ来てないのに既にもう帰りたい。
いや、頑張れ私!すべては金のため!葵のため!
それから20分間、私はなるべく目立たないように道端の石ころのようにひっそりとはじに座っていた。
そしてとうとう来た。王子が。
「ごめんね、遅れちゃって」
そう言いながらも全く悪びれた様子はない。けれど、そんな王子に怒る人はもちろん誰一人としていない。初めて近くで見る王子を見て、理香ちゃんと理香ちゃんの友達の女の子は完全に固まっている。
「朝霧飛鳥、22歳。今日はよろしくね」
それからの合コンはすごかった。理香ちゃんと理香ちゃんの友達の――…長い…女1でいっか。理香ちゃんと女1はほかの男子には目もくれずひたすら王子に話しかけまくっていた。男子が不憫だ。
私もぜひ王子争奪戦に参加したかったのだが、あまりにもすさまじすぎて、間に入る勇気はなかった。
私今日何しに来たんだろう――…
一人ちびちびとお酒を飲みながら途方に暮れる。にしても酒うまい。つまみも最高。ここの勘定は全て男子側が持ってくれるそうだから、沢山飲み食いしとこう。
もはや本来の目的がなんなのか分からなくなったきた。
半ばやけくそ気味に酒とつまみを詰め込み続けた。
結果――
「うぇ…。ぎもぢわるい…」
慌てて水を流し込むが、余計悪化した気がする。
だめだ。帰ろう。
「ちょっとお手洗いに…」
誰も聞いちゃいないだろうが、一応小さい声で断りを入れておく。
鞄をもって、駆け足でトイレに向かった。
ふぅー、すっきりしたぁ~。
全部吐き終え、爽快な気分でトイレから出てあるきはじめた。もちろん部屋に戻ったりなんかはしない。目指すは出口。もうさっさと帰ろう。
長かった廊下を抜け、ようやくエントランスホールが見えてきた。
あっとすっこし~♪あっとすっこし~♪
なんだか気分が高揚してるけれどなんでだろう…。あ、お酒だ。
普段はお酒なんて飲まないから、久々に酔っぱらった。
そしてようやく私は店の外に出――…れなかった。
「あれ?」
なんか右腕が動かない…。何かに掴まれてる?
不思議に思って振り返ると、背後に美青年が立っていた。あれ?なんかデジャヴ?
「家まで送る」
そう言って、美青年――…朝霧飛鳥は微笑んだ。
やっぱデジャヴ。一気に酔いがさめた。
合コンがどんななのか全然わからない…。
病み部分を早く書きたい……