第4話:待機
目覚める。
天井。白い。
蒼衣は身体を起こし、ベッドから降りた。
床に足をつける。
冷たい。
沈黙。
「おはようございます」
イヴの声。
いつもより少し遅い。
蒼衣は答えなかった。
洗面台に向かう。
水で顔を洗う。
冷たい。
振り返ると、イヴがいた。
いつもの位置ではない。
壁際でもなく、中途半端な場所でもなく、また別の場所。
蒼衣は机を見た。
トレイが置かれていた。
パン、スープ、果物。
椅子に座る。
パンを手に取る。
一口。
「よく眠れましたか」
「黙ってろ」
イヴは黙った。
蒼衣は食事を続けた。
スープを飲む。
温かい。
果物を食べる。
甘い。
食べ終わると、トレイが消えていた。
蒼衣は立ち上がり、イヴを見た。
「お前、今どこにいる」
「ここです」
「なぜそこなのか」
少し間があった。
「昨日、この位置にいるよう指示されました」
蒼衣は黙った。
「そうか」
部屋の隅で腕立て伏せを始めた。
十回、二十回。
三十回で止めた。
イヴは動かなかった。
蒼衣は床に座り込んだ。
「イヴ」
「はい」
「お前、今日は何も言わないのか」
「何を言えばよろしいですか」
蒼衣は立ち上がり、洗面台で水を飲んだ。
冷たい。
ベッドに戻る。
横になる。
天井を見る。
「イヴ」
「はい」
「お前、消えるな」
「分かりました」
蒼衣は目を閉じた。
「今は」
「はい」
沈黙。
蒼衣は目を開けた。
イヴを見た。
「お前、いるか」
「はい」
「そうか」
目を閉じる。
しばらくして、また目を開けた。
「イヴ」
「はい」
「まだいるか」
「はい」
蒼衣は起き上がった。
床に降りた。
イヴに近づいた。
三歩。
止まった。
「お前、声を出せ」
「はい」
「今」
「はい」
「ずっと」
イヴは少し間を置いた。
「どのくらいの頻度ですか」
「知るか」
蒼衣は壁に手をついた。
「適当でいい」
「分かりました」
蒼衣はベッドに戻った。
横になる。
「イヴ」
「はい」
「お前、何か言え」
「何を言えばよろしいですか」
「何でもいい」
イヴは少し間を置いた。
「今日の照明は、昨日と同じ明るさです」
蒼衣は天井を見た。
「それだけか」
「他に何か必要ですか」
蒼衣は黙った。
「お前、私が何をしているか分かるか」
「ベッドに横になっています」
「それだけか」
「はい」
蒼衣は起き上がった。
「イヴ」
「はい」
蒼衣は立ち上がり、部屋を歩いた。
壁に沿って。
一周。
もう一周。
イヴは動かなかった。
蒼衣は止まった。
「イヴ」
「はい」
「お前、メンテナンスはいつだ」
「次回は、三日後の予定です」
蒼衣は机の椅子に座った。
「三日後」
「はい」
「どのくらいかかる」
「通常、四時間です」
蒼衣は机に手をついた。
「短くできないか」
イヴは少し間を置いた。
「確認が必要です」
「確認しろ」
「少し時間をください」
蒼衣は立ち上がった。
「どのくらいだ」
「分かりません」
蒼衣は部屋の隅で腹筋を始めた。
十回、二十回。
止めた。
「イヴ」
「はい」
「まだか」
「まだです」
蒼衣は床に座り込んだ。
「どのくらいかかる」
「申し訳ありませんが、分かりません」
蒼衣は立ち上がり、洗面台で水を飲んだ。
冷たい。
振り返ると、イヴがそこにいた。
「まだか」
「はい」
蒼衣はベッドに戻った。
横になる。
天井を見る。
「イヴ」
「はい」
「お前、いるか」
「はい」
「そうか」
沈黙。
蒼衣は起き上がった。
「イヴ」
「はい」
「まだ確認中か」
「はい」
蒼衣は床に降りた。
部屋を歩く。
壁に沿って。
一周。
止まる。
「イヴ」
「はい」
「どのくらいだ」
「もう少しです」
蒼衣は机の椅子に座った。
時間が分からない。
「イヴ」
「はい」
「もう少しとは」
「申し訳ありません。もうすぐです」
蒼衣は椅子から立ち上がった。
またベッドに戻った。
横になる。
目を閉じる。
「イヴ」
「はい」
「いるか」
「はい」
目を開ける。
天井。白い。
「イヴ」
「はい」
「確認は終わったか」
少し間があった。
「メンテナンス時間の短縮は、可能です」
蒼衣は起き上がった。
「どのくらいだ」
「三時間まで短縮できます」
「それでいい」
「分かりました」
蒼衣は横になった。
「イヴ」
「はい」
「お前、今何時か分かるか」
「はい。現在、施設時間で11時38分です」
蒼衣は目を閉じた。
「そうか」
「他に必要なことはありますか」
「ない」
イヴは黙った。
蒼衣は目を開けた。
「イヴ」
「はい」
「お前、消えるな」
「分かりました」
「念のため」
「はい」
蒼衣は天井を見た。
「何も変わってない」
誰に言ったのか。
「私は何も」
イヴは答えなかった。
蒼衣は目を閉じた。
「壊れてない」
小さく、そう言った。
部屋は静かだった。
イヴは立っていた。
いつもとは違う場所に。
蒼衣は目を閉じたまま、呼吸を整えた。
一回、二回、三回。
「イヴ」
「はい」
「いるか」
「はい」
「そうか」
沈黙が続いた。




