本物
夕暮れのデパート屋上は、親子連れの家族で賑わっていた。
なんでもこれから地元限定のヒーローショーがあるらしい。
アドバルーンに吊るされた垂れ幕には、たしかにそのような記述がされていた。
そのため屋上には簡単な舞台設定がなされており、登場キャラクターはテントの中で待機していた。
「ねえねえおとうさん、これからどんな人がでてくるの?」
と、息子は尋ねてくるが、わたしもご当地ヒーローはみたことがない。だから適当にぼかして教えておいた。
期待せずにパイプ椅子に掛けて待っていると、悪役が出てきてモノローグを言い始めた。
このデパートをのっとってやるとか、そんな感じの前口上だ。
それにしてもお粗末な演劇だなと、わたしは思わずにいられなかった。
その悪役は覆面レスラーのような格好で登場してきたのである。
そして彼は、観客席から子ども何人かを人質にとると、喜びのあまり奇声を発した。
すると。
それを待っていたかのように戦隊ヒーローがやって来た。
こちらもチープな印象は否めず、全員が警備員のような格好をしていた。
これから変身するのだろうか。
しかしそんな期待とは裏腹に……。
ヒーロー対ヒールの地味な大捕物が幕を開けるのだった。
殴りあって、蹴りあって。
揉み合って、組み合って。
攻めあって、責め合って。
そんな感じの、見せ物が開演された。
変身もしなければ、ビームも撃たない。
敵役は爆散しないし、殴りあっても火花が散らない。
現実的なバトル。
もはや人質は関係なくなっていた。
そして。
勝敗は決まり、悪役はパトカーに乗せられて、連行されてしまった。
どうやらさきほどの悪役も、正義も本物だったらしい。
正義が警備員で、悪役が強盗。
まさしく適材適所の見せ物であった。




