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是音  作者: 舞島 慎
12/28

親友の言葉

 僕の他に誰もいない家なのに、突然僕の部屋の扉が開く。といっても怪奇現象ではない。玄関から入ってくる人の気配と声がしたのだ。

「久しぶりだな。潤也」

「シゲ。元気そうだね」

 僕達はゴツっと拳をぶつける。それが僕達の挨拶。

 親友の神谷茂昭とは、家族ぐるみの付き合いをしていた。それは会う機会が減った今でも変わっていない。

 だからシゲはチャイムも鳴らさず僕の部屋に入ってくるのだ。

 そんなシゲに僕は学習机の椅子を半回転させて座り話しかける。

「どう? 最近は?」

 シゲはコンビニの袋と一緒に床に座った。

「相変わらずだ。こう、引きつけられて止まない子って、いないね」

「ほんと、変わらないな」

 シゲの言葉に僕は思わず苦笑い。

 整った顔立ちのシゲは昔からモテた。僕はその側にいて、つぶさに女の子への接し方を学んだと言っていい。

「潤也はどう? 少しは扱い上手くなったか?」

「上手くなったかは分からないけど。最近は周りが動いてる、かな」

 僕はさらっと高瀬さんと出かけた事や、泉さんとや滝川さんの事を話す。

 そんな僕の話に、シゲの切れ長の目が眼鏡越しに煌いた、気がする。

「へぇ。面白いな。その無口な子」

「滝川さん?」

「そう。昔のお前もそんな感じだったよな」

「そうだね。優秀な兄貴と、君がいたからね」

「兄貴、元気か?」

「うん。今年は卒研で忙しいって」

 僕の兄の宗介は地方国立大学の四年生で、一人暮らしをしている。

 かつて兄貴と寝起きした僕の部屋には、兄貴が帰省のたびに置いて行った雑多なCDがある。

 それを聴き倒した僕は、色々な音楽に詳しくなった。といっても浅く広くだが。

「帰ってくる時は連絡してくれよ?」

「うん。分かってるさ」

 シゲも、兄貴にとっては弟みたいなものだからな。


「で、話戻るけど、高瀬さんが、去年会った人だよな?」

「うん。写真あるよ」

 本棚から去年の学校行事のアルバムを抜き出して、シゲの隣に座る。ついでにコンビニの袋からジュースを拝借。

「あー。この人ね。確かに美人だったな。でもその友達の方がイメージ残ってるわ」

「リコさん、だっけ。ツインテールの」

 高瀬さんの地元の友達というリコさん。

 大人びた高瀬さんとは対照的に、パっと見では中学生にも見える子だった。

「そうそう。それで、誘われたのか?」

 やっぱりそこが聞きたいよね。

「それがさ。シゲの事、元気? って聞いただけで、それ以上は」

 僕は首を振って否定を伝える。

 だからこそ、高瀬さんの真意が分からない。

 まぁ僕自身がどうこう、という話にはならなそうと思っているが。

「そうか。まぁ今年も行ってみるか?」

「元より行くつもりでしょ? 祭り事には目が無いクセに」

「さすが潤也。よく分かってる!」

 シゲはガシっと僕の肩を掴む。

 昔よりキャラが軽くなった気がするけれど、まぁいいか。

 コイツの深いところ、僕はよく知っているから。


「これが泉さん。こっちが滝川さん」

 アルバムの写真で二人を示す。

 写真は文化祭の一幕だが、泉さんはいつもの笑顔でピースをしている一方、滝川さんはやっぱり無表情だ。

「ふぅん。なるほどね。両方ともなかなか……」

 やっぱりそっちか。

「クラスメイトを獲物を探すような目で見るなと」

 軽くシゲの頭を小突く。

「いや、こういう無表情なのも、それはそれで需要が」

「何のだよ!」

 久々に本気でツッコんだ気がするぞ。

「まぁ、それはともかく、だ。行動に意欲が無いわけでもないし、人嫌いなわけでもない。話を聞く限りだけどな」

 シゲの口調がマジメなものに変わる。

 こっちがシゲの本当の姿、なんだけどな。

「思うところが表現出来ないのかもな。抑え込む事がクセになってるのかもね」

 シゲが接してきた人数は、僕より多いはずだ。

