1【出会い】
『自分が巻き込まれなければどうだっていい』
どんなに取り繕ったって、所詮人間なんてそんなモンだ。
汚い、自己中心的な生き物。聖人であれ悪人であれ、最終的には我が身を優先させる。
少なくとも、俺はそうだ。
自分と関わりが無ければどうだっていいと思っているクズ。
だから自分に都合の悪いことは、全て見て見ぬフリをしてきた。
だって、関わりたくないから。
巻き込まれたくないから。
自分が可愛いから。
だから、いつも通り見て見ぬフリをする。
目の前で起こっている一方的な暴力と傷だらけの女子を、なかったことにする。記憶から消す。
そうすることで、俺は毎日、平々凡々な奴として過ごせてきた。害の無い、目立たない、どこにでもいるような奴として。
消えても何も変わらない程度の存在として。
キーンコーンカーンコーン……
__チャイムがなる
気がつくと放課後だった。…空が赤みがかっている。運動部の奴らが、外で汗を流しながら忙しなく動いているのが見える。どうやら寝てしまっていたみたいだった。
周りの奴らはもういなくなっていた。俺は机から身体を起こし、大きく伸びをする。が、また強い睡魔が襲って来たので、再びうつ伏せになる。
カツン…
ふいに、人の気配を感じた。
こういう時は、気付かないフリをするのが1番。間違って何かを見てしまうと、厄介なことになりかねない。
そんなクズな俺は、寝たフリを決めこもうとした。
まぁ無駄なんだろうが。
「ふふ…寝てないよね?……啓くん」
凛とした、高めの声が俺の名前を呼んだ。
小さな手が背中に置かれる。
「……チッ」
やっぱりバレてたか…。仕方なく身体を起こし、声の主へと向き直る。
それは、あの傷だらけの女子だった。
俺が今、1番関わりたくない奴。
「そんな顔しないでよ」
「……別に。で、何?」
俺は一刻も早く話を終わらせたかったのだが、相手はそんな俺を無視して前の席に座り、俺と向き合う形になる。
「初めて話すね」
そうだ。初めて話す。こうやって向かい合ったのも初めてなはずだ。……なぜ俺に話しかけてきたのだろう?
…そういえば、俺の名前を知っていた。こんな空気みたいな奴の名前なんて、普通覚えているだろうか?
「覚えてるよ。だって君を選んだのは私だから」
淡々と、彼女は言う。
「君は面倒事は嫌いなんだったっけ?」
……ガタッ
思わず立ち上がる。
きょとんとした顔の彼女とは裏腹に、俺は青ざめ、口を抑える。
__俺、今声に出してたか?
心の中を読まれたみたいだ。
そう思うと、彼女はハッとした顔をした。
「あ……えっと、」
落ち着きがない。面倒事が嫌いってことも、誰にも言ったことないし、顔にも出していないはずだ。
やっぱり彼女は俺の心を読んでいる。
…それに、選んだってなんなんだ。これから、何が起こるっていうんだ?
面倒事はゴメンだ。
「……帰る」
机の隣に置いていたカバンを荒っぽく取り、早足で教室を出る。
彼女が追いかけてくることはなかった。ただ、静かにこっちをじっと見つめていた。
残された彼女は、寂しそうな笑みを浮かべ、言った。
「どうせ逃げられないのに。……またね、啓くん」




