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Black-BLAZE  作者: 久保 徹
3/5

03 黒い送り手

 

「あんた誰?」

 

 その男は高そうなスーツに身を包み、ボタンは全部閉めネクタイもしっかり

 

「これは失礼、私はこの町の町長の補佐官をやっている者です」

 

 そう言って懐から名刺を取出した

 

 名刺には確かに補佐官と書いてある

 

「ウィルを探してるってことは、仕事の依頼?」

 

「はい、それも緊急の」 

「わかったよ、一応話してみるよ」

 

「そうですか、ありがとうございます それでは失礼します」

 

 男は頭を下げて去って行った

 

 その後宿に戻ったエルは、早速ウィルに話してみた

 

「……ってわけなんだけども」

 

「受けたのか?」

 

「いんやまだ こいつも反応しなかったし、資金稼ぎにはちょうどいいんじゃない?」

 

 こいつとはエルの左目のこと

 

 彼女の左目は予知能力を持っていて、一日以内に何か起こる時には、その時の映像を断片的に見ることができる

 

「そうか なら行くだけ行ってみるか」

 

 

 

 門番の兵士に事情を話し大きな門を開けてもらい中に入った

 

「やっぱ町長はいいとこ住んでるわぁ」

 

 官邸の中は二階までの吹き抜け、大理石の床、二本の大きな支柱などウィル達の生活とは真逆のものだ

 

 案内されるまま二階へ上がり、町長の執務室に通された

 

「町長、傭兵のウィルさんをお連れしました」

 

「あなだがあの有名なウィルさんですか!どうぞ座ってください!」

 

 二人が席に座ると町長も正面に座る

 

「まさかあのウィルさんがこんなにお若い方だったとは!てっきりもっとベテランの……」

 

「町長、そんなことより仕事の内容を教えてくれ」

 

「あ、そうですね」

 

 仕事の内容は、最近町の近くで目撃情報が絶えないサンドワームの群れと、その中心となるキングワームの討伐だ

 

「報酬は七千程でどうでしょう」

 

「キングワームが相手なら一万だ」

 

「……そうですか、わかりました」

 

 話がまとまると早々にその場を立ち去り、宿に戻ると準備を始めた

 

「キングワームってどんな奴なの?」

 

 キングワームと遭遇したことのないエルは、準備をしながらウィルに聞いてみた

 

 ウィルも相棒の手入れをしながら答える

 

「要するに堅くてデカイサンドワームだ」

 

「堅くてデカイ……」

 

 エルは目を閉じてキングワームを想像しているようだ

 

 その表情はみるみる曇っていき……

 

「無理だ!こんなん無理だよ!」

 

「どんな想像してんだよお前」

 

 おそらくとんでもない化物を想像しているであろうことは分かる

 

「準備終わったんなら寝るぞ」

 

「へーい」

 

 こうして二人は明日に備えて眠りについた

 

 

 

 

 翌日、この日も相変わらず暑かった

 

「さっさと終わらせて……帰ろうよ……」

 

「ならさっさと見つけろ」

 

 降り注ぐ太陽のたてがみが、じわじわと体力を奪っていく中、砂に足を取られそうになりながら砂漠を進む二人

 

「そんなこと言われてもさぁ……!」

 

 あまりの暑さにすっかり口数の減ったエルだったが、突然立ち止まり左目の眼帯を外した

 

「見えたのか?」

 

 ウィルの問いに答えることなく、全てが黒に染まった左目はどこか遠くを見ているようだ

 

 だが次の瞬間、足元を見て叫ぶ

 

「来たよ!下!」

 

 とっさに飛び上がった二人が立っていた場所に大口を開けてサンドワームが現れた

 

 エルが背中から手製の二丁拳銃を取出し、空中からサンドワームの開いた口に向けて引き金を引いた

 

 連続の発射音とほぼ同時にサンドワームの頭部外皮が細かく飛び散る

 

 悲痛の叫びを上げるサンドワームの足元には、剣先を後ろに、腰の辺りで構えるウィル

 

「まず一匹」

 

 物凄い剣速で振りぬくとサンドワームの胴体は両断され、上の部分が地に落ちた

 

「ただのサンドワームじゃん」

 

 歩み寄ったエルが拍子抜けしたように言った

 

 だがウィルは剣を収めることなく、警戒を解いた様子はない

 

「もう二、三匹はいるはずだ」

 

「マジ!?しょうがないこいつを試そう」

 

 エルの腰のベルトは多数の補充用弾薬を取り付けられるように改造されている

 

 そこから弾薬を一つ取り外し、通常弾と取り替えた

 

「なんだ?」

 

「サルバで買った撤甲弾!」

 

「効くのか?」

 

「たぶん! おっ、噂をすれば」

 

 突然前方の砂が爆発したように舞い上がり、三匹のサンドワームが現れた

 

(今、自信満々でたぶんって言ったな)

 

 ウィルの気持ちなど露知らず、エルは待ってましたとばかりに引き金を引く

 

 通常弾より多少強い反動を残し、弾は見事命中しサンドワームの体に幾つも大きな穴を作った

 

「おお〜!やる〜!」

 

 そのまま後ろに倒れたサンドワームを見て、喜ぶエル

 

 ウィルも負けじと残りの二匹に突っ込んでいく 

 体当たりをジャンプでかわしそのまま兜割り、最後の一匹も一気に間合いを詰めて切り倒した

 

「よっしゃ!」

 

「まだ気を抜くな、来るぞ」

 

 一瞬の静寂の後、地響きが起きた

 

 始めは小さな揺れも徐々に大きく激しくなっていく

 

「な、なにこの揺れは!?」

 

「来るぞ」

 

「揺れが止まった……」

 

 一瞬揺れが止まった後二人の目の前に最終目標が現れた

 

 二人の目線はどんどん上へ上へと高くなっていく

 

「なんだ想像より小さいじゃん」

 

(お前の想像力には頭が下がる)

 

「よーし!さっさと倒して銃を強化だ!」

 

(まずは落ち着きを強化することから始めろ)

 

 調子に乗ったエルは撤甲弾を連射する

 

 だがキングワームの分厚い外皮には決定的なダメージを与えることはできない

 

「堅いなぁ」

 

 直後、キングワームが口から砂を吐いて攻撃してきた

 

 エルは左に飛んで避ける

 

「任せろ」

 

 助走をつけて飛び上がり、キングワームの体めがけて剣を振り下ろす

 

 たがまたしても堅い外皮が邪魔をする

 

 反撃の体当たりをかわして着地すると、キングワームは砂中に潜った

 

「面倒だ、出てきたら決めるぞ エル」

 

「わかってます!」

 

 エルは右目を閉じてキングワームの出現地点を予知する

 

 その間にウィルは剣を収め、右腕の巻き布を解く

 

「後ろ!」

 

 後ろに振り向いた直後キングワームが低空飛行で襲いかかってきた

 

「これで終わりだ!」

 

 叫ぶと同時にウィルの右腕は瞬く間に鎧のように堅く、手首から先は鋭く大きな鉤爪のように変化した

 

 そのままカウンターを食らわすと、キングワームを頭から胴体の真ん中辺りまで、三枚おろしのごとくバッサリ斬り裂いた

 

 

 

 

 この黒い右腕で、戦場で出会った全ての敵をあの世に送る

 

 ウィルはいつしか《黒い送り手》と呼ばれていた

 

 

 


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