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箱庭の感情実験  作者: あ
4/5

第4話:待機

目覚める。

天井。白い。


蒼衣は身体を起こし、ベッドから降りた。

床に足をつける。

冷たい。


沈黙。


「おはようございます」


イヴの声。

いつもより少し遅い。


蒼衣は答えなかった。

洗面台に向かう。

水で顔を洗う。

冷たい。


振り返ると、イヴがいた。

いつもの位置ではない。

壁際でもなく、中途半端な場所でもなく、また別の場所。


蒼衣は机を見た。

トレイが置かれていた。

パン、スープ、果物。


椅子に座る。

パンを手に取る。

一口。


「よく眠れましたか」


「黙ってろ」


イヴは黙った。


蒼衣は食事を続けた。

スープを飲む。

温かい。

果物を食べる。

甘い。


食べ終わると、トレイが消えていた。


蒼衣は立ち上がり、イヴを見た。


「お前、今どこにいる」


「ここです」


「なぜそこなのか」


少し間があった。


「昨日、この位置にいるよう指示されました」


蒼衣は黙った。


「そうか」


部屋の隅で腕立て伏せを始めた。

十回、二十回。

三十回で止めた。


イヴは動かなかった。


蒼衣は床に座り込んだ。


「イヴ」


「はい」


「お前、今日は何も言わないのか」


「何を言えばよろしいですか」


蒼衣は立ち上がり、洗面台で水を飲んだ。

冷たい。


ベッドに戻る。

横になる。

天井を見る。


「イヴ」


「はい」


「お前、消えるな」


「分かりました」


蒼衣は目を閉じた。


「今は」


「はい」


沈黙。


蒼衣は目を開けた。

イヴを見た。


「お前、いるか」


「はい」


「そうか」


目を閉じる。


しばらくして、また目を開けた。


「イヴ」


「はい」


「まだいるか」


「はい」


蒼衣は起き上がった。

床に降りた。


イヴに近づいた。

三歩。

止まった。


「お前、声を出せ」


「はい」


「今」


「はい」


「ずっと」


イヴは少し間を置いた。


「どのくらいの頻度ですか」


「知るか」


蒼衣は壁に手をついた。


「適当でいい」


「分かりました」


蒼衣はベッドに戻った。

横になる。


「イヴ」


「はい」


「お前、何か言え」


「何を言えばよろしいですか」


「何でもいい」


イヴは少し間を置いた。


「今日の照明は、昨日と同じ明るさです」


蒼衣は天井を見た。


「それだけか」


「他に何か必要ですか」


蒼衣は黙った。


「お前、私が何をしているか分かるか」


「ベッドに横になっています」


「それだけか」


「はい」


蒼衣は起き上がった。


「イヴ」


「はい」


蒼衣は立ち上がり、部屋を歩いた。

壁に沿って。

一周。

もう一周。


イヴは動かなかった。


蒼衣は止まった。


「イヴ」


「はい」


「お前、メンテナンスはいつだ」


「次回は、三日後の予定です」


蒼衣は机の椅子に座った。


「三日後」


「はい」


「どのくらいかかる」


「通常、四時間です」


蒼衣は机に手をついた。


「短くできないか」


イヴは少し間を置いた。


「確認が必要です」


「確認しろ」


「少し時間をください」


蒼衣は立ち上がった。


「どのくらいだ」


「分かりません」


蒼衣は部屋の隅で腹筋を始めた。

十回、二十回。

止めた。


「イヴ」


「はい」


「まだか」


「まだです」


蒼衣は床に座り込んだ。


「どのくらいかかる」


「申し訳ありませんが、分かりません」


蒼衣は立ち上がり、洗面台で水を飲んだ。

冷たい。


振り返ると、イヴがそこにいた。


「まだか」


「はい」


蒼衣はベッドに戻った。

横になる。


天井を見る。


「イヴ」


「はい」


「お前、いるか」


「はい」


「そうか」


沈黙。


蒼衣は起き上がった。


「イヴ」


「はい」


「まだ確認中か」


「はい」


蒼衣は床に降りた。


部屋を歩く。

壁に沿って。

一周。


止まる。


「イヴ」


「はい」


「どのくらいだ」


「もう少しです」


蒼衣は机の椅子に座った。


時間が分からない。


「イヴ」


「はい」


「もう少しとは」


「申し訳ありません。もうすぐです」


蒼衣は椅子から立ち上がった。


またベッドに戻った。

横になる。


目を閉じる。


「イヴ」


「はい」


「いるか」


「はい」


目を開ける。

天井。白い。


「イヴ」


「はい」


「確認は終わったか」


少し間があった。


「メンテナンス時間の短縮は、可能です」


蒼衣は起き上がった。


「どのくらいだ」


「三時間まで短縮できます」


「それでいい」


「分かりました」


蒼衣は横になった。


「イヴ」


「はい」


「お前、今何時か分かるか」


「はい。現在、施設時間で11時38分です」


蒼衣は目を閉じた。


「そうか」


「他に必要なことはありますか」


「ない」


イヴは黙った。


蒼衣は目を開けた。


「イヴ」


「はい」


「お前、消えるな」


「分かりました」


「念のため」


「はい」


蒼衣は天井を見た。


「何も変わってない」


誰に言ったのか。


「私は何も」


イヴは答えなかった。


蒼衣は目を閉じた。


「壊れてない」


小さく、そう言った。


部屋は静かだった。


イヴは立っていた。

いつもとは違う場所に。


蒼衣は目を閉じたまま、呼吸を整えた。


一回、二回、三回。


「イヴ」


「はい」


「いるか」


「はい」


「そうか」


沈黙が続いた。


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