新シンデレラ 第一幕
1、新しい家族
古いが瀟洒な家の一階ホールにて
シンデレラ(以下、シ):お母様、お母様。どうしてわたくしをのこして逝ってしまったの?まだ、払い残しの借金やら、未払い金請求の訴訟やら解決していないのに!!
16くらいの美しい少女が派手やかなドレスで嘆き悲しんでいる。
父:まあまあ、そう嘆くでない。ちゃんと遺産は残してくれたんだから。ほら、この手形。金百万円也とみなと洋品店から
うだつの上がらなそうな中年男が娘をなだめる。
シ:(軽蔑の眼差しで)馬鹿ね、そういうのは請求書、シャッキンっていうのよ
父:(落ち込む)
シ:全く何呆けてるんだか・・・私立の養老院には入れないわよ。金かかるし
父:(さらに落ち込み)それなら、一丁目の安―い老人ホームに今から連れて行ってくれ(小声で)もうこんな娘と暮らしたくない・・・
シ:まあ!!今からそんなこと考えていたの?なんて孝行な親なの!手間が省けていいわ。さっそく今から申込用紙貰ってきましょ
父:そもそも40代でホームには入れるんだろうか・・・
外套を着込む娘に遠い目で父はつぶやく。心なしか哀愁が漂う背中。
シ:わたくしってなんて父親思いの娘なの!?今から養老院の心配をするなんて
父:(小声)恩着せがましいのお
シ:何か言った?
父:(突然、話題を変える)そうだ、シンデレラ、実はな・・・おっと、ここでバックに音楽を入れるんだった
シ:はあ?音楽?あら、何かしらこのヒモ
父:わああ、ひっぱるなあ!
シ:うるさいわね(無視)
父:(仕方なしに、再生ボタンを押す)
ジャジャジャーン(くす玉がわれ、ゴミと思しき紙くずが降る)
センスのない音楽が家じゅうに響き渡る。
シ:(腕を組み、つぶやく)こんな曲あったかしら
ここで、お手伝いメアリーが可憐な容姿で登場
メアリー(メ):あ、あのー、旦那さま。も、もしかして、こ、これ、この間のふ、フライパンじゃ・・・
父:(なぜか胸を張り)何を隠そうそうなのじゃ!
シンデレラ、メアリーやや冷めたまなざしで父を見る。
シ:んで、なんなの?私はいそがしいのよ。これから一丁目に行って・・・
メ:お嬢様、今日は大雪でございますよ。馬車を呼びますか?
シ:え、高いからいいわ。別にそれほど急いでいないし。なんなら後で本人に取りに行かせるし
父:ひどい・・・
メ:(空気を読んだメアリー慌てて話題を変える)忘れていましたが、お客様です。
父:おお、そうだった。誰だかのせいでぐだぐだになったが、
メアリー、そうかしら、と言いたげな目で見る。
シ:だから、なんなの?ちゃんと、主語述語目的語をはっきり!
甲高い声:まったくいつまで客を待たせるの、この家は!
どやどやとホールに入ってくる三名。一人は美しい中年女性。二人は・・・。
シ:誰、あんた
父:おお、もういや、紹介しよう、新しいお母さんだよ
シ:(一層冷ややかな目で)民法で離別後6カ月再婚できない女と違って制限がないから、仕方がないとしても、まだ、お母様が亡くなって2カ月よ。いったいどこに女引っかける時間があったのよ。甲斐性なしのくせに
父:う・・・、なんだか微妙に突っ込みどころが引っかかるのお・・・。まあ、いい、実はな、これも死んだ母さんの筋書きなんじゃ
シ:はあ?
父:ほれ、(なにやら分厚いマニュアル本をとりだし)『母の死後、まもまく夫、後添いをもらう。後添いの性格は悪いに越したことなく、出来れば、娘をしのがなければならない。具体的には云々・・・・・・以下略』
新しい母:(そんな親子を無視して)わたくし、キャロットと申しますの。あなたの新しい母親よ。そしてこの娘たちが、私の愛しい娘でルーシーとルーサー。シンデレラさんの新しい姉になるの。よろしくね
シ:(流石に小声で)きょ、きょーれつな不細工!---よろしくね、ルーシー、ルーサー
ルーシー(シー):きゃー、素敵なドレス!!
ルーシールーサー、「みなと洋品店」の箱を勝手に開け、大騒ぎを始める。
ルーサー(サー):私に似合うわ~
シ:(巨大十字マークを額にこさえて)触るな!汚い手で
シンデレラ、ドレスをひったくると、元に戻す。
シ:これは後で、難癖つけて返品しないといけないんだから・・・ぶつぶつ
キャロット(キ):(いつの間にか、一同で衣裳部屋に移動し)じゃ、みんなで分けあいましょう。この絹のドレスは素敵ね、はい。ルーシー。まあ、これもいいわ。ルーサーのね。この古ぼけた木綿のドレスはシンデレラさんの、残りは私のね
シ:何をアホなことを言っているのよ。そんなに欲しいならこのドレスの代金2百万円払うのね。
父:シンデレラ!嘘を言うのはやめなさい!百万だろうが!
シ:だーらっしゃい。ついさっき私のものになったのよ。私がどうしようと私の勝手。百万は未払い金の支払い。百万は私への手数料よ
サー、シー:(小声で)お母様よりすごくない?
キ:二百万だけ?
シ:えーと(どこからか、巨大なきらきら電卓を取り出し)、その水色と黄色のドレスを合わせて1000万。・・・を値引いて600万にまけとくわ
キ:し、シンデレラさん、そんなドレスにどうやったらそんな値段がつくの・・・
シ:この魔法の電卓はわたくしの意を汲んでくれるの。どーなの?払うの?払わないの?
キ:別に払えない金額じゃないけど・・・600万は。それくらいならもっと安くていいドレスを買いましょ
シ:(小声)ち、まともな意見じゃないの(だが、すぐに居直り)どーぞどーぞ。
キ:(その様子にムカっと)ルーシールーサー行きますよっ
シー、サー:(あっかんべー)
シ:あっそう、ふーん、そうなの。いいわよ。どうなってもしらないわよ(邪悪な微笑み)
シー、サー:いやな予感
シ:あんたたちの部屋、特別にアウトドア気分を満喫させて差し上げるわ。
ルー:アウトドア?
シ:知らないの?冬独特の豪邸なのよ~
シー:それってまさか・・・
シ:その中できりたんぽ鍋でいっぱいやると最高なのよね
シー:だったらあんたがやればいいでしょ!!
ルー:てか、オヤジみたいなこと言ってんじゃないわよ!
メ:突っ込みどころはそこじゃなくて・・・(小声)お嬢様は未成年ですが・・・ぼそぼそ
シ:(シンデレラの耳はロバの耳、じゃなあくて、都合の悪いことは聞こえない都合のよい耳)ゆーきやこんこん、あーられやこんこん、ふってもふっても・・・
一同、あまりの音程の外れ具合に耳をふさぐ。
シンデレラの独唱終了。
ルーシールーサー、大げさに嘆く。
シー、ルー:私たちって不幸な娘~~~
―――とりあえず聞くに堪えないので幕
つづく、かも?
注)貨幣の単位は円のようです。きっと貨幣価値は違います。ですが、3着で600万というのは非常識のようです。
……ところで、本作は虚構世界の物語です。くれぐれも設定につっこみをいれぬよう、お願いいたします。