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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
ミャンマー
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茨城県水戸市 パクの調査

 パクはハッキングだけで概ねミンヤーの行動履歴を追うことはできた。ただ、細かい裏付けは必要になる。それでレンタカーを使って茨城まで来ている。さらに今日はスーツを着て偽造警察手帳を持っている。手帳を見てそれは違うと言われることはまずないのだが、パクはこういったときも正確を期す。まさに茨城県警と記載のある手帳を用意している。

 ミンヤーは茨城空港の到着以降、なぜか県内に2日間もいた。それを確認する必要がある。茨城空港からは車に乗って北上し、水戸市内にいたことがわかっている。

 パクは一日掛けて、水戸市内のネット非接続の防犯カメラ画像を収拾していた。

 ちなみにパクは北の諜報員教育を受けている。人見知りでありながら、こういった犯罪に近い探偵行為の場合は、演者に徹することができる。ただ、それでも少し雰囲気はおかしい。防犯カメラの店舗の人間はそんなパクが少し気になるようだが、こういう刑事も要るのかな程度で、なんとかなっている。

 終日かけて、おそらくミンヤーが立ち寄った箇所の最終目的地に来ることができた。その最終地点だが、なぜ、ミンヤーがこんなところに来たのか、不思議でならない。

 パクの目の前には広い校庭と校舎が建っている。

 門の表札には県立茨城農業高校とあった。

 実にミンヤーはここに二日間もいたようなのだ。高校側の防犯カメラは今時、スタンドアローンでネット非接続だった。

 近年は学校もセキュリティにうるさくなっている。学校内での痛ましい犯罪行為が続いていることもあって、迂闊にうろうろはできない。それ故、刑事と言う肩書が不可欠で、パクも気合が入る。ミンヤーがどうしてここにいたのか、その履歴固めが必要だ。


 学校受付に県警を名乗ると会議室に通される。

 扉が開いて爺さん先生が顔を出した。

「お世話になります。私、教務主任をしております佐久間と申します」

 年の頃は50歳は優に超えて、おそらく60歳近いと思われる。白髪頭でいかにも教師一筋といった雰囲気である。パクは北朝鮮で亡くなったおじいさんを思い出す。貧相な感じが似ている。

「茨城県警生活安全課の新井と申します」

 爺さん教師は少し怪訝そうな顔で聞く。

「学校に来訪した人物の問い合わせと聞きましたが?」

「ええ、事件性は無いと思いますが、こちらに来訪した人物について問い合わせがありましたので、その確認になります」

「問い合わせ、はあ、そうですか」

「校内に防犯カメラがあるようですが、それを見せてもらっていいですか?」

「ああ、いいですよ。じゃあ、設備室に行きますか?」

「お願いします」

 学校内の放送設備や機材が置いてある部屋に行く。6畳ぐらいの中に機材がひしめいていた。

 爺さんは防犯カメラのコンソールをいじる。

「あれ、どうだったかな」さすがは爺さんだ。こういうのには疎いのだろう。

「私がやります」

 パクが名乗りである。

「え、わかりますか?」

「ええ、いたって標準的な機器ですから」

 そういうと爺さんとは比較にならない速度で機器を操作する。

 ミンハーがいたのは1週間前だ。校内を映しているのは3台の防犯カメラでしばらく見ているとすぐに見つかった。

 ミンハーらしき人物は実に堂々と教師と話をしている。

 パクは爺さんに質問する。

「この人物に覚えがありますか?」

「はい、あります。農業試験場の人でしたね。名前は確か鈴木さんだったかな。この人が何か?」

「用件は何と言っていましたか?」

「なんでも古い資料を確認したいようでしたね」

「古い資料ですか?」

「そうです。教員の中には学会に参加している者もいるんですよ。ここは農業高校なので研究課題を持ってる教師もいます」

「そういうことですか」

「まあ、発表内容と知っても、ほとんどが地元の農業振興に関してなんですがね」

「それで鈴木さんが気にされていたのはどういった資料でしたか?」

「特に何かがということではなかったですよ。資料を見せてくれと言われてその場所まで案内して、何件か確認されていましたね」

「そういった資料はどこにあるんですか?」

「古いものは段ボールにつめて倉庫にあるんですよ」

「そこにも行ったんですか?」

「ええ、そこで段ボール箱をみただけです。実際、埃まみれですからね。1個ぐらい中を開けてみたかな、中身を吟味はしていなかったですね」

「資料を見たいと言ってたんですよね」

「どうかな。保管状況の確認だったのかな」

 ボケてるのかもしれない。証言に一貫性がない。

「そちらには防犯カメラは無いんですか?」

「ありませんね。カメラは校内の生徒の安全対策なので、そういった場所までは設置していません」

「そうですか。それで鈴木さんは帰られたんですね」

「そうです。2時間ぐらいですか」

 実際、ミンハーはその後もこの地にいたのである。彼はここで何をしていたのか。

 パクはさらに防犯カメラを確認する。そして気づく。

「これ以降の画像はどうなりましたか?」

 動画が途切れているのだ。ミンハーが来訪した日から動画が無くなっている。

「え、無いですか?おかしいな」

 防犯カメラが機能していない。爺さん先生とカメラの場所まで行くと、すべてのカメラのコードが抜かれていた。

「いや、気が付かなかったな。生徒のいたずらかな」

 パクには確信があった。ミンハーはこの高校の古い資料を見たかったのだ。防犯カメラを無効化し、おそらく資料も持っていたと思われる。

「事件にしますか?」

 パクは立場上、一応、警察として聞いてみる。

「いえ、機材も壊されていないので不問にします」

 生徒のいたずらと思っている様だ。いやいや、校内すべてのカメラをいたずらしないだろうと思うが、あえて言わない。パクの仕事はここまででいいのだ。これでミンハーの行動履歴は確認できた。

 パクはここまでと学校を後にする。

 爺さんは暇なのか、単に親切なのか校門近くまで見送ってくれる。

 さすが農業高校だ。敷地の至る所に植物が植えてある。今は花が咲いているものも多い。

「初夏に向けて花も色々咲いてますね」

「そうですね。そういったことに熱心な生徒も多いんですよ」

 薔薇は今が盛りなのだろうか、色々な色合いの薔薇が咲き乱れている。

「これだと見学でお金が取れそうですね」

「ええ、まあ、近隣の方々も見に来られたりもします」爺さんはうれしそうだ。

 庭園を見ていたパクが気付く。

 庭園の一角に花が無い箇所がある。それがなんとも不自然に映る。

「そこには何があったんですか?」

 爺さんもそれに気が付いた。

「あれ、どうだったかな」そういってその場所に近寄る。

 地面が掘り起こされているように見える。

「植え替えたのかな。何かあったとは思いますが」

「そうですか」

 気にはなるがパクの仕事外である。

 ここまでで報告書は作成可能だ。後は江古田署管轄である。

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