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掌編小説集  作者: オリンポス
ヒーローショー
5/32

父親

1,8oo字程度とちょっと長めです。

 夕暮れのデパート屋上は、親子連れの家族で賑わっていた。

 なんでもこれから地元限定のヒーローショーがあるらしい。

 アドバルーンに吊るされた垂れ幕には、たしかにそのような記述がされていた。

 そのため屋上には簡単な舞台設定がなされており、登場キャラクターはテントの中で待機していた。

「ねえねえおとうさん、これからどんな人がでてくるの?」

 と、息子は尋ねてくるが、わたしもご当地ヒーローはみたことがない。だから適当にぼかして教えておいた。

 期待せずにパイプ椅子に掛けて待っていると、悪役が出てきてモノローグを言い始めた。

 このデパートをのっとってやるとかなんとか、そんな感じの前口上だ。

 まあ、ありふれたセリフだよなあなんて思いながら、息子の様子をうかがってみる。かなり険しい顔つきになっていた。

 拳をぶるぶる震わせている。

 正義に燃えているのか、怖くて震えているのかの、どちらかだろう。

 悪役の一人語りが終わると、「そうはさせるかー!」とヒーローたちがでてきた。

 赤色と青色と黄色の3人組だった。

「いつでも鼻血が止まらない、赤鼻だ! 赤鼻レッド」

「いつでも全身アザだらけ、嘲笑え! 青アザブルー」

「いつでも歯が黄ばんでます、黄色い声援よろしくね! 歯が黄イェロー」

 ポーズをそろえて、

「「「3人合わせて満身創痍でイタインジャー!!!」」」

 ご当地ヒーローは叫んだ。

 なにこれ。

 …………ゆるキャラ? わたしの頭をふなっしーが全力で横切った。

 もちろんここは千葉県でも船橋市でもない。だからすぐに否定する。

 落ち着け、わたし。これはご当地ヒーローショーだぞ。

「でたなー、イタインジャー。変身を解いたらいろいろ残念なくせに」

 悪役は忌々しそうに毒を吐いた。

 ――安心しろ、悪役。

 変身を解かなくてもいろいろ残念だ。

 わたしは悪役に同情した。

「こうなったら奥の手だ。さあ、でてこい! 我が親愛なるドクターよ」

 すると舞台袖から、このデパートのオーナーらしき人物が1人だけでてきた。

 なにやら客席に向かって頭を下げている。

「どうもすみません。ほんとうは従業員をつれてくる予定だったんですが、おかげさまの大盛況で、レジ打ちの手が回らないものですから、今回は毒ターなしでお願いします」

 オーナーらしき人物は再度悪役に一礼して、屋上からでていってしまった。

 悪役はこちらを向いて虚勢を張った。

「わはは。毒ターはこの大盛況に乗じて、ショッピングを楽しんでおるわ!」

 それを聞いたヒーローはそれぞれ驚きを隠せていないようで、

「くそ、なんてことだ。鼻血が止まらないぜ」

「くそ、なんてやつらだ。青アザが痛むぜ」

「くっ、なんて人たちなの。歯がゆいですわ」

 わたしはこれをみて、ローカルになっている理由を知った。

 全国放送にしたらクレームが殺到するぞ。

「悔しかったらかかって来い!」

 負傷者にそんなことを言うのかよ。確かにこれは悪役だ。

 ひと通りバトると、雌雄が決した。

 悪役が勝ったのだ。

 なんでだよ、イタインジャー。お前ら敵役をリンチしてたじゃねーか。わたしは思わず突っ込んだ。

 するとイタインジャーが直々に解説を入れた。

「ヤバい。また鼻血が垂れてきた」

「まずい。青アザが腫れてきた」

「ひどい。歯が黄色いって言われた」

 なるほどな。

 それぞれに弱点があるってわけだ。

 ――と。

 悪役は嘲笑いながら、観客席へとやってきた。

 そしてわたしの息子を指名すると、

「お子さんをお借りしてもよろしいですか」

 悪役から訊かれた。

 わたしが首肯すると、悪役は息子を抱き上げてステージに連れていった。

 息子は暴れているが、わたしは無視し続けた。

「おとうさーん、おとうさーん」と呼ぶ声が、けなげでかわいい。

 それをみていたヒーローは怒ったように、

「その子どもを離せ」

 と、異口同音に言った。

「ならば力ずくでやってみろ」

 悪役も負けてはいない。

 息子をおろして戦いにそなえる。

「いくぜっ!」

 反撃が始まった。

「正義の鼻血はレッドの証。必殺・鼻血ブー」

 悪役の目元が血で赤く染まる。

「青いアザでブルーな気分。必殺・オードブルー」

 まるでオードブルのように多彩な攻撃が繰りだされた。

「黄色い歯は丈夫な証拠よ。必殺・ランデブー」

 まるで彼氏の浮気現場を目撃した乙女のような、痛烈な連打がお見舞いされた。

「くそー、おぼえてろー。イタインジャー」

 こうして演劇は終わったが、わたしは息子に嫌われてしまったようだった。

 悪かった――息子よ。

 でも仕方ないじゃないか。

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