 記憶が正しければ、中学の同期の連絡先は大体知ってるはずだし。

 そんなシゲの見立ては、そばにいる二人の見立てに近かった。

「でだ。何でお前は声をかけたんだ? 一回目は気まぐれ、二回目はCDを返すとして、その後だ」

「何で……だろうね? 何となく気になった、ていうのが正直なところなんだけど」

 シゲは僕の顔をじっと見つめている。

「興味がある、んだと思う。昔の自分を重ね合わせてたのかもしれないけれど」

「同情か?」

「そんなつもりは無いよ?」

「そう取られる事もある。上から目線にならないように気を付けておけよ?」

 そういう視点もあるか。

「あぁ。ありがと」

「分かってればいい。まぁ潤也なら大丈夫だと思ってるよ」

 シゲはそう言って軽く笑い、ジュースを口にした。

 親友の言葉、心に留めておこう。


 その日、シゲはいつも通りうちで夕飯を食べ、帰っていった。



 夏祭りの催される隣町とは、川一本を隔てている。

 その川の中州から花火は打ち上げられる。つまり、僕の町からでも花火を見ることは出来る。

 でも祭りと言えば、屋台。これは外せない。ということで、わざわざ隣町まで出向くのだ。

「さて、潤也。何から食う?」

「やっぱり、たこ焼きかな」

「オッケー。行こうぜ!」

 屋台は見ているだけでもワクワクするものだ。活気と熱気に溢れた、異空間だからかもしれない。

 歩いていくと、そこかしこから色々な匂いが漂ってくる。

 それが食欲をそそるというものだ。

「やっぱり浴衣姿はいいよなぁ」

 親友の注目は、どちらかというとそっちらしい。

 ま、確かにそれも一つの楽しみではある。周りをちょっと見渡せば、色とりどりの浴衣が夜道に艶やかに映えている。

 やっぱり、可愛く見えるよね。

 もっとも、僕には声を掛ける勇気など一欠片も持ち合わせていないのだが。


 どこの屋台で買おうか、と悩みながら歩いていくと、不意にシゲが足を止めた。

「そこのにしようぜ」

 特別ここのがいい、という希望も無いし、まぁいいか。

 そう思い屋台に向かって足を向けた時だった。

「イチ君見っけ!」

 毎度毎度、いいタイミングで声をかけてくれるなぁ。

 そう思い振り返った僕は、一瞬目を疑った。

「え? 泉さんに、滝川さんも?」

 声の主は高瀬さんだった。それは立地条件的に自然な事だ。

 だが、二人が一緒であることは予想だにしていなかった。

 それでも三人とも浴衣姿では無かった事を、ちょっと残念に思ってしまったのは勘弁していただきたい。

「やほ!」

 呆然とする僕に、泉さんは爽やかに片手を上げて挨拶をくれる。

 滝川さんは軽く頭を下げてくれた。

「この辺にいれば見つかると思ってね」

 高瀬さんは今日も髪を後ろで束ねている。

「そっか。あ、えっと、こっちは友人の神谷茂昭」

 気を取り直し、二人にシゲを紹介する。

「神谷だ。出来ればシゲと呼んでくれ」

「泉沙耶よ。こっちが滝川美優。よろしく、シゲ君」

 泉さんの言葉に、滝川さんは再び頭を下げる。

「さっそくだけど、たこ焼き買って来るけど食べる?」

「うん!」

「オッケー。ちょっと待っててね。潤也、行くぞ」

「あ、あぁ」

 シゲに促がされ、後に続き屋台へと向かう。

「なるほど。確かに聞いたとおりだ。潤也には荷が重いかもなぁ」

「どういう意味?」

 屋台に並びながら、チラッと彼女らを見る。

「泉に高瀬。二人ともなかなかのクセモノと見るね。潤也は真っ直ぐだからさ」

 それは褒められてるのか、貶されてるのか。

「すいませーん。二つ下さい。……あ、袋はいいです。潤也、片方持って」

 そう言ってシゲは代金を支払う。

「分かってると思うけど、後で払えよ?」

「分かってるって。あの子達には払わせない、だろ?」

「そういう事だ。……よし、行こう」

 それぞれパックを一つずつ手に持って、三人の方に戻る。

 あれ、そういえば今年はリコさん、いないのかな。

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