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復讐代行人  作者: s,a
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1、帰還

3月中旬 超高層ビル 花閊宏


「なあ、聞いたか?」

まだ、幼さを残した青年が興奮気味に鼻息を荒くして、隣を歩く同い年位の女性に話し掛けている。

「神城重邦さんのことでしょ?勿論、知っているわ,,,,復帰されるんですってね」


神城重邦


2年前、復讐代行部署にて、天津冬華とバデイを組んでいた男だ。

天津冬華が殉職した任務を最後に、この花閊宏を退職している。

「俺たちが配属される、復讐代行部署の先輩でライバルになるのか,,,,なんか、燃えるな‼」

と、青年が言う。

女性は、呆れたと言わんばかりに口を開く。

「"ライバル"って,,,,私たちが名乗れる訳ないじゃない!! 2年間も現役を退いていたとはいえ、かつて、伝説とまで謳われた、あの天津冬華とバデイを組んでいたヒトなのよ‼ 研修を終えたばかりの私たちが敵うはずないじゃない!!」

青年は、むっとしたように言う。

「そんなことないだろ! 2年だぜ? 何していたのかは解んないけど、きっと、身体鈍っちまってるって! 俺たちみたいに、毎日のように<身体作り>だとかいって、教官たちにこってり絞られてる訳じゃないんだろうし,,,,」

笑いながら楽観視している青年に対して、女性は「それでも、上のお偉いさん方は、彼を高く評価している,,,,復讐代行部署への復帰は確実だろうって、マリたちが噂していたわ,,,,」と言った。

「けっ」

青年は、おもしろくなさそうだった。

そっぽをむいている。

「それに、復讐代行部署は今、人員不足よ,,,,だから、私たちみたいなのが入り込めたんじゃない‼ あの部署に入れるのは、せいぜいアカデミーの次席までよ,,,,マリがいってたわ」

青年は女性の話を殆ど聴いていなかった。

「なあ、友枝,,,,"神城重邦"って、どんなヒトだと思う?」

すると、青年の隣を歩いていた女性が「うーん」と少し考える素振りをみせる。

「,,,,復讐代行部署員に必要なのは、大きく括ると3つあると言われているわ‼ ひとつは、体力‼ 巨漢だと思うわ 彼がバデイを組んでいた天津冬華は女性よ 彼女をパワーでカバーしていたんだと思うわ 2つ目は、知力‼ 自分の置かれている状況を一瞬で理解して、最善とおぼしき行動を常にとらないといけないの,,,,きっと、聡明なヒトなのね 直樹、あんたと違ってね」

友枝は、ニヤニヤとした表情で言う。

「俺と違っては余計だ‼ で、復讐代行部署に入るための3つ目って 、なんなんだよ」

直樹と呼ばれた青年はあまり興味無さそうに、ぶっきらぼうに訊ねてくる。

「それはねーーー」

友枝が口を開いたのと、ほぼ同時だった。

「,,,,あの、スミマセン,,,,」

と、申し訳なさそうな、第三者の声を掛けられたのは。

見た目、20代後半位の男性が友枝と直樹に話し掛けてくる。

「どうされました?」

すぐに反応したのは、友枝だった。

「あの、道に迷ってしまって,,,,」

迷子の男は困ったように頭を掻く。

容姿の整った優男で、身体の線が細い。

身長は、175㎝程度で、183㎝ある直樹と並ぶと随分小さく見える。

「依頼ならば、1階の外来窓口を通してもらうのが、決まりになっています ご案内致しましょうか?」

直樹が言った。

アカデミー時代に叩き込まれた、マニュアル台詞だ。

言葉こそ丁寧だが、この優男の存在を疎ましく思っていることが、丸解りの態度だ。

そんな直樹を友枝が視線で律する。

優男は、直樹の失礼な態度を全く気にする様子を見せず、朗らかに言う。

「ああ,,,,いえ、依頼ではありません 久しぶりに来たので、建物の中の配置が随分変わってしまっていて,,,,その制服は復讐代行部署の研修生のものですよね?」

(制服でどこの部署の所属か解るなんて,,,,このヒト関係者ね)

友枝はそう判断した。

隣の直樹もそのようだ。

目付きが鋭くなっている。

優男は、相変わらず穏やかな表情だ。

(このヒト、顔の皮、厚そうだわ,,,,)

と心の内で呟きながら、友枝は「復讐代行部署に行きたいんですか? 失礼ですが、IDを見せてもらっても構いませんか?」という。

優男は、キョトンとした顔を一瞬見せたが、すぐに穏やかな表情に戻り、「IDですね?」と懐をまさぐりだした。

訓練の時の癖で、友枝と直樹は思わず身構えてしまう。

優男は、そんな2人の様子を見ても動じた素振りは全く見せず、カードを友枝に差し出す。

「2年程前のものなのですが、大丈夫でしょうか?」

優男は、はじめて心配そうな顔を見せた。

「その、IDカードが本物なら、大丈夫ですよ」

直樹が横槍をいれてくる。

直樹が、やけに攻撃的なのが、友枝は気になった。

友枝は、カードに視線を下ろす。

優男のIDは、2年前のものとは思えない位、今と全くかわりない姿で写っていた。

IDに書かれている名前は、

"神城重邦"

