2
先に述べたとおり、私の家はド貧乏だ。それもこれもギャンブル中毒のくそ親父のせいである。いや、もはや父親だなんて思えない。私はあいつに家族の情なんてものはもはや一切抱いていない。
けれど私には可愛い小さな弟がいた。あいつがある日突然連れてきた、18も年の離れた可愛い可愛い弟。血のつながりがあるのかどうかさえ分からない弟だけれど、私は弟がとても好きだった。
連れてきたくせに何一つ世話をしないあいつの代わりに、私はバイトをしながら必死に弟を育てた。けれどやはりお金がない。当時私は23歳、弟は5歳。中卒の私がまともな職に就けるわけもなくひたすらバイト三昧の日々を送っていた。私だけだったときはなんとかやっていけたけれど、5歳の弟を養うとなるとお金が全く足りなかった。夜の仕事を始めるしかないと考え始めた頃、私はあの男と出会った。
朝霧飛鳥22歳。日本の三本指に入る程に有名な株式会社、朝霧コーポレーションの跡取りであり、文武両道、そして恐ろしいくらいに整った顔立ち。
金持ち・美形・文武両道…
案の定彼はモテた。いや超絶モテた。彼を一目見れば誰もが恋に落ちる…と、言われるほどにモテた。彼の周りにはいつも取り巻きがたくさんいて、どの取り巻きもモデル並みに綺麗だった。
そんな彼と私が出会ったのは全くの偶然だった。
私はいつものように弟を寝かしつけた後、近くの公園に行った。時刻は22時、辺りは真っ暗、街灯の明かりが頼りなさげにぽつぽつと光っている。公園の寂れたベンチに座りながら、私は途方に暮れていた。
父親が蒸発したのだ。
それだけならまぁいい。全然良い。むしろ邪魔者がいなくなって万々歳だ。
けれどクズはどこまでもクズだった。あいつは私たちに多額の借金を押し付け、失踪した。その額およそ300万。毎日生きるだけで精一杯の私には到底返せる額ではない。夜の仕事をするにしたって、キャバの収入だけで返済するのは難しい。私の容姿で稼げるお金なんてたかが知れてるし、頑張って稼いでも利子がどんどんかさむ。
これはもうイメ○ラかソ○プか…。
その時、考え込んでいた私の肩を誰かが叩いた。
ふっと目線をあげると、そこにはスーツを着た50代くらいのおじさんが立っていた。ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら私の目の前に太い指を三本立たせた右手を見せてきた。
「へ、へへへ、これくらいで、ど、どう?」
なんでそんなにどもっているんだ。そしてなにがこれくらいなのか。どうなのか。
「す、すくないか、かな?じゃあ、こ、これくらい、は?」
そう言っておじさんは指を一本増やした。
そこで私はようやく意味を理解した。つまり、これは、春を売れ…と…。そんなつもりは毛頭なかったのだが、ていうか私はまだ処女である。けれど4万…。4万は大きい。よく知らなかったが売春はこんなにも儲かるのか。
一回3万だとして、借金は300万。100回やれば返済できる。
私がちょっと不快感を我慢して頑張れば借金が返せる。弟を救える。
そして覚悟を決めた私はおじさんに、それ(4万)でいいよ、と言った。
…いや、言おうとした
けれど私が返事をする前に、他のだれかがおじさんに返事をしてしまった。
「おじさん、それ安すぎ。あんたみたいな人、10万出されてもごめんだよ。ね?」
…え…。
突然現れた乱入者に、おじさんも私も目が点になった。ていうかさりげに結構ひどいこと言ってる。ね?、と言いながら私の顔を覗き込む男の人。その人の顔を見て今度は目が丸くなった。だってこの人、めちゃくちゃ綺麗…。芸能人…?
「き、きみ、なななんなんだ!!い、いいい、いきなりあらわれてそんなこと…!し、失礼じゃないか!」
そう言うおじさんの方へ無言で顔を向ける彼。
そして彼の顔を見たおじさんは固まった。うん、分かるよおじさん。誰でも初めて彼を見たときは多分そうなる。
「ねぇ、僕、彼女と話してるんだ。消えてくれない?」
ふわっと天使のように麗しい微笑みを浮かべて、彼は言った。
そんな表情を浮かべているのに、なぜだかその言葉は凄みがあった。美形、すごい。
「う、うわああ!!」
おじさんは叫びながら公園から逃げていった。
一連の流れを、私は呆然としながら見ていた。
彼が振り返ってこちらを見てくる。相変わらず麗しい笑顔を浮かべながら。
「ねぇ」
「え、ぁ…」
「こんな夜中に公園に一人でいたら危ないよ。ああいう奴がたくさんいるから」
「は、はい…」
「それとも僕、邪魔しちゃったかな?もしかして逆にそれが目当てで夜中の公園に来てたの?」
中途半端なところでごめんなさい!
更新がんばります!