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触れない距離 ――一時間だけの夫と、結婚十五年目の私  作者: オレンジ


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届いた一文


夕食の片づけを終え、時計を見ると、二十二時を少し回っていた。

子どもたちはそれぞれ自室に戻り、家の中は静かだ。

誠は、まだ帰っていない。


ソファに腰を下ろし、花帆は深く息を吐いた。


今日も一日、無事に終わったはずなのに、

心だけが落ち着かない。


スマホを手に取る。

画面を点けて、すぐに消す。

何度も、同じことを繰り返す。


――連絡はしない。


そう決めたはずなのに、

決意は思ったよりも揺らぎやすい。


そのとき、スマホが小さく震えた。


一瞬、時間が止まったような気がした。


通知。

メッセージ。


差出人の名前を見た瞬間、指が固まる。


リオ。


息を吸うのも忘れて、画面を見つめる。

タップするまでに、少しだけ時間がかかった。


《先日はありがとうございました。

 あの時間、花帆さんが少しずつ表情を緩めていくのが印象に残っていて。

 無理していなかったかな、と少し気になりました。》


短い文章。

丁寧で、押しつけがましくない言葉。


それなのに、胸の奥がじんわりと熱くなる。


――表情。


自分でも気づいていなかった変化を、

この人は見ていた。


花帆は、スマホを両手で包むように持った。


誠は、体調を気遣ってくれた。

それは間違いなく、優しさだった。


でも、リオの言葉は違う場所に触れている。


比べてはいけない。

そう思えば思うほど、違いがはっきりしてしまう。


返信しない。

今日は、しない。


そう決めて、画面を閉じる。


それでも、数秒後にはまた開いていた。


《気にしてくださってありがとうございます》


打って、消す。


《大丈夫です》


消す。


一文に、こんなにも迷うなんて。


これは、軽いやり取りじゃない。

自分の中で、何かが動き始めている証拠だ。


スマホを伏せても、

メッセージの余韻は消えなかった。


気づかれていたこと。

覚えられていたこと。


その事実だけで、胸がざわつく。


花帆は、そっと目を閉じた。


――この一文は、きっと、

私の日常を少しずつ変えていく。


そんな予感が、はっきりとあった。



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