ナパの告白
真加部の話を聞いたナパは涙を流す。そして頭を振りながら少しづつ話し出す。
「ごめん、ごめんよ」
真加部はそれを黙って見ている。
「実は私があんたを組織に売ったんだ。あれは誘拐じゃなかったんだよ。ダディから連絡が無くなって、もうお金も無くてね。あんたには悪いと思ったが人身売買の組織に話を持って行ったんだ。それと、なんだか、あんたが怖くなってきたんだよ。4歳ぐらいだったけど、それこそその辺の子供には無い力を持っていたし、運動能力は恐ろしいぐらいだった。大人顔負けだったしね。それどころか、頭も良くてね。なんだかとんでもない者を育ててる気にもなった」
「怪物だな」
「ごめんよ」
「組織の連中が言ってたよ。俺は売られたんだってな。だからあきらめて従えってな」
「知ってたのか?」
「子どもだから、鵜呑みには出来ないさ。だってマーマーがそんなことするなんて思えなかっただろ」
ナパは首を垂れる。
「最初は面食らった。どうしてこんな目にあうんだろうってな。マーマーが俺を売るはずないって。でもそのうち、そうなのかなとは思いだしたよ。まあ、それで余計に抵抗する気にもなったんだけどな。俺は骨の髄まで闘争本能の固まりみたいな獣だったんだよ」
「私を恨んでるんだろう」
真加部はナパをじっと見る。そして笑う。
「そんなはずないだろ。俺を5歳まで育ててくれたのはマーマーだ。本当の子供じゃない俺をね」
ナパはふたたび大粒の涙をためる。
「まあ、そんな風に思えたのは文伍のおかげもあるんだ。文伍が言うには出産だって命懸けだし、子育てで一番大変なのは、5歳までだってさ。だから俺はマーマーのおかげで生きてこれたんだ。俺の母親はマーマーなんだよ」
ついにナパは泣き崩れる。
「マーマーが元気で生きてくれて、こうしてまた会えて本当にうれしいんだよ」
ナパが真加部を見上げる。
「俺を生んでくれてありがとう」真加部はナパをやさしく抱く。「それにしてもなんでマーマーを拉致するんだろな」
ナパは首を振る。
「でも、あんたが立派になって、こうやって助けてくれて、うれしかったよ。これでこれまでの胸のつかえも少しは取れた気がするよ。大丈夫だよ。あとは自分で何とかするよ」
真加部は首を振る。
「マーマーが安心して暮らせるようにするよ。ただ、少し待ってくれ。俺は行かなくちゃいけない。その間はブラックスワンにマーマーの保護を頼むから」
「え、何だって?」
「ブラックスワンっていうアメリカのエージェントだよ。俺も昔、そこで働いていたんだ。タイにもそこの人間がいる。だからしばらくはその保護下にいてくれ」
「そんなに甘えられないよ」
真加部はナパの肩を掴む。
「マーマーは大事な人だ。俺が守る」
「あいつらギャングだよ。無事じゃすまない」
真加部が笑う。
「大丈夫だ。マーマー、俺はいままで仕事でしくじったことがない。100%の成功率だ。どんなギャングだってぶちのめすさ」
ナパは初めて笑顔を見せる。
真加部の携帯が鳴る。表示名を見て話しだす。
「パク、何かわかったか?」
『ああ、わかったぞ。モー・アンはミャンマーにいる。タイとの国境地帯だ』
「ミャンマー?」
『そうだ。捜索範囲を海外に広げてヒットしたんだ。モー・アン、本名はアヌラック・メッタータムだな』
「それで今はそこにいるのか?」
『おそらくだ。ミャンマーは今、政治不安の真っただ中だ。それとタイ国境は無法地帯に近い。ついこの前も中国の特殊詐欺の連中がいただろ』
「ああ、そうだな」
『2010年以降にモー・アンらしき医者が、カレン族の村にいたことがわかっているんだ。具体的にはカイン州だ』
「カイン州か」
『行くのか?』
「行くしかないだろ」
『山岳地帯だぞ。それも紛争地帯だ。気を付けろ』
「俺を誰だと思ってる。アルラアナだぞ。紛争地帯などものともしない」
『ああ、そうだったな。あと、それとナパが狙われてる理由だが、どうも裏で中国が動いている可能性がある』
「え、どういうことだ。なんで中国なんだ」
『悪いな。それもまだよくわかっていない。もう少し時間をくれないか』
「わかった」
真加部はミャンマーに向かう。




