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金山町は今日も晴れ

作者: 五円玉
掲載日:2010/11/30

秋の短編祭り第四弾!!


今回は青春ストーリー!!


では早速どうぞ!!

金山町……


人口約1800人の小さな町。

もはや村。


町は北東西を山に囲まれ、南には海。


過疎化が進み、老人が多い。


のんびりとした町。


主な産業は漁。


町の男の半数は漁師だ。


町の港にはいつも漁船が停泊している。


いつも朝早くに出航し、夕方ごろに帰ってくる。






……そして、この小さな田舎港町には、かなりの昔から伝わる、ある儀式がある。


毎年、春の始めに行われる儀式。


漁の大漁を願う“海神の身投げ”。


大漁祈願のため、町の海神の役を負った女が、魚の神のいけにえとなる事で漁が安定すると言われている。



つまり、町の代表の女が、まだ肌寒い春の海に飛び込むのだ。

魚の神のいけにえとして。


昔は、その女は飛び込んだまま、ガチでいけにえとしてそのまま海の底に沈んだらしいが……


今は殺人だの何だのになるから、海神が飛び込んだら儀式は終了にし、町の漁師達が直ぐさま漁船で救助へ向かう。




そんな、おかしな伝統の残る金山町。




そんな町で、俺とアイツは育った。










「コラ創太!! もう漁の時間だぞ、起きろ!!」


「ん……ぅ……」


午前5時。

自宅の自室。


「早くしろ馬鹿、さっさと起きる!!」


「う……眠い……」


俺、越谷 創太。

18歳。

高3。


俺は今、親父に起こされている所。


「ほら、さっさと着替えろ!!」


「…………(ぼーっ)」


ウチは漁師の家庭。


親父は漁師

お袋は近所のスーパーのパート。


現在高3。

進路で苦悶する歳。

俺は大学進学はメンドイって理由で就職希望。


とりあえずは、1番身近な漁師を目指す。


……あ、決して家を継ごうって訳じゃなくて。


就職先考えるのメンドかったから、進路調査用紙にテキトーに漁師って書いちゃったのだ。


そしたらそれを見た両親がね、

「じゃあ今から漁に連れて行ってやる」

と、言ったのが先月の始め。


それから毎日、俺は学校へ行く前の貴重な朝を、親父と共に漁に費やしているのだ。




正直後悔してる。


朝早すぎ。










「うぅ……眠い」


午前8時。


俺は海から帰還。


揺れる漁船の上で定置網漁をしました。

網を引っ張っては戻し、縄を巻いては緩め。

結構しんどい。


「はぁ……」


多分今俺、磯臭いよ。


で、今は学校へ登校中。

金山町唯一の高校、金山高校。


ネーミングはまんま。




この町に高校生はほとんどいない。


現に金山高校も廃校が決まっており、今は1年も2年もいない。


俺ら今の高校3年生が、最後の卒業生となるのだ。




「えーっと、確か今日は数学と……」


俺は歩きながら今日の科目を思い出し中。

理数科は苦手だ。


「あとは体育と……」




その時、俺の視界にある女子が入って来た。


すぐそこの曲がり角から登場し、1人無言で学校にむかい歩いている。


「…………」


アイツは俺の知り合い。

名前は望月 里緒。

同じく高3。

家は金山岳の山頂付近にある神社。


あ、金山岳ってのは、町の西にある小さな岳の事。




「おっす!!」


俺は小走りで彼女に近付き、軽く挨拶。


「…………」


はい、シカト頂きました。


「シカトかよ……つれねぇなぁ」


「……うっさい」


結構な冷めた態度。

コイツは昔からそうだ。


「うっさいて……わーったよ、じゃあもう構わねぇ」


「…………」


里緒とは昔からの腐れ縁。

小学中学と一緒。

まぁ、金山育ちの奴らとはみんなそうだが。


「なぁ里緒」


「……今、もう構わないって言わなかった?」


里緒の鋭い視線。

しかし俺はそれを無視。


「お前、そろそろだな……」


「…………」


そろそろ。


その言葉は、彼女にとってとても重い。


春の初め、金山町の伝統




海神の身投げ。










「あ〜、そういやもうすぐ、春の祭だな」


その日の学校の休み時間。

俺は友達の仲崎と談話中。


「そうだな……仲崎、お前祭行くの?」


祭には毎年、沢山の出店がでる。

田舎町金山の、唯一の超巨大祭だ。


「俺はその日は部活だ。……創太は行くんだろ?」


「俺は……」


どうしようかな?

