剥奪された王冠と泥水。雨ばかり降らせる女など王妃にはふさわしくないと言われ太陽のような金髪を持つ男爵令嬢がいれば国は毎日が素晴らしい快晴になると追い出された
王宮の美しい庭園。いつも通りしとしとと優しい雨が降る中、王子のケーイレが声を荒げた。
「アメイ!貴様との婚約を破棄する!いつもジメジメと雨ばかり降らせる陰気な木属性の女など、王妃にはふさわしくない」
ケーイレの腕の中には、太陽のような金髪を持つ男爵令嬢、サニーニが抱かれている。アメイは前世の記憶を持つ転生者。日本では気象予報士として働いていたのである。が、公爵令嬢として転生し木属性の魔法を使い、植物の蒸散作用や大気中の水分をコントロールして天候を操る術を編み出していた。偉いぞ自分。
「……そうですか。雨は、明日の晴れのために必要なのですがねえ。はぁ」
答えたら怒鳴られた。
「うるさい!サニーニの光魔法があれば国は毎日が素晴らしい快晴になる!泥にまみれた植物の世話しかできない役立たず。さっさと出ていけっ」
サニーニも勝ち誇ったように笑う。
「アメイ様ごめんなさい。民もジメジメした雨より、明るい太陽を求めてるんですって」
アメイは短くため息をついた。この国の気候は本来、非常に乾燥している。アメイが魔法で育てた雨降りの大樹が地下水を汲み上げ、空に雲を作り出して定期的に雨を降らせることでなんとかかんとか、農業が成り立っていたのだ。
それを追い出そうとはね。どうやら国を滅ぼしたいらしい。息をまた吐く。
「はいはい。では、育てた天候管理の植物はすべて引き上げますから」
「はは、勝手にしろ。気味の悪い木などサニーニの光で燃やしてくれる!」
アメイは一礼し、こんな経緯で王都を去った。去った翌日から王都の空には雲一つない快晴が続いたのだが。最初の数日はケーイレも民衆も「毎日が晴れだ!」と喜んでいた。
だが、一週間、一ヶ月と経つうちに事態は急変した。サニーニの光魔法は太陽の光を強めるだけの力。雨を降らせる木を失った大地は干上がり、川は枯れ、農作物は次々と枯死していく。
「水だ……水をくれ……み!」
「殿下ああ!畑が砂漠になってしまいますう!なんとか雨をおお!」
民衆の悲鳴を聞き、ケーイレはサニーニに命じた。
「サニーニ早く雨を降らせろ」
「む、無理です!光を出すことしかできません!」
パニックに陥ったケーイレは、宮廷魔導師たちに無理やり雨を降らせるよう命令した。しかし、彼らが水魔法で作り出したのは、大地の保水力を無視した鉄砲水。
干からびた大地は水を吸収できず、今度は大洪水が発生し、王都は泥水に飲み込まれた。極端な晴れと水害。王都は完全に崩壊した。
一方、隣国の領地に腰を下ろしたアメイは穏やかな日々を送っていた。
「うん、良い天気。明日は少し雨を降らせて土を潤そうかな」
アメイの周りには木属性魔法で完璧に管理された、緑豊かな農園が広がっている。前世の気象学と木魔法の融合によってここは常に最高の気候が保たれていた。
そこへ、泥だらけの服を着たケーイレが這うようにして現れた。水害で城を失い、サニーニにも逃げられてすべてを失っている。自業自得。
「あああ、ああ、アメイ……た、頼む、戻ってきてくれ!お、お前の雨が必要なんだっ!なぁ!」
ふざけた要求にアメイは冷たい目で見下ろした。
「お断りします。陰気で役立たずな女ですから、素晴らしい快晴の国にはふさわしくありませんし?」
「な、わ、私が間違っていた!どうかどうかあの優しい雨を……雨を!水をっ」
「もう遅い。一度枯れた大地に雨は届かない。さようなら、ケーイレ」
アメイが指を鳴らすと太い木の根が地面から飛び出し、ケーイレを遠くへ弾き飛ばした。その後、一生消えない日照りと水不足に苦しむ荒野で、惨めな生活を送ることになったという。
これで厄介払いでき、アメイは農園のベンチで淹れたての紅茶を味わった。
アメイの放った無骨な木の根によって弾き飛ばされたケーイレは、泥水とひび割れた土塊が混在する生きていた自国へ、今となっては死の荒野と化した場所へと無様に転がり落ちた。
