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私立探偵 真加部阿礼  作者: 春原 恵志
真加部阿礼の過去
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阿礼の過去

 ナパは神妙な顔で真加部を見る。

「あんたはどうやって生き延びたんだい?」

 真加部は遠い目をする。彼女にとって忌まわしい過去なのだ。

「あの日、いきなり拉致された。それこそ何が起きたのかまったくわからなかったよ。気絶させられて気が付いたら、どこかの部屋に入れられてた。そこには同じような子供達が大勢いたんだ。みんな縛られてた」

 ナパは青ざめている。

「ほとんどが同じ年頃の子供達だった。俺は何が何だかさっぱりわからなかったよ。今はわかるよ。あれは幼児誘拐だ。今でもタイで幼児誘拐は続いているらしいな。子供を売り買いする。タイにはそういった闇のシンジケートも存在している。そこでは子供が高値で売り買いされる。そうしてほとんどが性奴隷として人間以下の扱いを受ける。男だって同じだよ。いたぶられるんだ。そういった変態野郎が世の中にはうじゃうじゃいるってことを思い知らされたよ」

 ナパは増々青ざめる。

「あんた、どうやって逃げたんだい」

「逃げるという考えが無かったんだよ。5歳の子供がどこにどうやって逃げたらいいのか、わからないだろ。だが、俺は性奴隷だけは拒否したんだ」

「どうやって」

「俺は自分でもよくわかってないんだけど、人一倍、運動能力が高いだろ。5歳でも大人顔負けの力があった。いや、それ以上だったな。だから、誰が相手でもぶちのめしたんだ」

「でも相手は大人だろ」

「最初は多人数じゃ、敵わなかったよ。その時は見事に凌辱されたよ。ただ、何度も戦った。相手のナニをかみちぎりそうになったこともある。それなりにひどい仕打ちを受けたこともある。お仕置きだってな。ただ、俺は抵抗を続けた。でも買い手がそんな餓鬼をもらい受けないだろ。客のナニを引きちぎるかもしれない子供だ。それで組織も手を焼いたんだ。そのうちに俺も段々と知恵をつけてきた。6歳になるころには、奴らの仕事を手伝えるまでになってきた」

 ナパは目を丸くする。

「そ、それはどういうことだい?」

 真加部が含み笑いをする。

「殺しだよ。殺す相手は子供だと油断するだろ。それを利用するのさ。組織の連中も使い勝手がいいってことで重宝したみたいだよ。とにかく俺はもの覚えも良かったんだよ。銃だろうが、格闘だろうが、なんでも一回教えられると完璧にマスターするんだ。これは自分で驚くぐらいだったよ。そんな時に組織がアルカイダと取引したんだ。凄腕の餓鬼のアサシンがいるってな。子供のアサシンだと人身売買組織よりも、はるかにアルカイダの方が価値を認めるんだ。あいつらは戦争をしてる。人殺しが出来ればできるほど、その価値が上がる。俺がいくらで売られたのかは知らないが、組織内でちまちま人殺しをしてるよりも、価値のある値段だったんだろうよ」

 ナパは首を振る。自分の行為を恥じたかのように。

「そうして俺はパキスタンに連れていかれた。当時はパキスタン政府がバックにいて、そういった傭兵を使って軍隊を編成していた。そこで俺は軍人としての訓練を受けたんだ」

 真加部は不敵に笑う。

「そこでも俺の能力は抜きんでていた。教官たちは信じられないといった顔だったよ。そこで1年もたたずに戦場に行かされた。アフガニスタンだよ。当時、タリバンは劣勢だった。米軍を中心にした多国籍軍、NATOが参入してきていた。それの対抗措置としてパキスタンが送り込んだのが、俺たちだった。ただ、米軍の相手じゃなかったよ。あいつらは最新鋭の武器と数で押してくる。俺たちは所詮、ゲリラ戦しかできない」

「よく生き残ったね」

「悪運がいいんだろうね。まあ、そんなときに、さっき言った文伍に拾ってもらったんだ」

「文伍」

「日本人だよ。俺は日本語を覚えてたんだ。何故かその言葉を聞いたらもう動けなくなった」

「ダディのことを覚えてたのかい」

「それはわからない。でも日本語には聞き覚えもあったし、文伍を親父と思えたよ。俺は文伍と知り合えて、初めて人間になれたんだ。それまでは単なる野獣だった」

 ナパの目から涙があふれ出した。

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