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「みゆちゃん、帰ろ?」
そう言って神様もびっくりな程の美貌を持った青年は柔らかに微笑んだ。
何も告げずに彼のもとを去ってから約3年。今更いったい何の用だというのか。黙って消えた私に対する逆襲?だとしたらなんで今更…
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私には、容姿端麗で文武両道、おまけにだれもが一度は聞いたことのあるような有名企業の跡取り息子…という、なんじゃそりゃどこの小説のヒーローじゃいと言いたくなるような彼氏がいる。否、いた。
ちなみにそんな彼氏がいたからといって私が絶世の美女とか大財閥のご令嬢とかではない。
むしろ容姿は高く見積もっても中の下の上…くらいだと思う。クラスで10人はいそうな平々凡々な顔だちである。その上家は超が付くほどの大貧乏。父はギャンブル三昧、母はそんな父親に愛想をつかして私が小さい頃に出て行った。
そんな私と彼が恋人という関係になれたのは、99.9%は奇跡。あとの0.1%は私の努力の結晶である。
私は彼と付き合うために彼好みの化粧や性格、服装髪型…、まぁつまり外面的に変えられるところは全て変えた。さすがに整形をする勇気はなく(っていうかお金がない)どんなに化粧をがんばっても私の顔面は中の上の下程度にしかならなかったが。
努力はした。
しかし私も心の奥底では分かっていた。『彼のような人が私なんかを相手にするわけがない』と…。
だがしかし、どんな青天の霹靂か、彼は私の半ばあきらめかけた投げやりな告白をなんと受け入れたのだった。わけがわからなかった。告白した当の本人である私でさえも、まったく状況が呑み込めなかった。
「僕も君が好きだよ」
そう言って微笑んだ彼を見て私は思った。
嘘だ…と。
多分彼は美しい女の子にあきたのだ。だから気まぐれに私の告白を受け入れたのだろう。
けれど私にとってそれは大いに好都合。
なぜなら私は、彼を好いてなどいなかったのだから。