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Black-BLAZE  作者: 久保 徹
2/5

02 砂漠の終わりの町

 

 変わらない灼熱の太陽の下、男は歩き続けている

 

 後ろには長く続く自分の足跡、前には地平線まで砂漠が広がっている

 

「ふぅ……」

 

 しばらく歩くと小さなオアシスを見つけた

 

 水場もある、男はオアシスに入り、水場の前でしゃがみフードを取った 

 フードの下にあったのは、成人前のまだ十七、八ほどの少年だった

 

 顔を洗い、一口水を飲み、ボトルにも水を汲む 

「そろそろのハズなんだが……」

 

 少年は空を見上げ、何かを探している

 

「……いた」

 

 見つけたのは一羽の鳥だった

 

 下を見下ろしていた鳥も、少年の姿を見つけると一声鳴き西へ飛び去った

 

 

 

 鳥が飛び去って一時間後、少年はオアシスの木陰で休んでいた

 

 するとそこへ、けたたましいエンジン音を響かせて一隻の航砂艇がやってきた

 

 航砂艇とはエンジンを積んだ砂上専用の船だ

 

 オアシスの横に止まった航砂艇から一人の少女が降りてきた

 

 少女は少年を見つけると、駆け足で近付き言った

 

「待たせたな、少年!迎えに来たぞ!さぁ早く乗りたまえ!光陰矢のごとし!時は金なり!」

 

 少女が身振り手振りで熱く語り、ふと目線を下ろすとそこに少年はいなかった

 

「おい、早く行くぞ」

 

 語っている間に少年はすでに航砂艇に乗り込んでいた

 

「………」

 

 少女は無言で船に戻り操縦席に向かった

 

「折角迎えに来てあげたんだから何か一言あってもよくない!?」

 

「ちゃんと礼はする」

 

「何を!?」

 

 礼、という言葉に素早く反応し操縦席から顔を出した少女に向かって、小さな紙袋が投げられた 

「こ、これは!」

 

 袋の中身を見た少女は驚きの声をあげる

 

「ミュラー工房の設立五十周年記念モデルじゃないの!」

 

 中から出てきたのは、バラとそれに絡まるトゲの付いたツタがデザインされた眼帯だった

 

「これどこで!?」

 

「途中の町だ 最後の一個だったな」

 

 少女はサッと後ろを向き今着けているハートに矢が刺さった眼帯をはずして付け替えた

 

「しょ、しょうがないわねぇ、今回はこれで勘弁してあげる」

 

「口が笑ってるぞ」

 

 少女は聞こえないフリをして船を出した

 

 

 

 ここで彼らの紹介をしておこう

 

 

・ウィル=ブレイズ

・十七才

・髪の色/ブラック

・瞳の色/ブラウン

・職業/傭兵

 

 

・エルフリーデ=ノイン・十五才

・髪の色/ゴールド

・瞳の色/レッド

・職業/情報屋

 

 

 特に情報屋のエルフリーデ(通称エル)は左目の眼帯を集めるのが趣味 

 先程の記念モデルでついに四十種類になった

 

「エル、この先の町はどんなとこだ?」

 

「砂漠の終わりの町だから一通りあるけど、やっぱ水はちょい高いよ」

 

 ウィルは袋に入った硬貨をジャラジャラ鳴らしながら話を聞いている

 

「あ、なに?もしかして今リッチなの?」

 

「前の仕事がなかなかデカイ仕事だったからな」

 

「へぇー」

 

 そう言いながらもエルの視線は船の前方とウィルの袋を行ったり来たりしている

 

「そうそう!町でさ、結構いい情報を仕入れたのよ まぁそれなりに高かったけどね?」

 

「おごらないぞ」

 

「わかってるよ、いつもそうじゃないのぉ!…………ちっ」

 

「お前もいつも通りだな」

 

 いつものようにウィルはエルのハイテンションを軽く受け流している

 

 こんな二人が出会ったのは今から二年前、ウィルが傭兵の仕事で訪れたある町だった

 

 その時すでに二人は右腕と左目に《憑かれて》いて、それを隠しながら暮らしていた 

 だが互いがそれを知った時、二人は自然と行動を共にするようになっていた

 

 その後、《憑かれた》代償として身についた能力を使い、元の体に戻るための旅に出た

 

