2 双子、夕暮れの塔で
「うわぁ! キレイ!」
「うわぁ! 最高!」
王都の中心にそびえる第七魔導時計塔。
夕暮れの展望台に、二つの弾む声が響いた。
淡い茶色の猫っ毛。大きな琥珀色の瞳。
垂れ目の妹アメリア・ブライトと、吊り目の兄エリオット・ブライト。
双子は欄干に身を乗り出し、王都を赤く染める夕陽を並んで見つめていた。
空には魔導飛行船がいくつも浮かんでいる。
翼についた航行灯が橙と青の軌跡を描き、オレンジから群青へ変わる空を、まるで巨大なキャンバスのように彩っていた。
「この第七魔導時計塔って、夢の詰まったプレゼントボックスみたい!」
アメリアは風になびいた細いポニーテールを揺らしながら、歌うように言った。
「外から見ても、中から見ても嬉しくなっちゃう!」
「配置も良いんだよな。王都のどこからでも見える」
エリオットも風に前髪を遊ばせながら言う。
「時計のデザインも優美で見やすいし、鐘の音はよく響くのにうるさく感じない。よく計算されてる」
双子は目を合わせ、同時に弾けるように笑った。
「つまり、最高ってこと!」
「つまり、最高!」
汽笛が鳴り、点滅する緑のランプを光らせながら魔導列車が遠くを走り抜けていった。
灰色の蒸気が長い尾を引き、夕空の端に溶けていく。
「エリオット、新しい論文、通りそうなんでしょ」
「うん。都市開発の新理論。音共鳴と魔導パスウェイの構築」
「あっという間に教授になっちゃうんだろうなぁ……」
アメリアは欄干の手の上に顎を乗せ、列車の光跡を目で追った。
クリーム色のスカートが風にぱたぱた揺れる。
「まさか!」
エリオットが肩をすくめ、欄干から身を離す。
「何年先の話をしてるんだ」
「未来のことなんてわからないもの。あっという間かもしれないよ?」
アメリアが眉を下げて笑うと、エリオットは片眉を上げた。
「双子なのに、エリオットだけ働いてるなんて羨ましい」
「アメリアは就職これからだろ? 手先も器用だし頭も良い。つまり、なんにでもなれるってことさ」
「ふふ……エリオットは我が兄ながらいい奴」
「知ってるよ」
ふたりはまた同時に笑った。
夕陽はゆっくりと丘の向こうへ沈んでいく。
頭上には星と魔導飛行船が、きらきらと瞬いていた。
「明日もどこかの魔導建築を見に行くんだろ? それとも工房見学?」
「うーん、明日決める」
「じゃあ、僕も付き合うよ」
「ありがと」
頷き合い、ふたりは外階段へ向かった。
魔導時計塔をぐるりと囲む螺旋階段は、並んで歩いてもまだ余裕がある。
そのとき――カチャン。
何かが落ちる小さな音。
だが、階段を降りる双子の足音と話し声にかき消され、ふたりの耳には届かなかった。
---
管理人専用のスチール扉が開き、ヘルマンが展望台へ出る。
今日のメンテナンスは少し手こずった。
彼が風を頬に受けた頃には、もう陽は落ち、夜空には白い月が浮かんでいた。
「……おや?」
足元に何か小さな影。
ヘルマンは屈んで、それを拾い上げた。
「……落とし物か」
彼の掌にあったのは、今ではほとんど見かけない手巻き式の腕時計。
古びているが丁寧に手入れされていた。
「渋いな。随分と年代ものだ」
無造作にアトリエコートのポケットへ入れると、欄干に手を置き、王都をゆっくりと見渡す。
夜空の輝きと、夜の街の灯り。
互いに負けじと輝きを放っている。
その中でひときわ明るいのは、時計塔の麓にある王立魔導建築学院。
夜になっても灯りが落ちないのは、研究熱心な学者や学生たちが働いている証だった。
「……ご苦労なことだな」
ヘルマンは小さくあくびをし、一度目を閉じる。
そして背を向け、静かに管理室へ戻っていった。
夜の街に汽笛が鳴り響く。
しかしその音が、ヘルマンの耳に届くことはなかった。




