もち
“新年あけましておめでとうございます”っていうテレビCMが、あと3日くらいは続きそうだなーと思いながら、投稿しました(笑)。
寒風吹きさすぶ中。
ボロ小屋の煙突屋根からは、暖かい空気が排出されていた。
「悪いけど、ぼくには食べられないよ」
臼に入ったもちを、しゃもじでちぎって取り分ける父にぼくは言った。
味噌汁の入ったおわんからは、もうもうと湯気が立ち上っていた。そこに熱々のもちが投入される。
「どうした? 雑煮もち、食わねぇのか?」
親戚のおじさんが目尻に皺を寄せて、笑う。いつも笑っているせいで、目元にはくっきりと筋がついていた。
「だって、ぼくはもちついてないし。それなのに食べたら、なんかよそ者みたいって言うか……」
慎み深くなったな、と。
親戚のおじさんが笑う。
近所の人たちも、微笑を浮かべている。
みんな優しいな。
そう思うと胸が痛んだ。
なおさら食べたくなくなる。
使い古された薪ストーブが、パチパチと火花を散らす。
母親は換気口から火かき棒を突っ込んで温度を調整していた。
「そんなにもちがつきたいならよ」
父親はぼくの目の前に来て。
いきなりぼくを突き飛ばした。
「うっ……」
すすけたコンクリートに両手をついて、ぼくは倒れこむ。
「ほら、もう食べれるだろ?」
父親はニカッと歯を剥き出して笑った。
「尻もちをついたんだから」
老朽化が進んでいるボロ小屋は。
しかしどこよりも暖かかった。
今年も一年間、よろしくお願いします。