ちなみに開催場所は金山岳のふもと。


「あ、そういや創太!」


「あ?」


突然ハキハキしだした仲崎。


「今年から、海神の役が望月さんになるんだって?」


「あ、ああ」




金山春の祭のメインイベント、海神の身投げ。


去年までは望月百合子という人物が海神の役を承けていた。


そして今年からは、彼女の娘である望月里緒が海神となって身投げをするのだ。


「凄いよなぁ〜、高さ10メートル以上の崖から飛び降りるんだろ?」


「らしいな」


「俺は絶対無理だな」


「はいはい」


俺は仲崎との会話をそこそこに、何となく教室中を見渡した。




……教室の窓側、1番前の席。

里緒は、仲間と共に楽しそうに雑談していた。










「あ!」


「…………」


放課後。

下校しようとしていた俺は、偶然にも下駄箱にて里緒と遭遇。


「よぉ、今帰り?」


「……まぁ」


相変わらず素っ気ない返事だな。


「……おし、じゃあ今から一緒に帰ろうぜ!!」


「……は?」


何故か困惑気味の里緒。


「は? じゃねぇよ。一緒に帰るぞ」


「…………」


はい決定。










「……なぁ里緒」


「……何?」


夕日が眩しい海沿いの道。

現在俺と里緒は下校中。


「お前さぁ、その……怖くはないわけ?」


「……何が?」


ザザァ〜ン……


……波打ちの音が、辺り一面に響く。


「何がって……その、海神の……身投げ」


「…………」


その時、里緒はハァとため息をついた。


「……別に」


その声は、いつもの里緒の声だった。


「本当か? 確かあの崖、10メートルはあるぞ?」


俺は去年の身投げを思い出す。


里緒の母親が身投げした、海神の崖。


かなりごつごつとした、荒い崖。


「……だから怖くはない。望月家の女性はみんな嫌でも海神になるんだから」




……俺は、里緒の顔を覗いた。




本当に、いつものツンとした顔が、そこにあった。










4月半ば。


金山海祭り。


今日が例の祭りの日だ。




「いいか、海神が身投げするのはこの崖だ」


祭りの事務所。


俺や親父を含めた金山町の漁師たちは、その事務所に集まっていた。


そして、事務所の机には金山町の地図。


「佐藤さんと名張さんは崖の西、萩原さんと最上さんは東、越谷さんと北村さんは北で船をスタンバイさせといてくれ」


祭りの会長が、地図を指差しながら皆に役割を与える。


……今、祭りの午後から行われる海神の身投げの事について会議中。


「では皆さん、よろしくお願いしますね」


会長はにこやかな笑顔。




……そう、今、身投げ後の里緒の救出のフォーメーションを確認していたのだ。


「海神が水面に到達したら、直ぐに救助へ向かうんだ。決して見失うなよ」


……今回、俺は親父と共に救出部隊として祭りに参加。


つーか、さっきその事を知りました、俺。










「よし創太、そろそろ漁船に乗り込んで、ポイントまで向かうぞ」


賑やかな出店の通り。

大勢の人。


俺は親父と共に人の波を避けつつ、港へ。


「今年からは百合子さんの娘さんが海神なんだってな」


「……ああ」


正直、なんか不安。

だってあの里緒が海神。


まだ小学生に上がる前からの知り合いで、

いつも一緒に遊んできた。


クールで、素っ気なくて、物静かな里緒。




いつもアイツは強がる。




不安な時も、心細い時も、顔色一つ変えずに平静を装うのだ。


そう、意外と意地っ張りで強がり。




幼い時から一緒の俺には分かる。




アイツ、本当は……










「よーし、到着!」


俺は親父の船に揺られ、例のスタンバイポイントに到着。

目前には、海神が身投げをする高い崖。


ここなら、直ぐに救出へ向かえる。


「まだ身投げまで少し時間があるな……」




ザザァ〜ン……




今日の波は穏やか。

空は快晴。


水面には太陽の光の反射が見られる。






昔の時代の海神は、誰にも救出されず、本当のいけにえとして、この海に沈んでいった。




今思うと、恐ろしい話だ。










ピィ〜〜〜!!


