18 最終話 新しい塔への約束
王都の街には魔導重機が並び、人々が忙しなく動き回っていた。淡々と、しかし確実に復興は進んでいる。
第七魔導時計塔も同じだ。塔の外側には足場が組まれ、左官たちが黙々と修繕を続けていた。
新品の銅製の羽根飾りが塔の頂部に取り付けられ、風を切るたびにカランと涼しい音を響かせる。
展望台の欄干に手を置き、ヘルマンは静かに街を見下ろしていた。
そこへ、塔内階段を跳ねるように駆け上ってきたアメリアが扉を押し開く。彼を見つけた途端、琥珀の瞳がぱっと明るくなった。
「ヘルマンさん!」
ヘルマンは振り返り、小さく笑った。
アメリアは彼の隣へ並ぶと、真上の時計盤を見上げる。
「時計、四面とも直ったんですね」
「うん。階段はまだ仮設だけどな。
雷で得たエネルギーと塔の魔導動力は圧縮して街に渡した。復興作業のためだ。
だから今は、ここで余計な動力は使わず、時計盤だけ点灯させてる」
「明かりが全部戻るのは……復興が終わる頃、でしょうか」
「どうだろうな。物はすぐ直せても、“元の暮らし”が戻るまでは時間がかかる」
「……そうですね」
アメリアはそう答えると、ヘルマンの腕にすり寄るように身体を寄せた。
困ったように眉を下げたヘルマンを、アメリアはにっこりと見上げる。
「えへへ!」
根負けしたヘルマンは、アメリアを自分の前に立たせるように引き寄せ、肩越しに王都を見渡した。
「卒業制作はどうなんだ」
「ほとんど完成しました。ヘルマンさんからいっぱいアドバイスもらいましたし。教授にも褒めてもらったんですよ」
「早いな。皆ぎりぎりで仕上げるのに。……俺なんて、締切り直前だった」
「ヘルマンさんのそばにいたかったんです。早く終わらせたかったの。手は抜いてませんよ?」
振り返りながら胸を張るアメリアに、ヘルマンはため息をひとつ落とし、そっと頭を撫でた。
「……子ども扱い……されてる気がする」
背を向けて小声で呟くアメリアに、ヘルマンは苦笑を浮かべた。
「前に聞かれたよな。“守りたいものはあるか”って」
アメリアは振り返り、ヘルマンを見上げる。
「――俺が守りたいもの。
それは、魔導施設を見て輝く、お前の瞳だ。
……そういうもののために造ってたんだな、俺は。忘れてたよ」
アメリアの顔が一気に真っ赤になる。
「……ヘルマンさん……」
彼は伸ばした手でアメリアの手をそっと取った。
「アメリア。
一緒に新しい魔導塔を造らないか。――隣国の、とんでもなくデカいランドマークだ」
「え……?」
銀灰の髪が風に揺れ、切れ長の黒い瞳にアメリアが映る。
彼女の琥珀の瞳には、塔の魔導光が差し込み、星のように瞬いた。
ヘルマンは見たことがないほど穏やかな眼差しで告げる。
「アメリア。……一緒に来てくれないか」
「……連れてってくれるんですか?」
彼は口角を上げ、アメリアの頭に“ぽん”と手を置いた。
「ついて来い、アメリア」
「……はい!」
その瞬間、
第七魔導時計塔の鐘が鳴り響いた。
王都じゅうに柔らかく降り注ぎ、隣町にまで届く音だった。
まるで二人の未来を祝福するように。
――祝福の鐘。
――これから刻まれる、新しい時の音。
それはどこまでも、優しく澄んでいた。