ほうほうの体で王宮の跡地(洪水で半分崩壊している)にたどり着いたケーイレを待っていたのは実の父親である国王からの絶縁状。
「お、愚か者め!アメイ嬢を追い出したせいで、我が国の農業と経済は完全に崩壊!民は飢え、隣国からは国交を断絶された!」
「ち、父上!待ってください、あれはサニーニが……あの女が!私のせいではないです!」
「はぁ?言い訳など聞くものか!貴様の王位継承権を剥奪し、平民以下の労役刑に処すっ!死ぬまで干上がった大地を耕し続けよぉお!」
「いやだあああああ!!」
衛兵たちによって豪華な衣服を剥ぎ取られてボロボロの麻布一枚を着せられ、水脈の枯れた強制労働所へと送られた。
毎日毎日、照りつける過酷な太陽の下で石のように硬くなった土をクワで叩き割る日々。喉が渇ききり、倒れそうになっても与えられるのは泥水が少し混じった濁った水のみ。
「ああっ……水……冷たくて、澄んだ水が飲みたい……あれさえ」
ひび割れた唇から血を流しながらケーイレは絶望の涙を流した。自分が「ジメジメして陰気だ」と馬鹿にして切り捨てたアメイの優しい雨が、どれほどこの国と自分自身の命を潤してくれていたのか。すべてを失ってから骨の髄までその恩恵を思い知ることになった。
ケーイレを見捨てて早々に逃げ出した男爵令嬢サニーニもまた、悲惨な末路を辿っている。残った宝石を持って隣国へ逃げ込み、持ち前の美貌と光魔法で新たなパトロンを見つけようと企んでいた。
「皆様ぁああ。私の光魔法は〜太陽のように明るくて素晴らしいです〜、ほらぁあ」
しかし、アメイが気候を完璧に管理している豊かな隣国において、サニーニの過剰な光魔法は迷惑でしかなかったのだ。だからこうなる。
「眩しすぎる!目が潰れるだろうが!」
「お前の光を浴びていたら、大切に育てていた日陰用の高価なハーブが葉焼けして枯れてしまった!弁償しろバカが!」
誰からも歓迎されず多額の賠償金を背負い込んだサニーニは、結局、借金取りに捕まって暗く深い地下鉱山へと売られてしまう。
「いやぁぁ!泥だらけの穴掘り男たちと一緒に……いやっ!」
「うるせえ!お前は突っ立って光を出してりゃいい!はぁああ、カンテラの油代が浮いて助かるなぁ。はは!」
サニーニの誇っていた太陽のような光魔法は、今や地下の暗闇を照らすだけの便利な無料の照明器具として死ぬまで酷使されることになった。彼女の美しい金髪は煤で汚れ、過去の輝きは二度と戻らない。
それから数ヶ月後。ケーイレは泥まみれになりながら、荒野で力尽きかけていた。ふと遠くの国境を見ると、アメイがいる隣国の上空には美しい虹がかかり、緑が青々と茂っているのが蜃気楼のように見える。
「アメイ……すまなかった……私が愚かだった……うう」
懺悔の言葉を口にした時空の様子が、急激におかしくなった。ケーイレの頭上、干上がりきった荒野の空を、見たこともないほど巨大で、墨汁のように真っ黒な雲が猛スピードで覆い尽くしていったのだ。
ゴゴゴゴゴ……!
大気が震え、息ができないほどの暴風が吹き荒れる。雲の中で、巨大な竜のシルエットがうねり、紫色の雷が落ちた。
「な、なんだあれは……!?」
暴風の魔竜の目覚めである。アメイが王都にいた頃は緻密な天候管理魔法によって、こうした異常気象の元凶となる魔物の発生すらも未然に防がれていたのだ。
天候をコントロールする術を失い、無防備な荒れ地となったこの国は魔竜にとって最高の遊び場で。
「ひぃぃぃっ!助けてくれ!!」
竜巻が巻き起こり、ケーイレたち労役者が必死に耕していた無意味な畑も粗末な小屋も、すべてが一瞬で空高く吹き飛ばされていく。
絶望の叫びを上げながら、巨大な暴風雨の渦へと飲み込まれていき愚かな者たちは自らの招いた災いの前に完全に滅び去った。
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