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5 押しても引いても開かない扉

 双子は第七魔導時計塔の外階段を一段一段ゆっくりと上っていた。

 アメリアの淡い水色のワンピースが風にふわりと揺れる。

 展望台から降りてきた母子とすれ違うと、母親はにこりと微笑んで軽く頭を下げた。

 アメリアとエリオットも釣られるように笑って会釈を返す。


 時計塔は天へ伸びるようにすらりとそびえ、外壁のあちこちに魔導歯車が埋め込まれていた。

 それらは半透明の魔導ガラス越しにゆっくり回転し、昼は陽光を受けて淡くきらめき、夜は魔導電流の青光を帯びる。


 塔の中ほどに“魔導塔管理室”がある。


 その扉の前で、アメリアは深呼吸した。

 後ろでエリオットが静かに見守る。


 ――第七魔導時計塔は、ずっと大好きだった。

 けれど昨日、設計者ヘルマンに会ってから、アメリアのその気持ちは一層強くなった。


 手巻き時計に触れたときに見せた、あの一瞬だけ柔らかくなった黒い瞳。


 ――あんな瞳の持ち主が作ったから、この塔はこんなに素敵なんだ。


 息をするように滑らかに回る歯車たち。

 ここは、彼が“命を与えた”塔だ。


 アメリアは扉を叩いた。


 しばらくして、カチャリと扉が少しだけ開く。


「はい」

「アメリアです! こんにちは!」


 隙間から覗いたヘルマンの眉がわずかに歪む。


「また落とし物か?」


 エリオットが後ろで吹き出した。


「ち、違います! あの、あの、あの!」

「あはは、落ち着けよアメリア」


 エリオットに背中を軽く叩かれ、アメリアは深呼吸した。


「あの……本当に何でもいいんです!

 工具を磨くとか、トイレ掃除でもいいです!

 時計塔のメンテナンスのお手伝いをさせていただけませんか……?」


 ヘルマンの眉間にしわが寄る。


「手伝いなんかいらん。帰れ」


 バタン。


「ヘルマンさん!!」


 アメリアは扉を叩き、ノブを回そうとしたが、もう開くことはなかった。


「うわーん、全然話も聞いてもらえなかったぁ……」


 扉に頬をくっつけて嘆くアメリアに、エリオットは笑いを堪えながら肩に手を置く。


「三顧の礼って言うだろ? また来よう。

 ヘルマンさんも忙しいんだよ。今日は帰ろ、アメリア。

 ……ほら、顔が汚れる」


 アメリアが顔を上げると、頬に煤がべったりついていた。


「ぷっ……くっ……」


 エリオットの肩が震える。


「あはははは! だめ、もう無理! ひどい顔!!」

「エリオット! ひどい!」

「ごめんごめん! いや無理だって! あはは!」

「笑い堪える気ゼロじゃない!」

「仕方ないだろ! ふふっ!」


 笑い合いながら階段を降り始めたそのとき、彼らとは逆方向に上ってくる影があった。


 艶のある黒の外套。

 ボウラーハット。

 手には銀頭の杖と黒革のフォリオ。


 いかにも貴族然とした青年だった。


 双子が端に寄ると、彼は軽く会釈し、エリオットと目が合えば、口角を上げて微笑んだ。


 そのまま“管理室”の扉をノックする。


 先ほどと同じように、わずかに扉が開き、「はい」と素っ気ない声。


「こんにちは、ヘルマンさん」


 その声を聞いた瞬間、ヘルマンは扉を閉めようとした。

 だが青年はすかさず杖を差し込み、さらにブーツのつま先をねじ込む。


「いやぁ、どうもお邪魔します。

 お茶はいいですよ、無理しなくて」


「誰が用意するか」


 ヘルマンの不機嫌など意に介さず、黒外套の青年は管理室に吸い込まれるように入っていった。


「……なるほど、ああするのか」


 エリオットが妙に感心した声を漏らす。

 だがアメリアはしょんぼりしたまま先に降りていった。


「ちょ、アメリア! 待てって!」


 エリオットは慌てて後を追った。


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