表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第三輪『五本の薔薇は私を絡めとる』

「貴女とお付き合いさせてもらいます××と申します」


なぜだろう。声が聞こえない。脳が理解を拒む。


「××さまは△△家の後継で我々白百合家との永続契約を結んでいるのです」


名前と家柄だけが私の価値。私はただの、刺身に添えられる菊の花。


「よろしくお願いします」


感情なんていらない。愛情なんて必要ない。だって――


ただの"恋人ごっこ"だもの


――


いつからだろう。"愛"を忘れたのは。

お父様も、お兄様も、私をただの"家族"でしか見ていなかった。

"愛"なんてなかった、表面上での家族でしかない。


「よかったー澪が無事で!」


「うおぉぉぉぉ……白百合ぃぃぃぃ!」


なぜそんなに喜ぶのか。私が無事なことが。

私だから、皆は私を”特別”と思っているから。


――私はみなさんが思うほどに……


「み、澪さん……?」


気づけば昨日の旧体育館に居た。目元から雫がこぼれ落ちる。


「ど、どうして泣いてるんですか……ど、どうしよう……」


全身が温かい。五薔薇木さんの温もりを感じる。


「ごめんなさい、どうやら疲れちゃってるみたいで……」


「わ、私……びっくりしました……」


五薔薇木さんに手を握られる。

突然のことで、鼓動が少し早くなる。

五薔薇木さんの手は、少し汗ばんでいた。


「み、澪さんが……」


――


あれは少し前の出来事。

ホームルームが終わり、部活動見学の続きに行こうと清花と芽衣で一緒に教室を出ようとした。


「どこに行く?昨日は休んじゃって見れなかったしさ!」


「うーん……パソコン関係の所が良いな。運動できないし」


すると、裾を掴まれる。

ゆっくりと振り返と、裾を掴んでいたのは澪さんだった。その手は微かに震えているのに気がついた。


「み、澪さん……?」


澪さんは静かに口を開く。


「少し……お話がしたいので、今朝の場所に来てくれますか……?」


――


「み、澪さんが……ここに連れて来て……」


ここまでの出来事を話し終えると、澪さんの顔が真っ赤に染まった。


「そ、そうだったんですね……ごめんなさい……部活動見学の邪魔をしてしまって……」


「だ、大丈夫です……私……部活入らないので……」


すると、突然腕に澪さんが抱きつく。一瞬にして澪さんの温もりが身体中に染み渡る。


「み、澪……さん……?」


澪さんの表情は安堵の表情だった。しかし、瞳には涙が浮かんでいた。


「よかった。では、毎日こうしていられるんですね……!」


校舎の喧騒とは裏腹に、美しく儚い静寂が朽ちた屋根の隙間から抜け出していく。


――


日は落ち、街はすっかり暗くなる。


「澪さん……」


抱きつかれた腕には微かに温もりを感じる。


「なんだろう……この気持ち……」


客観的に見れば、女性同士の恋愛は普通なのか。それとも、私の考えすぎなのか。


「これが、恋……?」


もし、恋だとしたら。私はどうすれば良いのだろう。


――


「珍しいなー!唯から誘ってくるなんて!」


「そ、そうかな……?」


気付けば連休に入っており、私は清花と芽衣、そして澪さんを誘ってお出かけをすることに決めた。


「それにしても、唯が白百合さんを誘うなんて」


「普通のことでしょう?お友達を誘うのは」


やはり、何かが引っ掛かる。

"お友達"。抱きつくのはただの友人同士のスキンシップなんだ、と何故か落胆してしまった。


「あ、ここです……!」


「服屋か!唯、最近なんかあったのー?」


某有名服屋に来た。ここには沢山オシャレな服が置いてあるとネットで調べて来た。みんなも楽しめると良いな、と思ったけど有名すぎてあまり楽しめないかな。


「高校に入ってから、唯変わったよね」


「もしかして、彼氏とかー?」


「いやいや……そんなことないよ……」


気づけば澪さんを見つめていた。

澪さんは服屋に夢中で気づいていない。澪さんの瞳には紛れもない純粋さで、一才曇っていなかった。


――


「唯はどんな服が着たいの?」


「うーん……」


私が服屋に誘った理由は、みんなを楽しませるため。別に欲しい服とかなかったから、どんな服買うとか決めてない。


「五薔薇木さんは、これとか似合うんじゃないでしょうか?」


澪さんが服を一着、持って来た。

グレーの可愛らしい服だ。


「ちっちっ!わかってないですねぇ澪さん。唯には……こういうのが似合うんですよー!」


澪さんに対抗するようにして、清花も服を持って来た。その服は清花のお揃いで、いかにも陽キャな服だった。


「い、いや……私はそういうの似合わないんで……」


――


結局、両方の服を買った。無事、お財布が涙しています。


「今日は楽しかったなー」


「ゴールデンウィークはまだあるから誘ってよ」


「そ、そうだね……!」


夕日は橙に煌めき、静かな街を照らす。


「それじゃあ私たちはこっちだから、また今度ー!」


清花たちとは別れ、澪さんと二人きりになった。


「み、澪さん……?」


「どうなさいましたか?」


この場所、この時間。

一ヶ月前に彼女と会って間もない頃。全く同じ光景を目にした。


「ほ、本屋……行きませんか……?」


けれど、前は澪さんの誘いを断ってしまった。今回こそは――


「あの時の事、覚えてくださったんですね……」


彼女の表情は嬉しいわけでも、悲しいわけでもない。真剣な表情だった。


「澪……さん……?」


後光が彼女の神聖さをさらに引き立たせる。澪さんは静かに、でも確実に足を私の方に進めている。


「あ、あの……なんか言ってほし――」


一瞬の出来事だった。口元に温もりが、そして鮮やかな香りが広がる。その香りは次第に、私の意識を蝕んでいく。


「ごめんなさい……私、五薔薇木さんの事が――」


「好きになっちゃったみたいなの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