 そして二年経った今、二人の旅は徐々に動きだしていく

 

「ウィル、見えてきたよ」

 

「あれか」

 

 砂漠を走ること一時間、砂丘の先に砂漠の終わりのサルバが見えてきた

 

 町に入る前に入り口の横にある航砂艇の停泊場に寄り、レンタルしていた航砂艇を返した

 

「レンタルだったのか」

 

「とーぜんよ」

 

 そして次に向かったのは、どの町にもある換金所

 

 珍しいアイテムを持って行けば、アイテムに見合った金額と交換してくれる

 

「これはサンドワームの顎骨だね なかなか立派な物だ、一つ千給金だけどいいかい?」

 

「ああ、それで」

 

 二人は外に出ると宿へ向かった

 

 年ごろの二人だがとった部屋は一つ、エル曰く理由は

「安いから」

だそうだ

 

「だぁぁ、あぢかったぁ!」

 

 ベッドに倒れこむエルを横目に、ウィルは荷物の中から包帯のような白い布を取出し、もう一つのベッドに座った

 

「ウィルは大変だね、右腕なんかに憑かれちゃって」

 

「もう、慣れた」

 

 ゆっくり布を解く

 

 その下にあるのは漆黒に染まる腕

 

 この色こそ、彼らが《憑かれて》いる証であり普通の人間ではない証

 

「お前だって目じゃ大変だろ」

 

 そう聞くとエルは静かに左目の眼帯に触れた

 

「私はこの目のお陰で情報屋をやれてるし、なんたって私の情報は百パーセントだからね!」

 

 エルは誇らしげにベッドの上に立ち、親指を立てている

 

「まぁ確かにな」

 

「でしょでしょー!」

 

「調子に乗るなよ」

 

「はいはい で、これからどうするの?」

 

「そうだな……」

 

 ウィルは布の巻き変えを終え、片付けながら考えている

 

 今日は砂漠を歩き回って体力をかなり消耗した 

 とにかく今は休むことにした

 

「じゃあ私は仕入れに行ってくるよ」

 

 そう言って部屋を出ていったエルを見送り、ウィルはベッドに横になった

 

 

 

 

(小僧!お前の体をよこせ!)

 

(ウィル……逃げろ……早く……!)

 

 

「!」

 

 ウィルは目を覚ました 

 結構長い時間寝ていたようだ、外は徐々に赤くなり、汗もかいている

 

「夢か……」

 

 最近よくみる、ウィルが憑かれた時の夢だ

 

 詳しくは覚えていないが、憑かれたのは六才の時

 

 病院のベッドで目覚めた時には、すでに腕は黒く染まっていた

 

「もう十年経ったのか」

 

 

 

 

 

 部屋を出たエルはというと――

 

「おじさーん!速射用の撤甲弾を三百頂戴!」

 

 愛用のハンドガンの弾を買いに来ていた

 

「撤甲弾!?嬢ちゃんみたいな子供にはキツイんじゃ……!」

 

 作業していた店の店主は、顔をあげようとした時額にゴツッと堅く冷たい物を当てられて、一瞬動きを止めた

 

 そして恐る恐る顔をあげると……

 

「おじさん、誰が子供だって?」

 

 エルがカウンターに乗り上げ、笑顔で銃を突き付けている

 

「は、はい……ただ今」

 

 銃の引き金に指が掛けられているのを見て、嫌な汗が吹き出す中、弾を用意した

 

「ありがと、はいお金」

 

「ま、まいど」

 

 エルは弾を受け取ると何事もなかったかのように店を後にした

 

「よし、これで私の分は終わりっと」

 

 店を出た後は商店街を見て回りながら、宿に戻ることにした

 

「ウィルは洒落っ気がないからなぁ、なんか買ってってやろうかな」

 

 しかし立ち寄った店は見るからに怪しい、おどろおどろしい呪符や護符ばかりが並んでいる

 

「んー、こんなの私達には効かないし」

 

 諦めて店を出ると見知らぬ男に声を掛けられた 

「ウィルと言うのは《黒い送り手》のウィルですか?」

 

 突然声を掛けられ、エルは反射的に腰の銃に手が伸びた

 

(誰?いや、でも《見えなかった》から悪人じゃないか)

 

 エルは銃から手を離しゆっくり警戒を解く

 

「あんた誰?」

 

 

 

 

 


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