来ない通知
送ってしまったあと、
花帆は何度もスマホを裏返した。
見なければ、気にしなければ、
何もなかった朝に戻れる気がして。
でも、通知音が鳴るたびに、
心臓が小さく跳ねる。
――来た?
画面を開く。
違う。
学校からの連絡、
宅配便の通知、
アプリの更新。
そのたびに、胸の奥がすっと冷える。
「……違う」
誰に聞かせるでもなく、つぶやく。
期待している。
してはいけないとわかっているのに。
あれは、ただの営業トーク。
仕事だから優しかっただけ。
わかってる。
それでも。
送ってしまった以上、
返事が来るかどうかを考えてしまう。
洗濯物を干しながら、
スーパーのレジに並びながら、
気づけばスマホを確認している自分がいる。
昼休み。
誰もいないリビングで、
そっとスマホを手に取る。
既読は、まだついていない。
「……やっぱり」
少しだけ、ほっとする自分がいる。
同時に、がっかりしている自分も。
どっちも本心で、
どっちも否定できない。
――期待してる。
その事実が、じわじわと胸に広がる。
会いたいから?
また話したいから?
それとも、
「女性として見られていた時間」を、
もう一度確かめたかっただけ?
わからない。
わからないけど。
通知が鳴らない静かな時間が、
こんなにも長く感じるなんて、
花帆は知らなかった。
夕方。
誠が帰ってくる時間が近づく。
夕飯の支度をしながら、
スマホをキッチンの端に置く。
伏せているのに、
そこにあることが、わかる。
――もし、返事が来たら。
その先を考えて、
花帆は包丁を置いた。
だめだ。
考えすぎだ。
これは、ただの一通。
偶然。
事故。
そう言い聞かせる。
でも、心は正直だった。
返事が来なかったことに、
少しだけ、胸が痛む。
期待してしまった自分が、
恥ずかしくて、
でも――
それだけ、
あの一時間が特別だったということも、
否定できなかった。
花帆は、静かにスマホを伏せ直した。
今日も、返事は来ない。
たぶん、明日も。
それなのに、
胸の奥では、
小さな期待が、まだ消えずに残っている。
その気持ちに名前をつけるのが、
花帆は、少し怖かった。




