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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
ミャンマー
75/130

江古田警察署長

 パクが珍しく、太陽の下を歩いている。たまには日光浴をしてビタミンDを補給しようというのではない。今回は江古田署から呼びだしを受けた。

 本来であれば、渉外担当は阿礼の役割なのだが、出張中のため、やむなくパクが行くことになった。江古田署に行くとパクの推しメン、ゴミこと駒込に会うことになる。それを考えるとやはり緊張する。

 人見知りの上、人と話すのも得意ではない。北朝鮮時代に日本語は覚えさせられたので、話しはできるのだが、イケメンや初対面の人間と話すとなると、どうしようもなく緊張する。

 阿礼はそんなパクに、何事も強気で行けとサジェスチョンをしていた。パクはそこそこかわいいのだから、自信を持っていいんだとも言う。強気の固まり阿礼と一緒にするなと思うし、とてもそんな気にはなれない。ただ、今日は流行りのビスチェとワイドパンツできめている。まずは外見からだ。そういった知識はネットから仕入れた。

「ハッキング専門なんだけどなあ」

 ため息まじりにつぶやく。

 江古田署の組織犯罪対策課にのそっと顔を出す。

 パクを見かけたイケメンが飛んでくる。うわ、出た。「パクさん、どうも」駒込が真っ先に挨拶する。

「ど、どうも」

 続いて西城がぼんやりと姿を現す。「ほー、なんかかわいらしい格好してるな」

 パクの顔が真っ赤になる。

 そんな乙女に西城はまったく気づかず、駒込とともにパクをどこかに連れていく。

「どこに行くんだ?」

「ああ、署長が挨拶したいそうだ」

「署長?」

「そうです。色々お世話になってるお礼と、なんか依頼したい案件があるそうです」

 駒込がフォローする。仕事なら断るわけにはいかないのだ。

 エレベータで最上階といっても一つ上の4階だが、そこの署長室に行く。

 重々しい扉を開け、中に入ると長机を前に、高級そうな椅子に座った中年男がいた。

 パクを見ると満面の笑みで近づいて来る。うわ、苦手なタイプだ。

「どうもどうも、真加部探偵社の方ですな」

 パクの貧弱な手がつぶれるかと思う勢いで握手してくる。なんか汗ばんで気持ち悪い。これは一種のハラスメントだ。

「ささ、どうそ」そう言うと部屋の中央にある大型のソファにパクを座らせる。

 めり込みそうなほど、クッション性の高いソファだ。

 パクの両隣に西城と駒込が座り、対面に署長が座る。

 パクの調査によるとこの署長はノンキャリアで、いわゆるたたき上げでここまで来た。年齢は50歳で西城と同年代である。階級は警視正。西城とは大きな差が付いた。西城はどういう思いでいるのだろうと、そこには興味がある。

 西城がパクを紹介する。

「署長、こちらは真加部探偵社のパクミンヘさんです」

 署長はこれでもかと言うような笑顔でパクに言う。

「そうですか。私は署長の石田と申します」

 パクは彼の個人情報も入手済だ。生活安全課のおおつぼねと出来ている。さらに奥さんとは仲が悪いらしく。離婚話がたびたび持ち上がっている。娘が二人いるが、それとも疎遠だ。早い話、家に居場所がない。

「パクです。よろしくお願いします」

「パクさんはおいくつですか?」

 いきなり問題発言だぞ。ただ、パクは気にしない。

「23歳です」

「ほー、じゃあ、うちの娘と同い年だ」

 知ってるよ。いつも煙たがれているんだよな。トイレもじっくりと出来ないらしいじゃないか。

 心の声が聞こえたのか、署長が不自然な咳をする。

「えーと、先日のホテル殺人事件ではお世話になりましたね」

 パクはうなずく。

「公安の調査で確かにミンヤーという諜報員がいることは判明しました。さらにあのホテルにいたことも間違いない様です」

 パクは当たり前のことを聞くなという顔である。

「ミンハー、偽名でスズキイチロウですが、奴の渡航履歴もわかりました。それによると事件の5日前に来日している。茨城空港です。そしてその4日後にグランドロイヤルホテルに泊まっています」

 署長はメモを見ながら話している。

「事件当日、そのまま日本を離れていました。羽田から仁川空港に向かったようです」

 パクはそれについてもわかっていた。出国記録などあっというまに入手可能なのだ。

「それでミンハーの日本での行動履歴についてうちが調べるようにと指示が出ています。まあ本来は公安が担当すべき案件だとも思うのですが、殺人事件の担当は所轄になっています。それでうちの署が担当になります」

 パクはそこまでで何を依頼されるのか見当がついた。

「茨城県警にも依頼はしていますが、県警の動きは遅いようでね。上からは急げ急げと催促されています」

 面倒になったのか、パクがそれを継ぐ。

「つまり、ミンハーの行動履歴を探れと言うんですね」

 署長は助かったと言った風で「そうです」と言う。

 パクはざっと計算する。

「四日分の履歴を当たります。それで私が担当するのはあくまで行動履歴です。具体的な証拠固めはそちらでお願いできますか?」

「はい、大丈夫です。証跡についてはうちが担当します」

 呑気に聞いていた西城がはっとする。もしやそれは西城の仕事になるのではないか。

「了解です」パクはそう言ってざっと計算する。「必要経費込みで20万円でどうでしょうか?」

 それを聞いて署長は満足する。これで交渉成立だ。

 パクはミンハーの行動履歴を当たる。それにしても茨城空港とは格安エアラインで経費をケチったのだろうか。中国の諜報員も金欠か。どこか不自然な気がする。ただパクにとってはそれほど難しい仕事ではない。

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