3 時計がつないだ出会い
夕刻。
第七魔導時計塔、管理室の扉がノックされた。
暗い室内で制御盤の数字を眺めていたヘルマンは立ち上がり、小さく扉を開いた。
「はい」
「あの……!」
若い女性の声だった。
「昨日、古い腕時計を落としてしまったんです。届いていませんか?」
ヘルマンが扉を開くと、よく似た顔立ちの若い男女が立っていた。
女性は焦った顔でこちらを見上げ、後ろの男性も眉を下げて心配そうにしている。
「……どんな時計だ?」
ヘルマンが問うと、女性が胸の前で両手を握りしめた。
「手巻き時計です。フェイスが青で、濃い茶色の革ベルト。おじいちゃんの形見で……」
ヘルマンは短く頷き、扉を広く開けて明かりをつけた。
「ある。中で確認しろ」
双子は顔を見合わせ、同時に頬を紅潮させた。
表情までそっくりだった。
ヘルマンは先に部屋へ入り、遺失物入れの箱をテーブルに置いて中身を探り始めた。
双子は部屋をぐるりと見回す。
壁一面の制御盤。
大小のメーター。青いランプが規則正しく瞬いている。
天井には剥き出しのダクト。魔導蒸気が流れ、脈動するような唸りが低く響く。
反対側にはスチール製の書架が整然と並び、几帳面に整理されたファイルが隙間なく詰まっていた。
書架の向こうにもう一つ作業空間があるのがわかる。
ヘルマンが使っているテーブルも、廃材を組み上げたスチール製だ。
パーツは不揃いだが、それがかえって味を出している。
真上の黒い傘のランプがチリチリと音を立て、橙の光で手元を照らしていた。
「秘密基地みたい」
「憧れたよな、こういうの」
双子のひそひそ話を気にする様子もなく、ヘルマンが一つの時計を持って近づいてきた。
「……これか?」
コートのポケットに片手を突っ込んだまま、無造作に差し出す。
女性──アメリアは分かりやすく目を輝かせた。
「これです! ありがとうございます!」
触れようとした瞬間、ヘルマンは手を引いた。
「一応、サインをくれ」
踵を返して書類棚から紙を取り出し、テーブルに置く。
近くの席には座らず、一番遠い椅子に腰掛けた。
退屈そうな目でアメリアを見つめ、視線がぶつかると小さく頷く。
アメリアはおずおずと腰掛け、ペンを取って記入を始めた。
青年──エリオットはその横で、妹の手元を覗き込む。
「アメリア、見つかってよかったな」
「……うん。なくしたかと思ってドキドキしたけど……よかった」
アメリアが眉を下げながらも嬉しそうに笑う。
エリオットも柔らかく微笑んだ。
「君らは双子なのか?」
「はい、そうなんです」
エリオットが答えた瞬間、ヘルマンと目が合い、彼は軽く目を見開いた。
「あの……僕はエリオット・ブライトです。王立魔導建築学院で補講師をしています」
胸に手を当て、丁寧に名乗る。
「失礼ですが……ヘルマン・クロウフォードさん、ですよね?」
その名を聞いた途端、アメリアが勢いよく顔を上げた。
ヘルマンは眉を寄せ、首をかしげる。
橙色の灯りに銀灰の髪が揺れ、淡く虹色をまとった。
「……そうだが」
返事をした瞬間、双子が揃って黄色い声を上げ、ヘルマンは肩を跳ねさせた。
アメリアが立ち上がり、エリオットと向き合って手を取る。
「アメリア! ヘルマン・クロウフォードさんだって!」
「エリオット! 本物のヘルマン・クロウフォードさんだよ! サイン欲しい! 質問もしたい!」
「仕事の邪魔だよ、アメリア!」
二人がちら、とヘルマンを見る。
彼は深くうんざりした顔で、手を差し出した。
「……サインは受け取りのだけで十分だ。書いたら時計を持って帰れ」
「えぇ〜!!」
「うるさい」
ヘルマンがだるそうに睨むが、双子は顔を見合わせて嬉しそうに笑っていた。




