【BL】悩める関係
言われなくともわかってはいる。
「こんな役立たずを副会長にするなんて、優秀な会長でも血迷ったことをするんですね」
それなのに風紀委員長、上総倖は副会長、中山大和の落ち度を見つける度になじらずにはいられないらしい。
確かに過失を犯した大和が悪い。
ただ些細なものでさえ同じ調子なのだ、悲しくなっても仕方ないだろう。
「ああ、体の良い駒だったのかな。変にプライドが高い者を指名しても会長ほどの人であれば邪魔な存在にしかならないですからね」
おまけに注意の仕方がもはやパワハラだ。
大和はひたすら耐えてどこへも訴えてはいないが。
「だからさ、風紀に」
「大和」
ここでいつもと同じように途中で助け舟が入った。
会長、白水御影が遮ったのだ。
「悪い、上総委員長。うちの副会長は今回何をやらかしたんだ」
「提出書類に誤字です。おまけにそのせいで違う意味に取れる文章になっていたんです。僕が見つけなければ誤解を生んで大変なことになっていました」
「それは申し訳ない。後の指導は生徒会で行う。だから今はこれで勘弁してやってくれないか?頼む」
そう言って御影は謝罪と願いを込めて頭を下げた。
何もしていない幼馴染みにこんなことをさせてしまうなんて、と大和はこの瞬間が情けなくなって特に自身への嫌悪感でいっぱいになる。
「良いでしょう。しかし容易に下げられるなんて安い頭ですね。まあ、そこのと違って有能ですけど」
そんな御影にも毒舌は容赦なく飛ぶ。
だが当の本人は気にした様子もなく反省している大和へ視線を向けた。
「ほら、許可もらえたし行くぞ」
「うん」
御影はコツンと大和の額を軽く小突くと、手を取り風紀委員室から連れ出した。
扉が閉まっても倖は不機嫌そうにもう見えもしない二人の方に顔を向け続けていた。
そんなことを知らずにぐるぐると渦巻く感情からやっと脱した大和は生徒会室まで戻ってきていた。
「御影、いつもありがとう。けどまた迷惑かけてごめん」
「いや、俺は大和がいて助かってるから。書面なんてものに残らないところなんか特にありがたいことしてくれてる。それに自分のミスではない所でも黙って怒られてくれているんだ、こっちこそ悪いな」
「でも」
「でもじゃないって。昨日なんか書類止めのホッチキスの針が曲がっていなくて危ない、だろ?そんな黙って直しておいてくれたって良いところをわざわざ言うとか、あいつも細かすぎるとこあるし」
御影はそう戸惑いを隠すように苦笑いしている。
大和自身どうも倖は他の人とは異なる態度で接されていると感じている。
いつも見ているわけではないが、少なくともそうしている分に手厳しさはないのだ。
これは大和を生理的に受け入れられないということではないのだろうか。
過去の生徒会と風紀委員会は特に険悪な関係ではなかった。
それなのに大和のせいで今期はそうなってしまっているのだ、心苦しくて仕方ない。
「書類提出、これからは誰かに頼んだ方が良いのかな」
せめて面倒なことは最小限にしなければと思い至ったのがそれだった。
こんな風に助けてもらってばかりでは、余計な手間をかけさせているような気がしてならないからだ。
「そうだな、これからは俺が行くよ」
「ごめん、煩わせて」
「だから良いって、誰だって相性が合わない人はいるだろうから」
はっきりと断言はしていないが御影も倖の大和への態度は同じような見解らしい。
被害妄想ではなさそうで、疎外感で寂しくなった。
これで顔を合わす機会がなくなって何も感じないようになれば幸いだ。
大和はこれで全てが解決するとお気楽な思考は持ち合わせていなかったが、この決断により更に悪化するとも思っていなかった。
◇◆◇◆◇
所戻って風紀委員室。
「委員長がまた職権乱用してます」
「うわ、また堂々とストーカー行為を」
「会長がいつも邪魔して、鬱憤が溜まってますからね」
「いや、だからってしたら駄目だろ。副会長完全に被害者だし」
彼らの目の前には監視カメラの映像を睨みながら小刻みに震える倖の姿があった。
見つめているのは生徒会室の中。
いや正しくは大和を、だ。
音声を拾うことができるので会話も筒抜けであった。
「何あれ何あれ何あれ」
平委員たちの囁きなど耳に入っておらず、倖はひたすら憤っていた。
風紀で更正してやる、と引き込みたいのだが狙って御影に邪魔されて上手くいかない。
下僕を生徒会に潜ませてはいるが思い通りにならないのだ。
「役立たずが」
低くつぶやかれたそれに冷や汗をかきながらも、平委員二人は考察を再開した。
「でさ、副会長って本当にミスが多いのか?」
「いえ、少々鈍いところがありますが…どうやら委員長の手引きで小細工しているせいのようです」
「あー、やっぱ?毎回書類を渡されて直ぐにミスを見つけるなんておかしいと思ってたんだよな」
小声とはいえ反応がないのを良いことに本人の前で大っぴらである。
倖が憤慨するのは大和との仲を邪魔する事柄なので、そうでなければ気にも留めないことを二人はわかりきっていた。
「話の流れから接触が減りそうだし、このままじゃ委員長がヤバい方向に走りそうな気がするのは俺だけか?」
「大丈夫だ、俺もするから」
「いや、それ全然大丈夫じゃねえし」
こうして今日も哀れな大和へ向けて心の中で合掌するのであった。