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7 雨の塔で、はじめて並ぶ

 その日は雨が降っていた。


 第七魔導時計塔は、雨粒を受けて金属部分が鈍く光り、外壁の白い石材は濡れて深い青灰色へと変わっていた。

 魔導パイプの青い光は水滴に屈折して揺れ、まるで塔そのものが“静かに呼吸している”かのようだった。


 水たまりを踏んだアメリアの足元で、水が跳ねる。


「わぁ!」

 エリオットが足を避ける。

「子どもじゃないんだから、水たまりは避けてよ。僕の服に飛んだじゃん」

「ごめんごめん。でも水たまりがあったら入りたくなるでしょう?」

「ならないよ。僕らもう二十歳越えてるんだぞ?」

「えー?」


 雨でも双子は変わらず明るかった。

 魔導ガラス越しの歯車が淡く光るのを眺めながら階段を上っていく。


 管理室の前で、アメリアは呼吸を整えてノックした。

 エリオットも息を呑む。しかし――音は返ってこない。

 二人は顔を見合わせる。

 アメリアが濡れた扉に耳を当てようとした瞬間、エリオットが素早く首根っこをつかんだ。

「ぐぇ」

「待て。何しようとした」

「耳をつけて音を聞こうかと」

「バカ、汚れるでしょ。しかも今日は雨だよ」

 エリオットがもう一度ノックし、ノブを回したが、鍵はかかっていた。


「普通にいないんじゃない? どこかメンテに行ってるのかも」

「そっかぁ……今日はお会いできないのか」

「アメリア、せっかくだし雨の展望台でも見ていこうよ」

「……うん」


 二人は再び階段を上る。

 外套の裾からいくつもの雨粒がぽたりぽたりと落ちていった。


「あれ」

 エリオットが声を上げた。

「……ヘルマンさん?」


 展望台の少し下、魔導ガラスの一部を外して露出させた配管の前で、ヘルマンがシートを敷き、工具を並べて作業していた。


 アメリアの瞳が、一瞬で輝きを増す。

 彼女は傘を持ったまま、思わず駆け出していた。


「ちょっと! アメリア!」

 エリオットの声は届かない。



 ヘルマンはグレーの雨よけ外套のフードをすっぽり被り、雨に濡れながら魔導パイプの継ぎ目を手早く調整していた。

 細い指先でバルブを回し、時折、小型の魔導スコープを覗き込む。

 雨音と歯車の回転音だけが響いていた。


 アメリアはそっと傘を差し出した。

 突然暗くなった手元に気づき、ヘルマンが顔を上げる。


 切れ長の黒い瞳と、琥珀の垂れ目がまっすぐに交わる。


 雨音が少しだけ強くなった。


「こんにちは。ヘルマンさん」

「あぁ……双子の片割れ」


 アメリアは情けなく眉を下げ、後ろでエリオットが笑っている。

「アメリアです!」

「そうか。……で、何だ?」


「あの……お、お、お……」


 黒い瞳にまっすぐ見られると、アメリアは言葉が喉で迷子になってしまう。


「ヘルマンさん、雨も強くなってきました。お手伝いします。ここですか?」


 エリオットが横から言葉を引き取る。

 アメリアは少し睨んだが、兄は肩をすくめるだけ。


「できるのか?」

 二人は揃って頷いた。

「……じゃあ、頼む」


 ヘルマンは手早く指示を出した。

「アメリア、そこでランプを持ってくれ」

「はい!」

「エリオット、左の固定ボルトを押さえてろ」

「了解」


 アメリアは魔導ランプを掲げ、揺れる光が雨粒と魔導パイプの青光を照らした。

 彼女の外套には細かな滴が跳ねたが気にせず、アメリアは光を向け続けた。ヘルマンの指先の動きに合わせ、彼が作業しやすいようにわずかに調節する。

 エリオットは雨の中でも安定した姿勢でボルトを押さえ、ヘルマンの動きに合わせて力の加減を調整した。

 ヘルマンは淡々と器用にバルブを締め直し、小さな魔導工具で光路の調整を行う。


 雨が歯車に落ち、軽い音が続く。

 そうして、塔の内部で青い光がふっと安定した。

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