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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
ミャンマー
79/130

パプン

 ハイラックスがパプンに入って行く。ところが街は騒然としていた。いったい何が起こっているのだろうか。本来であれば山岳ののどかな村なのだろうが、人々が何か叫びながら右往左往している。

 サワが話す。

「戦闘が起きたな。ここにいるはずの国軍が見当たらない」

 確かにそこには兵隊がいない。KNUが攻撃を仕掛けたのかもしれない。国軍が応戦に向かったということだろうか。

「とりあえず病院に行ってくれ」

「病院?」

「ああ、そうだ。パプン群病院だ」

「パプン群病院だな。わかった」

 車が山間の病院に向かっていく。

 病院は平屋で学校のような建物だった。看板と赤十字の病院マークで、そこがそうだとわかる。

 真加部は車から駆け降りると中に入る。

 病院は外よりも騒然としていた。けが人が多いのだ。至る所にうずくまった住民たちが苦悩の表情で何かを待っている。

 サワが後から来る。

「こりゃひどいな。けが人だらけだ」

「攻撃されたのか?」

 サワがそこにいた男に話を聞く。

 泣きながら惨状を話している。サワが首を振りながら言う。

「迫撃砲が当たったらしい。自分の家が壊されたって」

「サワ、こんな時に悪いんだが、病院にこの医者がいないか聞いてくれ」

 真加部が写真を見せる。タイ時代のモーアンとパクに作ってもらった現在の推定画像が映っている。

「え」サワが驚く。そして真加部をじっと見る。

「人探しをしてたのか?」

「ああ、そうだ。頼む」

「わかった」

 サワが駆けまわっている看護師を無理やり止めて話を聞く。

 看護士は悲鳴に近い声を上げて抗議しているが、写真を見ると何か言っている。さらにはどこかを指さしているようだ。

 一通り話を聞いたサワが真加部に話をする。

「ここではドー・カウン・ニラと言う名前らしい。確かにここにいるそうだ。でも今はいない」

「どういうことだ?」

「医薬品が届くことになっているんだが、途中で車が立ち往生しているらしい。攻撃を受けたのかどうかはわからないが、それでニラさんが迎えに行ったそうだ」

「どこに向かったんだ?」

「パアン方面だ」

「え、じゃあ、すれ違ったのか?車種は何だ?」

「スズキのキャリーらしい。ロゴが入ってる。それとあんたに話さなかったが俺は林道を通ったんだ」

「林道?」

「途中の検問にKNUの知り合いがいた。もしかするとパプンの飛行場が襲われるかもしれないと話していた」

「それを回避したんだな。そういうことか」

「幹線道路側で襲撃があったと思う。とにかくここには手術が必要な患者が大勢いるらしい。医薬品が無いと手術も出来ないって喚いていた」

 真加部が憤る。「サワ、どこかにバイクは無いか聞いてくれ。金は出す」

「バイクで行くのか?」

「道路が破壊されてるかもしれないだろ。おそらくバイクがベストだ」

「わかった。でもここじゃだめだ。外で探そう」

 サワと真加部が病院の外に出る。

 遠くから砲撃音が聞こえている。硝煙の匂いも流れてきていた。国軍が反撃を開始したのかもしれない。真加部の記憶が揺り動かされる。

 民家を走り回るとちょうど家の前にバイクが置いてある家があった。KAWASAKI KLX150、オフロードバイクだ。

 サワが民家に入ってそこの若者と交渉を始める。しばらく話して交渉が成立したようだ。

 サワがバイクのキーを真加部に渡す。

「ほら、ぼられたぞ。600万MMKだとよ(約20万円)」

 真加部がバイクのエンジンを掛ける。数回キックしてようやくかかる。程度はいまいちのようだ。

 真加部はバイクのタイヤを空転させながら、騒音とともに消えていく。

 サワはその姿を遠い目をして見送った。

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