先程まで、話に上がっていた、超有名人。

友枝は、顔を上げて、彼の容姿を確認する。

伝説の天津冬華とバデイを組んでいたとは思えない。

「?」

優男、もとい神城重邦は「どうしたんですか?」と不思議そうに覗き込んでくる。

「友枝」

直樹は、冷静だった。

友枝にIDスキャンを手渡す。

優男が渡してきたIDが本物か、それとも模造品か、これで一発で解る。

友枝は、優男のIDをスキャンにかざす。

旧型ではあるが、それが本物だと解った。


・・・・・


神城重邦を案内し終わった後、直樹は友枝を横目で見ながら言う。

「で、3つ目は、なんなんだ?」

直樹が何を訊ねているのか 、友枝はすぐに気が付いた。

間はかなり空いてしまったが、「復讐代行部署に入るために必要な3つ目」のことだろう。

「根性よ」

友枝は、素っ気なく言った。



3月中旬 超高層ビル 花閊宏19階 復讐代行部署オフィス


「やあやあ、待っていたよ! 神城くん」

そう両手を上げて出迎えたのは、復讐代行部署のトップの指揮官、代田信弘だった。


代田信弘


年齢は50代半ばで白髪交じりの見た目は、そこら辺にいるような、ただのデカイおじさんだ。

運動の類いは、でっぷりと肥大した腹のおかげか、全くお話にならないレベルだ。

しかし、IQ130と頭がとてつもなくキレる。

そして、えげつない性格だと噂されている。

「ご無沙汰しています、代田さん」

神城は、愛想良く挨拶をする。

代田は来客用ソファーに神城を誘導し、秘書の沢木に珈琲を運ばせる。

これは、最高クラスの接待と言っていいだろう。

復讐代行部署オフィスの扉の前で控えていた直樹は思った。

この、細身の優男が、伝説の天津冬華のパートナーだったのだと、今更ながら思い知らされる。

代田は、神城がソファーに腰を下ろすのを確認してから、ゆっくりと話し出す。

「きみが、この花閊宏に辞表を出したときは、上層部でも大変な問題になってね,,,,復讐代行部署・エースの天津冬華を亡くし、その優秀なパートナーであるきみまでいなくなってしまったら、復讐代行部署、存続の危機だったからね,,,,」

代田は、ここで言葉を切り、秘書・沢木の運んできた珈琲に口をつける。

神城もつられるように珈琲を口に運ぶ。

「突然だったからね,,,,きみが辞表を出したのは,,,,」

「ええ、そうでしたね,,,,」

代田は、懐かしむように目を細める。

神城の表情も穏やかなものだった。

だが、代田のように懐かしんでいるようにはみえない。

「当時は利益のことばかりで、部下であるきみの気持ちに気付いてあげられなかった,,,,あの時は任務に成功したものの、大切なパートナーである、天津冬華を失ったんだ 責任を感じないはずがなかったんだ,,,,突然じゃない きみは、あの時既に花閊宏を辞めるつもりだったんだね,,,,」

神城は目を伏せ、代田の言葉に応えなかった。

代田は、それを肯定したとみなして話を続ける。

「でも、きみは戻ってきた,,,,心の準備は出来たのだろう?仲間の犠牲の上に成り立つ任務を遂行する覚悟が、出来たということだろう? きみは、既に契約書にサインしている!! 花閊宏の意思に従ってもらうぞ!」

先程までの穏やかな口調が一転し、代田はいやらしい笑みを浮かべ、神城に契約書を突き付ける。

「勿論、そのつもりですよ,,,,代田さん」

神城の表情は、恐ろしい程変化がなかった。

代田の考えは、あらかじめ予想していたのかもしれない。

「でも、代田さん,,,,」と神城は話を続ける。

「ぼく、1年契約なので、よろしくお願いしますね」

神城は、綺麗な笑みを浮かべて言い切った。

「1年契約ウ~~~~?」

代田は慌てて先程、突き付けていた、神城の契約書を穴があく程見返す。

代田の眼球が左右にと、猛烈なスピードで、書面の上を走る。

「クソっ! こんなの"あり"なのか? うちに1年契約など,,,,」

「特別に認可して頂きました ぼくが、復讐代行部署に戻る条件として提示させてもらいました お話は、これで終わりでしょうか? では、"上"にも挨拶に行かなければいけないので、失礼します」

神城は、何事もなかったかのように飄々と友枝と直樹の横を通り過ぎ、復讐代行部署を後にした。

「沢木イ~!」

代田が叫ぶ。

その声の大きさに友枝と直樹は、ビクッとする。

すると、すぐさま「なんでしょう、代田さん」と秘書沢木が代田に駆け寄る。

「あいつ,,,,神城は、なにか、企んでやがる! もしかしたら、俺の無理な命令で死なせちまった天津の敵討ちに俺を貶めるつもりなのかもしれねえ,,,,あいつは、賢い 油断できねえ 沢木、あいつを見張れ」

「それは、命令ですか?」

沢木は無表情のまま、代田に問う。

「ああ、そうだ、従え!」

「,,,了解しました」

一瞬、間が空いたのが気になったが、沢木は2つ返事を返した。




3月中旬 超高層ビル 花閊宏 エレベーター内


神城は、最上階のボタンを押し、ガラス張りのエレベーターの外の景色を眺めていた。

神城の口元は、自然と緩んでいる。

先程の復讐代行部署オフィスでの代田の表情が神城の"ツボ"に見事にハマった結果だ。

「代田さん、本当に,,,,相変わらずだったな 沢木さん、これから大変だろうなあ~」

誰に言う訳でもなく、神城は小さく呟いた。


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