5円 家庭のおやつ
「これ、滅茶苦茶うまい!」
「だろ?」
猛がパンの耳を揚げて砂糖をまぶした物をみんなに振る舞っていた。
タカが異状にテンションを上げている。
鍵っ子のタカにはこういったおやつは珍しくて新鮮だ。
吉彦とユウキも食べてはいるが特にコメントはしなかった。
ふいに吉彦が言う。
「家でもね、バナナケーキを時々、ママが焼いてくれるんだ!今度食べにおいでよ!」
「お、いいね!僕の家は天ぷらなんかやって、あまってしまった衣に砂糖を入れて揚げてさ、お化けドーナツをつくるんだよ!」
「あ、俺もユウキの家と同じのやるわ!」
猛がはしゃぐように言う。
それぞれの家で色々なおやつがあった。
タカはそれを羨ましそうにみていた。
お小遣いだけもらい家族はいつも居ない。
ほとんどは駄菓子屋のおやつを食べているタカにはそれは凄い事に思えた。
そして四人はまた、綾葉のお婆さんの駄菓子屋に向かった。
「こんにちは!」
四人は元気よく挨拶をして店に入る。
「こんにちは。」
綾葉のお婆さんがニッコリと笑う。
駄菓子を物色し始めると、お婆さんが声をかけてきた。
「これでも食べるかい?」
差し出されたのは煎餅だった。
「揚げ煎?」
ユウキが誰に聞くわけでもなく言う。
「おあがりなさい。」
お婆さんはそう言ってニッコリ笑った。
揚げ煎にはバラバラと塩を振りかけた物と所々に醤油を垂らした物があった。
「いただきまーす!」
猛は先を急ぐように二つ三つ取り、口に入れた。その様子をタカが見て彼も焦ったように食べ出した。
ユウキも吉彦もそれに続いた。
「これ、これ、慌てない。」
お婆さんが肩で笑いながら言う。
「その揚げ煎餅はね。家で正月などにあまった物を天日干しして、油で揚げたものなんだよ。」
「ヘェー!」関心したようにタカが言う。
「これじゃあ、今日は駄菓子いらないな!ハハハ!」
猛が大声で笑う。
「家のおやつって色々とあるよね!」
吉彦が言うと猛が煎餅を頬張りながら
「あのよー。夜に焼き魚とか飯ででるじゃんよ。それをカリカリに焼いて食べた事あるか?」
「あ!あれ!滅茶苦茶うまいよね!」ユウキも続く。
「お前らいいな。」
タカがさみしそうに言うと揚げ煎を鷲掴みにして口へ持っていった。
ふと、ユウキはタカの気持ちを考えずはしゃいだ自分を恥ずかしく思った。
そしてタカの胸元に光る鍵を不意に見た。
タカはユウキの表情と視線に気付いて、指先で鍵を弾いた。
ユウキはサッと目を反らした。
「そう言えば喉乾いたな!」
猛がそう言うと皆も頷いた。
「手頃なやつで、これがいいな!」
タカが一本10円のビニールのチューブのような入れものに入っている飲み物を選んだ。
この飲み物には色々と種類と攻略があるのだ。
ソーセージ形をした厚いビニールに包まれた飲み物はまず、このままでは勿論飲めない。
突起した口があるが、ここを歯でねじ切るのは容易ではない。
かと言って駄菓子屋はハサミは貸さない。
なぜなら、子供の開封技術では店内にぶちまけるリスクが高いからだ。
それならどうするか?
そう、ビニールの薄い箇所を狙えばよいのである。
薄い部分といえば、お尻部の丸い部位。
ここに、小さな穴を歯であけたらよいのだ。
握る事で中の液体が口へ流れてくるから、自分で好きに飲めるのだ。
吉彦はニヤつきながら近づいてきた。
「僕は贅沢にこれにするよ!」
吉彦が選んだのはワンランク上の20円のものだった。
少し太めのボディで飲みごたえ充分だ!
さらに上のランクをめざすなら、炭酸つきがある。
これは30円で、ネジ式のキャップに炭酸の出る魔法の粉が装填されている。
グリグリとキャップを回す事でビギナチューブの口に穴が空き、炭酸がシュワシュワと出てくるのだ!
コイツは気をつけなきゃいけない点がある。
それは炭酸の装填されていたキャップを外さない事!
なぜなら、キャップ側に残って溶けきらない粉に液体がついて溢れ、手がベタベタになるか、キャップを外した勢いで中が溢れる危険性を伴い兼ねないからだ。
しかしながら、最近はこの粉つきのドリンクを見ない…。
あと、ひとつ10円の小さな袋に入った粉のドリンクもある。
これは粉を水に溶かして飲む飲み物だ。
種類も豊富にあり、コーラやメロンソーダ、オレンジジュース他にも色々とラインナップされている。
これは、自分のオリジナルドリンクを作れる他にも、贅沢に先程のチューブ入りのドリンクに混ぜるのもありだ!
そして、この粉ジュースはまだ活用方法が多彩なのだ!
タカは30円のチュッパチャプスという棒つきのキャンディを手にした。
そして、この粉ジュースの袋にスポッリと先端を入れる。
そして、舐める、また粉につけると繰り返す…。
元々、ペロヤンとかなんとかいう名前で粉つけをして舐める事を目的とした飴は発売されていました。
それをヒントにタカはチュッパチャプスで行うという行為に出た。
これはまた、飴と粉の組み合わせでかなりのバリエーションになる!
40円で楽しめる素晴らしい快楽だ!
「これが、うまいんだよ!」
タカはニヤリと笑った。