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息抜き短編  作者: いち
1/1

①異世界 × 花畑 × 筋骨隆々


異世界 × 花畑 × 筋骨隆々




 ――あ、これ夢だ。

 

 橙子は上手く回らない頭でそう思い、目の前の不可思議な光景をぼんやりと見つめた。


 ピンクに黄色にオレンジに。

 色とりどりの花が咲き乱れる花畑は見渡す限りどこまでも続いていて、おまけに空は花と同じ色のグラデーションで、絵に書いたようなもくもく雲がぷかぷか浮いている。

 

 そんなメルヘン世界で、腰に布を巻きつけただけの半裸の男たちが、座り込んだ橙子の周りで踊り狂っていた。

 頭に草冠をのせ、ギリシャ彫刻のような均整のとれた体つきに、彫りの深い顔立ちをしている。

 年はよくわからないが、子供でもないし老人でもない。おおよそ十代後半から、三十代後半くらいまでといったところだろうか。

 中心に橙子を据えて、近づいたり遠ざかったりを繰り返す。

 膝上十センチの腰布は、丁度橙子の視線と同じ高さでひらひらと揺れていて、見えそうでみえないチラリズムを演出していた。


 

 ――こんな夢を見るくらい疲れてたのかな・・・。仕事はそんなに忙しくない時期なんだけど。 



 本人たちは真剣にやっているようにみえるので邪魔をするのも申し訳ないと橙子は思い、ひたすら輪の中心でおとなしくしている。  

 男たちは時に激しく、歌のようなモノを口ずさみながら橙子の周りをぐるぐる回る。

 


 ――いい加減、目が覚めないかなあ

 

 長々と続く謎の儀式に、橙子はとっくの昔に飽きて、明日の朝ごはんのことから観たい映画、上司の頭髪の減り具合など、どうでもいいことに思考を飛ばしていた。最終的にいもしない子供の子供、つまり孫の名前の命名権にまで思いを馳せて、それにも飽きた。

 長すぎる夢は疲れるだけだと思い知った橙子である。


 「フォーウ!!」


 「「「フォフォフォーウ!!」」」


 その周りでは、いよいよ盛り上がってきた男たちが大声で叫び始めた。

 一人が叫ぶと、それに答えるように残りが叫ぶ。

 

 最後に男たちが一際大きく叫び、彼らは動きを止めた。


 ――あ、終わったのかな?ならそろそろ夢も覚めるかも!


 既に頭の中は朝に食べると決めた鮭の切り身のことしかない。早く目覚めてご飯の準備をしたい、というのが偽らざる橙子の今の気持ちだった。


 しかしそれも糠喜びで終わってしまった。

 男たちが何かに気付き、一斉に同じ方角を向いて跪いたのである。

 それは随分と素早く統率された動きで、何故だか軍隊を彷彿とさせた。

 絶対的な上下関係を体に刻み込まれている。そんな動きだった。

 

 動きが揃ってるなあ、と感心した橙子は、次の瞬間にはなんだかわからないが、不安のような、恐怖のような感覚を覚えた。

 そして橙子もその方角を見、そして言葉をなくした。



 香りを立つ満開の花の中を、威風堂々とこちらに歩み寄ってくる姿がある。  

 上背のあるがっしりとした体躯の男。太いクッキリとした眉に、涼し気な目元はしかし強い意思をうかがわせる瞳を宿していた。

 太い首から続く肩から上腕にかけてのライン。厚みがあるのにスッキリして見える鳩胸と、その下に綺麗に六つに割れた腹筋。

 見事な逆三角を形作っていた。

 

 

 その男がついに橙子の前まできて止まった。

 橙子は口をぱくぱくと開け閉めするだけで、何も言葉を発しない。

 跪いた男たちは顔をふせたまま微動だにしない。

 橙子の様子に男は少し訝しげな表情をしたが、橙子にそれを気にする余裕はなかった。男の表情より何より、気にすることがあったのである。

 

 男が真っ直ぐに橙子を見つめ、口を開いて何か言おうとするより先に橙子は叫んでいた。とにかくそれをどうにかして欲しかった。



 「お願いだから下半身はかくしてえええええええええ!!!!!!」


 

 橙子が夢だと思っていたのは異世界トリップした世界で間違いなく現実だったとか。

 踊っていた男たちは異世界から花嫁を呼び寄せるための神官だったとか。

 この世界では何も身に付けないことこそが強い男の証でありステータスであるとか。

 その中でも全裸なのは王だけで、自分はその花嫁として召喚されただとか。


 それらすべてを橙子が理解したのは、結婚式も初夜も終えた、昼近くのことだった。

 

  

 

  

連載がなかなかまとまらなくてかっとなってやった。

所要時間約三時間。



2011.11.05 投稿

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