表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された令嬢は、『二度寝してても怒られない国』を作ります  作者: 秋月 もみじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第3話:楽園の島「スリープ・ヘイブン」開国


 船旅の末、私たちが辿り着いた『旧王領ハデス島』は、皮肉なほどに絶景だった。


 見渡す限りのエメラルドグリーンの海。白い砂浜。

 そして、陸地に広がるのは――見事なまでの荒野と、不気味な古代遺跡の入り口だけ。


「……なるほど。これは骨が折れそうですな」


 上陸した浜辺で、元近衛騎士団長のカイルが腕まくりをした。

 彼の後ろには、くわや斧を持った元文官たちが、悲壮な決意を秘めた顔で並んでいる。


「リリス様! ご安心ください! 我々三百名、不眠不休で木を切り、岩を砕き、必ずや一ヶ月以内に雨風をしのげる拠点を築いてみせます!」

「そうです! 王城での終わりのないサビ残に比べれば、太陽の下での肉体労働など!」

「さあ皆、まずは森の開墾だ! 寝る間を惜しんで働けえぇぇ!」


「おおおーっ!」


 盛り上がる元社畜ワーカーホリックたち。

 私はその暑苦しい熱気に、ドン引きしていた。


「……待ちなさい」


 私は扇をバチリと閉じて、彼らを制止した。

「あなたたち、私の領地における『憲法第一条』を忘れたのですか?」


「け、憲法……ですか?」


「第一条。『何人たりとも、睡眠時間を削って働いてはならない』。不眠不休? 論外です。そんな効率の悪い働き方、私が許しません」


 きょとんとする彼らに背を向け、私は島の中心にある不気味な石造りのゲート――『大迷宮ダンジョン』の入り口へと歩き出した。


「ついてらっしゃい。家なら、あそこにあります」

「えっ、あそこは危険指定区域の古代遺跡では……!?」

「ええ。だからこそ、『設備リソース』が整っているのです」


 ***


 遺跡の入り口には、侵入者を阻むための結界と、巨大な石像ガーディアンが鎮座していた。

 カイル団長が慌てて剣を抜く。


「リリス様、お下がりください! あれは『殲滅のゴーレム』! 物理攻撃無効の厄介な……」


「セバスチャン、紅茶を。ミルク多めで」

「畏まりました」


 私は優雅に指示を出しつつ、石像の前に立った。

 石像の目が赤く光り、拳を振り上げる。

 だが、私は動じない。前世の知識と、今世の魔導研究があれば、これはただの「セキュリティシステム」に過ぎないのだから。


「システム起動。管理者権限アドミニストレータを行使。デバッグモード接続……パスワード『0000』」


 私が古代語コマンドを呟くと、石像の動きがピタリと止まった。

 ……やはり。古代文明の文献にあった通りだ。開発者がテスト用に残した「バックドア(裏口)」が、初期設定のまま放置されている。セキュリティ意識の低さに感謝ね。


「モード変更。……『迎撃アタック』から『建築ビルド』へ書き換え。対象範囲、島全域」


 ブゥン、と低い駆動音が響く。

 石像の目が赤から緑(安全色)へと変わり、その巨大な腕先が、ハンマーやドリルといった工具のような形状に変形した。

 それだけではない。遺跡の奥から、大小様々なゴーレムが何十体もわらわらと出てきて、私の前に整列する。


「な、なんだこれは……!?」

「ゴーレムたちが、敬礼している……?」


 腰を抜かす元部下たちに、私はニッコリと微笑んだ。

「紹介します。今日から我が領土の土木建築課の職員たちです。彼らは疲れを知らず、文句も言わず、二十四時間稼働します。あなたたちは彼らに指示パラメーターを出すだけでいいのです」


 私は指をパチンと鳴らした。


「さあ、始めなさい。設計図データ送信――『リゾート開発計画・改』」


 その瞬間、世界が変わった。

 ゴーレムたちは目にも留まらぬ速さで動き出し、巨木を切り倒し(製材まで一瞬だ)、岩を四角く切り出し、地面を平らに均していく。

 それはまるで、早回しの映像を見ているようであり、巨大な3Dプリンターが街を出力していくようでもあった。

 基礎工事から棟上げまで、人間なら数ヶ月かかる工程が、分単位で進んでいく。


 一時間後。

 そこには、白い石造りの美しい街並みが完成していた。

 各戸に魔導式の上下水道完備。道路は舗装済み。中央には、私の住む領主館(という名の高級ホテル)が聳え立っている。


「……嘘、だろ……」

「魔法だ……いや、魔法でもこんなことは……」

「リリス様は、もしや建築の女神の生まれ変わりなのでは……?」


 呆然とする人々の中、私は満足げに頷いた。


「これでよし。……ああ、誤解しないでくださいね?」

 私は彼らに釘を刺す。

「私がこれだけの魔力を使ったのは、皆様のためではありません。私が『テント暮らし』や『汲み取り式トイレ』なんていう非文化的な生活をしたくなかったからです」


 そう。すべては自分のため。

 快適なベッド。清潔なシーツ。そして防音壁。

 これらがなくては、最高の二度寝はあり得ない。


「リリス様……!」


 なぜか、元財務官が涙を流して膝をついた。

「我々の労力を気遣い、ご自身の魔力を犠牲にしてまで……! あえて『自分のため』と仰ることで、我々に恩義を感じさせないおつもりですね! なんと慈悲深い!」

「リリス様万歳! スリープ・ヘイブン万歳!」


「……はあ」


 違うと言っても無駄だろう。

 まあ、彼らがやる気になっているならそれでいい。


建物ハードは用意しました。あとの内装や運営ソフトはあなたたちの仕事です。私の安眠を妨げない範囲で、好きに街を使いなさい」

「はっ! この命に代えても、最高の楽園を作り上げます!」


 やる気満々の彼らを放置し、私は領主館へと向かった。


 ***


 夕暮れ時。

 領主館のテラスには、自動生成された最高級のハンモックが揺れていた。

 波の音と、鳥のさえずり。

 王城の鐘の音も、怒鳴り声も、書類のめくれる音もしない。


「セバスチャン」

「はい、お嬢様」


 サイドテーブルに置かれたトロピカルジュースを一口飲み、私は尋ねる。

「明日の予定は?」


「ございません。入国審査もゴーレムに自動化させました。元職員の方々は、今夜は『完成祝い』と称して宴会を開くそうですが、館には完全防音結界を張っております」


「完璧ね」


 私はハンモックに身を沈めた。

 ああ、この浮遊感。

 明日も、明後日も、誰にも邪魔されずに眠れる。


「では、おやすみなさい。……絶対に、起こさないでね」

「畏まりました。良い夢を」


 私はアイマスクを装着し、今度こそ本気の眠りへと落ちていった。

 これが、建国初日の「公務」のすべてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