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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
真加部阿礼
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茨城農業高校

 真加部は茨城農業高校まで来ていた。校門前の車中からパクに電話をしている。

「というわけで、めぐちゃんを探してくれ」

『今日中に当たりたいんだよな』

「そうだな。せっかく茨城まで来てるんだからな。今日で終わらせたい。二度手間はごめんだな」

『わかった。鋭意努力する』

「頼んだぞ」

 パクならなんとかしてくれるだろう。これまでもパクの捜索能力には絶大なものがある。

 さてと、真加部は考える。茨城農業高校への侵入方法だ。これまでパクが茨城県警で西城たち江古田署と警察関係が連続して来校している。警察関係が続くのはあまりに不自然だ。

 真加部は設定を決めたのか、堂々と校内に入って行く。

 田舎の高校だからか、敷地は広い。グラウンドを見ると野球場やサッカー場まである。また、農業高校ならではなのか、研究棟みたいな建物が数棟ある。校舎は4階建ての昔ながらの建物だ。そろそろ建て替え時期なのではないかと思えるほどの風格がある。

 真加部は受付で自身の肩書を伝え、教務主任への面会を依頼する。

 しばらく待つと、爺さん先生が顔を出す。パクや西城が面会した佐久間と言う名前の教師だった。人の良さそうな爺さんが真加部を見て言う。

「えーと、あなたが源さん?卒業生の京香さんの姪っ子ですか?」

「はい、そうです」

 爺さんは遠くを見る目をして話す。

「源京香さんね。はいはい覚えてますよ。優秀な学生さんでしたね。たしか持病があったのかな」

 そういって真加部を見る。

「ふむふむ。そうだ。貴方と似ている気がします」

 本当に思い出したのかは眉唾物だが、騙せたようだ。

「今年の秋の教育実習を考えていて、見学したいということですね」

「はい、現在、茨城大学教育学部の4年生です。教育実習については別途申し込むつもりですが、その前にぜひ校内を見学したいと思って来校しました」

「そうですか。今は授業中だから、校舎内は難しいですよ。外から見る分には構わないかな。私もこの後、授業があるから、お相手は出来ないです」

「はい、構いません。外から学校の雰囲気を見たいだけですので」

「そう、じゃあ、遠慮なくどうぞ。終わったら受付に話をしてね」

「わかりました」

 爺さんは去っていく。こんなに簡単に信用していいのだろうか、学生証ぐらい要求すべきだと思うのだが。

 ここで真加部が見たいのは倉庫である。

 早速、倉庫に急ぐ。

 南京錠は開けてくださいといわんばかりのちゃちなものだ。真加部は工具でいとも簡単に開ける。

 そうしてパクから聞いていた棚に急ぐ。

 なるほど棚の一角が見事に無くなっている。確かに段ボール箱で10箱分程度だろう。真加部はスマホを使って残った箱の表示ラベルを撮影していく。横にはマジックで年と内容物についての記載がある。20年前の資料が数年分無くなっていた。

 ほぼ一教室分の資料について記録する。これで40年から50年分は十分に記録した。パクに分析させれば無くなった箱について推定は出来るだろう。

 これで作業が終了と、次に真加部は校内を散策する。

 ここは母親らしき人物の母校なのだ。そしてそれと関係する誰かについても何かわかるかもしれない。

 ここには馬場もあるようだ。厩舎があって馬もいる。さすがは農業高校だ。

 しばらく校内を歩くと、庭園とまではいかないが、花が咲いていた。中心は薔薇だ。

 そういえば先ほどの源さんの話だと京香は花が好きだったそうだ。

 バスケットコートぐらいの広さに庭園が広がっている。薔薇が中心となり、花々が咲き乱れている。

 真加部はそれを見ると何故か優しい気持ちになる。自分の中にこういった気持ちがあるのが不思議な気もする。そういえば今まで花を愛でようなどと思ったことは無かった。母親の遺伝子は自身の中にあるのかもしれない。そして父親の遺伝子はどうなっているのか。父親は誰なのか。

 すると真加部は庭園に不自然な一角を見つける。そこだけ何も無いのである。薔薇の中だから、何か薔薇があったはずだ。それが何故か気になる。

 パクに電話をする。

「パク」

『阿礼、ああ、ちょうどよかった。めぐちゃんわかったぞ』

「そうか、どこにいる?」

『結婚して東京にいる。今は名前が変わって小峰恵だ。住所もわかったぞ。今から送る』

「ありがとう」

『これから行ってみるか?』

「そうだな。それとパクに別なお願いがある。今、農業高校にいるんだが、庭園があってな」

『ああ、無くなってるっていうんだろ』

「そうだよ。パクも気が付いたのか?」

『別の場所に植え替えたのかもしれないがな』

「そうなのかな。どうも気になる」

『実はもう調べてある。以前の画像を入手してみた』

 パクが何やら操作しているようだ。真加部は少し待つ。

『阿礼、なかなか鋭いな。確かにミンヤーが来る前にはそこに何かあったようだ。衛星画像だとそこに何かある』

「つまりミンヤーが持って行ったというのか?」

『どうかな。そこに何があったか、わかればいいんだが。この画像じゃそこまでは無理だ』

「わかった。ちょっとやってみる」

 電話を切った真加部は周囲を見る。お誂え向きに授業が終わったのか、生徒が出てきた。

 女子高生が2名、庭園の前を横切ろうとしていた。

「ちょっといいか?」今日の真加部はリクルートスーツなので怪しまれることはないようだ。

「何ですか?」

「変なことを聞くんだが、そこの庭園にどんな花があったかわかるか?」

 真加部は庭園のそっくり無くなっている土だけの部分を指して言う。

 女子高生は顔を見合わせ、何か思い出そうとしている。二人で話し合うも何も浮かばないのか、首を振る。

「覚えてないです」

「誰かわかる人はいないか?」

 するとそこに男の子が来る。女子高生は、これは助かったとばかりにその男に聞く。

「田中、ここに何があったかわかる?」

 眼鏡を掛けて背の低い、いわゆるずんぐりむっくりとした体形の男子がびっくりしている。真加部も聞いてみる。

「この一角、何も無くなってるだろ。元々、何かあったと思うんだが」

 男の子は眼鏡を指で上げてじっと見る。

「ああ、そこですか、ありましたよ。薔薇です。薔薇、確かに無くなってますね」

 見ると女の子たちはもういなくなっている。

「どんな薔薇だった?」

 男の子は考えている。

「いや、普通の薔薇だったですよ」

「そうか、何か画像とかは無いか?」

「ちょっと待ってください」

 そう言いながら、真加部を見て、何かに気づく。

「あれ、貴方、ナードのメンバーだった人ですか?」

 真加部はぎょっとするがごまかす。

「なんだ。ナードって」

「え、違うのかな。なんか似てますよね」

 油断も隙もない。今の世の中、どこで誰が見ているかわからない。

 男の子はどこかに連絡したようだ。しばらく待つとスマホを真加部に見せた。

「園芸部の友達から送ってもらいました」

 スマホに映っていたのは、この庭園を映した画像だ。そしてそこにあったのは黒い薔薇だった。

「確かにそこにあったらしいんですが、盗まれたみたいだって怒ってましたよ」

 真加部は男の子の言葉が聞こえない。どこか別の世界に入ったかのような顔をしていた。

 真加部はその花に見覚えがあった。

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