「……お」


海面に響く、笛の音。


身投げの儀式の、開始の合図。




海神の身投げには、3つの工程がある。




まずは海奉り。


金山神社の神主が笛を吹き、海神がそれに合わせ舞を踊る。

魚の神に対しての、挨拶みたいなものだ。



次に儀海礼。


海神は海に向かい、頭を下げ、祈りを捧げる。



最後に海入り。


その10メートルの崖から飛び降りる。

その魂と引き換えに、その年の大漁を約束される。










「…………」


崖の上に、里緒の姿が見えた。


海神が身につけるのは、白装束のみ。

前海神の百合子さん曰く

「かなり肌寒い」

とか。




そして、その白装束を纏った里緒は、崖の上で舞を踊っていた。



……透き通るような笛の音色。


……美しい海神の舞。




身投げの儀礼は、始まった。










「……里緒」


儀海礼。


里緒は海に向かい頭を下げ、祈りを捧げる。


「創太、そろそろだ。浮輪の準備」


「……分かった」


俺は親父に言われ、船の後ろにある浮輪を取りに行く。


「初めての身投げ……里緒ちゃん、大丈夫なのか?」


「……さぁな」


親父は漁船の舵を握る。


俺は浮輪とライフジャケットの準備。


「……そろそろか」










儀海礼が終わり、とうとうその時がきた。


先程まで騒がしかった観客の歓声は消え、辺り一面に静寂がはしる。


「……里緒」


里緒は、崖の先端へ足を進めた。




吹き抜ける潮風。


波打つ海。




海神は、この海へ身を投げる。










しかし……


「5分……」


親父は腕時計を確認。


「……やっぱり無理か?」


里緒は飛び込まない。


ここからじゃ表情は伺えない。




だけど分かる。




爪先をきゅっと丸め、瞳を閉じ、震える手を必死に抑えつけている。




……怖い




……人間の本能、恐怖






「里緒……」










そして10分が経過。


相変わらずの静寂。


里緒は飛び込まない。


「…………」


親父は黙り込んでしまった。




里緒……


やっぱり怖いのか。


海神、魂をいけにえに大漁を願う者。


やっぱり怖いよな……




けど……


「お前は海神なんだ」


この金山町の神なんだ。


「勇気を持って、飛び込むんだ」




そして、勇気を持って飛び込む事が出来たら……


そしたら……


「俺が、お前を助けてやる」


海の底から引っ張り上げてやる。


絶対に、助け出してやる。





俺は、心の中で、そう呟いた。









その時…………







……ッ!!






「……里緒」




海神は、その身を海へ投げ出した。










ザッパァーン!!


里緒は海へ落下。


「よし創太、行くぞ!」


「ああ!!」


そして、救助の漁船が一斉に発進した。










「……ッ」


里緒の落下ポイント。


俺と親父の船は、1番にそこに着いた。


しかし……


「里緒……」


里緒の姿がない……


「マズイ、沈んだか!?」


親父は焦り出す。


辺りには次々に救助の漁船がやってくる。




「……ッ!!」




ザッパ〜ン!!



……俺は、海へ飛び込んだ。


「創太!?」


親父の声が聞こえる。


けど、返事をしている暇はない。




まだ春の海は冷たい。




けど、俺は潜っていく。




助け出すと、誓ったから。









「……っ!!」


そして潜水してから数秒後、ぼやける俺の視界に、白い何かが写った。


……白装束。




里緒ッ!!




俺は手を伸ばす。


そして……










ザザァッパ〜ン!!


「ぷはっ!!」


「はっ!!」


俺と里緒は同時に海面から顔を出した。


「創太!!」


辺りには沢山の漁船。

もちろん親父の姿も。


ふぅ〜。


「大丈夫か里緒?」


俺は青白くなった里緒に質問。


「はぁはぁ……だ、大丈夫……」


には見えない。


「創太、掴まれ!!」


その時、親父が浮輪を投げ出した。


俺は片手で里緒の袖を掴んだまま、浮輪にもう片方の手を伸ばす。


「……創太」


その時、ふと里緒が小さな声で話し掛けてきた。


「何だ?」


俺は浮輪を掴みながら返事を返す。

そして……




「……ありがと」




その言葉を聞いた途端、俺の中の何かが弾けた。




今日も金山町は晴れていた。

いかかでしたでしょうか?


これにて秋の短編祭りは終了です。

ご愛顧有難うございました!!


出来れば、四つのウチで何が一番面白かったのか、感想等で送って頂けると嬉しいです!!

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